101 里帰り
アイたちは、数日かけて、自分の実家のある、王国の東へと帰った。
道中は何事もなく、冒険者として来た道を、観光気分でアイは帰ることができた。
家に帰ると、母と父が出迎えた。
以前、アイが行方不明になった時よりも、二人は疲れた顔をしていた。
一応、事前にキッシュが手紙をしたためてくれた事もあり、アイたちが帰るのは知っていたようだったが、それでも二人は現実とは思えないというほどに、感動してアイを出迎えた。
こうして、親を悲しませるのは何度目だろうか。
アイは、自分の親不孝を少し反省した。
メイドのミルフィーユは、以前と同じように涙と鼻水全開で、アイに抱き着いた。
アイの両親を押しのけて。
「ア゛イ゛しゃまぁあぁ~~~~ッ!!!」
「み、ミルフィーユ、ただいま……ちょっと苦しいかな……」
「アイ、立派になったな。まさか、第三王子から手紙をもらうとは。それでも、お前の無事を知り、嬉しかったよ」
父は、アイを誇らしげに出迎えた。
「アイ……私はもう涙が枯れちゃったわ。でも、いろいろ考えることもあったの」
アイに何かあると、今までは息ができなくなるくらい泣いていた母親が、今回は少し冷静に出迎えた。
「ううん、お母様。心配かけてごめんなさい」
「カラム様の件、聞きました。私は……アイがカラム様と結ばれれば幸せになれると思っていた。けれど、そのせいでこんなことが起きてしまったの。だから、だからごめんなさいね、アイ。私はもう、あなたが無事なら、どんな生き方でもいいわ」
「お母様……」
「自分の選んだ生き方で、それでも、できれば安全に、生きて。魔法を使うことも、もう注意しないわ」
「お母様、ありがとう。心配かけないようにするから。できるだけだけど……じゃあ、そんなにマナーにも気を使わなくていいかな?」
「それは話が別です。マナーが、人を、作るのです。それはアイがどんな生き方をしようが、その人生の前提に、常にあるべきです」
「は、はい……」
勢いで行けそうだと思ったアイは、普通に母親に怒られてしゅんとした。
「それはそうと、皆を紹介させて」
アイは、今回の旅で加わったみんなを、両親に紹介した。
サーシャとベリィは初対面だ。
「こちらはサーシャ。キッシュの使用人だったんだけど、私についてきてくれたんだ」
「サーシャと申します。よろしくお願いいたします。お母様がアイ様の生き方を認めてくださったおかげで、私も余計なことをしなくて済みました」
「余計なことしなくていいし、言わなくていいんだよ!」
アイは思わずツッコミを入れた。
アイの母がアイの自由を認めなければ、本当にサーシャはこの家を破壊するつもりだったのだろうか。
しかし、エスとは雇用することで話がついていたようだし、アイの両親もサーシャを歓迎した。
「そして、こちらがベリィ。ベリィは……友達?」
「と、ともだち……」
ベリィはその言葉を聞いて、嬉しそうにはにかんだ。
「おお、そうか。にぎやかなのはいいことだ。みんな、いくらでも滞在して、くつろいでくれ」
アイの父親はネロやベリィにもそれぞれに部屋を用意し、アイたちは旅の疲れを取るために、ゆっくりと休んだ。
ある日、広間の二階で、アイは手すりに上体を預けながら、ネロと話していた。
「それで、これからどうする?いきなり五人で、騎士団の拠点に殴り込む?」
「アイ様……最近なんか過激ですよね……」
「そう?なんか、吹っ切れたかも。もっと自由に生きていいのかなって」
「まあ、それはいいことですが……拠点に殴り込むのは、少し危険性が高すぎますね」
「ふふ、情報収集が必要ですか?」
突然何もない空間から、ベリィが表れて、二人は驚愕する。
透明化の能力を使ったようだ。
「おい!」
「ちょっと!やめてっていってるでしょ、それ!」
「ご、ごめん……」
アイとネロの二人に怒られて、ベリィは素直に謝った。
「しかし、話は聞かせてもらいました。私に任せてください。騎士団の状況を探ってきますよ」
「まあ、確かにそれは助かるが……」
「本当に大丈夫?結社も本気になれば、ベリィのことを見つけられるんじゃないの?」
「その時はその時です。敢えて危険を犯すものこそが、勝利する。そうでしょ?」
そうして、アイたちは、ベリィに情報収集を任せることにした。
ベリィは何日か後には無事に戻ってきて、その成果を皆に伝えた。
「事は急を要します。カラムとキャロリンは、近々、騎士団を引き連れ、北方の活火山地域へと訪問予定です」
「それがどうして急を要するの?」
「どうやら、そこでカラムがキャロリンに婚約指輪を渡して、儀式を執り行うしきたりのようです。これは紅蓮騎士団の伝統みたいですね。つまり、結婚秒読みってことです」
「なるほど……結社の目的はまだわからないけど……」
「結婚それ自体が、”鍵”を手に入れる前提になっている可能性は高いのでは?マドレーヌも元々、カラムとの結婚を目指していたはずです」
エスがそう言った。
もしそうであれば、正式にその段階が進むことは避けたいと、アイも思った。
「それに、騎士団員全員を連れていくわけでもないでしょう。叩くなら、そこですね」
外出がわかっているのなら、チャンスなのだと、サーシャはそう考えた。
「よし、決まりだね。ネロもそれでいい?」
「異論はないが……一つ気になることがある」
「なに?」
アイはネロに尋ねた。
「なあベリィ、鍵っていうのは、基本的には何か、形を持った、物っていうことなんだよな?」
「ええ。正確には、いくつかの条件を経た後の、貴重な物品ですね」
「だとすれば、カラム団長と結婚することで手に入る物品って、何だ?」
アイはしばし考えた。
「さっき言ってた婚約指輪……それか、結婚指輪?他にも、手に入れるものは沢山あるだろうけど……」
「騎士団のしきたりは知っている。歴代の団長は、北方の祭壇に赴き、そこで婚約指輪に祝福を授ける。すると、その指輪は特別な力を持つようになるそうだ」
「じゃあそれじゃん!」
明らかに鍵らしい特徴を備えた、婚約指輪の話を聞いて、アイは素直にそう思った。
「だとすれば、結婚そのものさえ目的ではないかもしれない。指輪を第一に考えなければ。その指輪の在処はわかるか?ベリィ」
「いえ、それは私も探ろうとしたのですが、キャロリンですらわかっておらず、おそらくカラムからも情報を引き出せていないのかと。そう考えれば、そもそもカラムでさえ知らない可能性が高いですね」
「なるほど……どうする?まずは指輪の在処を探す?」
「いえ、既に儀式まで時間がありません。キャロリンもそう考えているでしょうが、儀式のその場所には、必ず婚約指輪があるはずですので……」
「キャロリンが指輪を手にするその時に、奪えばいい」
アイは、ベリィの言葉を先読みして、そう言った。




