100 王都を背に
アイたちは馬車に乗ると、自分の故郷に向けて旅に出た。
馬車に乗って進むと、あれだけ時間をかけた王都への道を半分以下の日数で、アイたちは実家の屋敷へと近づいて行った。
五人で進む道中は、にぎやかだった。
さすがにシードル達と旅をしていた時に比べると、エスやネロ、ベリィもいるので、アイは明らかに甘やかされていた。
通り過ぎるそれぞれの街に、アイにとっては大切な、冒険者としての思い出があった。
アイはシードル達のことを思い出す。
シードル達は、プリンの一件が片付いたことを知らされると、王都に戻ったようだ。
アイは、会ってしまうとまた王都を離れづらくもなるので、彼らには会わずに出てきた。
ネロとエスは交代で御者の隣に座っており、今はネロが馬車の外に出ていた。
馬車の中には、アイ、エス、ベリィ、サーシャの四人だ。
「はぁ……」
馬車から、窓の外を身ながら、アイはため息をついた。
そんなアイの様子を、絶対に見逃さないのが、サーシャだ。
「アイ様。恋の病ですか?」
「違うから。いつかまた、冒険者やれるかなぁって思って」
「アイ様……ご要望とあらば、いつでもお供しますよ」
屋敷の執事なのだから、本来そんなことをいうのはおかしいのだが、エスは笑顔でそう言った。
「エスは信頼が置けないからなぁ。プライバシーがすぐ侵されるし……」
「ウチも行きます!」
ベリィも元気よく挙手した。
本当に、旅路を通して、ベリィはアイの舎弟かのような振舞いをするようになっていた。
あの頃のどこか冷たいような、計算高いような面影は、今のベリィには全くない。
それでも、ベリィはその頃よりも、よっぽど楽しそうに笑う。アイはそれが何となく、嬉しかった。
「お前はダメだ、小娘。邪魔をするな」
「何でだよ、エス!」
「まあ、冗談はさておき、きっといずれは、自由に冒険できるようになりますよ」
サーシャは珍しく、アイを元気づけた。
「そっかな。そうだといいな……」
「そうだ、お嬢様の実家を破壊するというのはどうでしょう?お父様方が反対しないようになれば、アイ様も晴れて自由の身」
「ねえ、君は家に雇用されるつもりなんだよね?」
「そうですが?」
「お父様との面談で、そんなことを言わないでね……落とされるから」
冗談とはわかっているが、アイは素直にツッコミを入れた。
「何をおっしゃっているのですか、アイ様。屋敷の人事は私が担当しております。つまりこの女は不採用です」
エスはサーシャをそもそも屋敷に入れるつもりはない、と、そう言った。
「何ですって、エス。じゃあ勝負して私が勝ったらその地位そのものを、私に譲りなさい」
「何だと?望むところだ」
「はーいはいはい、もういいから。サーシャは私が雇う。私だって、無駄遣いせずに、冒険者の時の依頼の報酬は貯めてるんだから……」
アイはつまらない諍いを終わらせた。
「何?アイ様のポケットマネーをこんな女に崩させるわけにはいかない。仕方ない、採用するとしましょう」
「ありがとうございます、エス様」
「よろしくサーシャ。アイ様のために共に働こう」
「いや切り替え早っ……さっきまで喧嘩してましたよね、あなたち……」
思わずベリィがそう言った。
アイはふと、また窓の外の景色に視線を戻した。
窓に反射して映ったアイのその口元は、先ほどため息をついたときとは変わって、少し、緩んでいたのだった。
そんな馬車の中の賑やかそうな様子とは裏腹に、ネロは先ほどのアイのように、ため息を吐いて景色を見ていた。
もう会えないかもしれないと思い、ネロは手紙に全てを書いた。
しかし、再会時のごたごたで、そのことを話すタイミングも失ってしまった。
カラム団長がこの先どうなるかわからないが、ネロは自分の想いを以前よりは抑えつける気はなかった。
しかし、アイはそんなことなど忘れて、すっかり楽しそうに笑っている。
アイが楽しそうなのは嬉しいが……
この先どうしたものか。
ネロは再び、深いため息を吐いた。
お読みいただきまして、ありがとうございます!
100話をもって王都編終了ということで、この物語はこの先、帰還編あと数話をもって、ひとまずの完結を目指す予定です。
推敲しつつ、変わらずハイペースでの投稿になると思いますが、もう少しお付き合いいただけると幸いです。
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この先もお読みいただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。




