第十一話 私がお仕事を初めてたった数日でまさかの怪しさ満点なお客様がご来店
何と4か月もの間更新停止という、大失態。待ってた人本当申し訳ございませんでした!
「クソ、クソッタレ! 今回の夜は尋常じゃない瘴気を放っているぞ。このままだと印の効力が切れちまう……!」
「お、お兄ちゃん。どうしたらいいの?」
「安心しろ、俺が必ずお前を守る。絶対に、ぜ……!?」
猟銃を手に持った青年が妹にそう言い聞かせていたその刹那。
扉に貼ってあった印がバチンっという火花のような音と共に消滅し、いきなりドンドンドンっと激しく扉が叩かれる。
青年は「神よ……!」っと縋るような気持ちで呟くと。妹にベッドの下へ隠れるように命令する。
「お前は早くベッドの下に隠れるんだ!」
「お兄ちゃんは!?」
「俺はこの銃がある…… 大丈夫だ、とにかく奴らがもうすぐ入ってくるだろうから絶対にそこを動くなよ!」
「まっ……」
彼は妹に言い聞かせると、彼女の言葉を遮るように、ベッドの下に隠れた妹を毛布で見えないように隠す。それから自分はドンドンっと若干悲鳴じみた軋みを上げて叩かれている扉へ走り、扉に向かって猟銃を構えた。
ドカァァァァっという激しい音を立てて、扉が壊され、中に何かがジャラッ…… ジャラッ…… っという鎖を引き摺るような音を出しながら入ってくる。
姿形は何やら人間のような姿をしている大きな鉈を持ったソレは、ゆっくりと青年に向かって歩みを進めた。
「クソッタレが、死にやがr」
彼が侵入者である怪物に向かって怒声を上げ、銃を構えようとしたその時。
侵入者はそれよりも速く、鉈を振り下ろし、青年の身体をまるで薪を割るかのように縦へ割く。
それによって、ドパっという音を立てて血が辺りに飛び散り、醜い色の臓物が水気を立てて地面へ流れ落ちた。
侵入者は自分が殺した青年だった者の、肉塊をチラッとだけ見ると、すぐに別の場所へ目を移す。
「ひっ…… いっ……! ひっ、ひっ……!」
青年の妹である少女は、一部始終を見てしまい、ベッドの下から両手で口を塞いで叫びたくなる気持ちを必死に抑え込んだ。
少女の頭や身体に今まで付いていなかった、大量の血が付着している。きっと、先程の怪物が兄を殺した時に飛び散った血だろう。少女の胸の鼓動は早鐘のように早く、強く脈打っている。いつ気絶してもおかしくないぐらいだ。
侵入者は、辺りを見渡して何も無い事を確認すると、鉈を引き摺りながらどこかへと去っていく。
少女は奴が消えていても、ただただ、震える事しか出来なかった。
☆
喫茶店『ワンダーランド』
「美人の姉さん、オススメのワインを頼む」
店内に黒いフードとコートが特徴的な男は、カウンターに座るや皿を布巾で拭いている私へお酒を注文した。いやいや、見るからにここは喫茶店であって、Barじゃないからお酒は無いでしょ。
カウンターの後ろにある棚にも酒らしき物は一つも無いし、グラインダーやコーヒーカップやソーサーなら沢山並んでいる。正に喫茶店。外に置いてある看板にも『喫茶店ワンダーランド』と書いてある。
まず、間違える事は無い筈だけど……
「申し訳ございませんが、ここは喫茶店ですのでお酒はございませんよ、お客様」
「あっと、そうだったのか。すまないすまない」
彼はそう言うと、ハハハッと朗らかに笑う。男は全身黒ずくめなうえ、フードで顔を覆い隠してるから怪しさしか無かったけど、案外気さくで良い人なのかもしれない。
「通りで、珈琲の良い香りが漂っていたんだね」
「えぇ、その通りです。お酒は出せませんが、当店自慢の珈琲と軽食なら出せますがいかがしますか?」
「そうだな、じゃあ珈琲を一杯頼むよ」
「かしこまりました」
私は注文を受けると、頭を下げてから、バリスタを担当している愛に頷いて合図を送る。彼女はすぐに笑顔で頷き返し、珈琲を淹れ始めた。
「ところで君達、ソロモンは何処に居るか…… 分かるかな?」
「ソロモン?」
ソロモン72柱を統率しているあの王様の事かしら? この世界だったら実在してもおかしくないけど…… 居たら面白いわね。
「何故…… その名前を?」
「ちょっとお忍びで彼と会わなくては行けなくなってね…… ソロモンを知っているという事は、君は彼の関係者かい?」
彼が顎に手を当てて、何やら含みを入れて愛に問う。愛はごくりっと、喉を鳴らして緊張した表情になり、男が何かを悟ったように「なるほど」っと、呟いた。
「ここが、彼の根城だったのか」
「何をするつもり…… ですか?」
「危害を加えるつもりは無い、神に誓ってね」
男はそう言うと、首に掛けてあるネックレスを私達に見せる。ネックレスの先は十字架となっており、彼が教会の人間というのが一目瞭然で分かった。いや、それだったらますますここを襲撃するのでは? 教会は化物を一掃する機関を有しているっと聞いたし。
ソロモンと呼ばれているのは誰か分からないけど、取り敢えず私は愛が淹れた珈琲をそっと、彼の机に置く。
「ありがとう」
「いえいえ、仕事ですから。ところで、一つお聴きしても?」
「良い香りだ」っと言って、黒い手袋を外してから珈琲カップを手にする彼に、気になる事があって質問する。
すると、男は快く頷いた。
「あぁ、一体何だい?」
「貴方が教会の人間っていうのは分かった、危害を加えないっという事も。危害を加えるつもりだったら、この喫茶店はきっとリフォームせざる負えないぐらい、大変な事になっている筈だもの」
「それは確かに」
「もしかしてだけど、そのソロモンに会う理由って…… あれかしら?」
私は彼に話しながら、男とは離れた所のテーブル席に座っている一人を指差した。
「おや、気が付いたのかい? 彼女は化物には見えない透明の印を施している筈だが……」
「残念ながら、私は人間よ」
「ほう、それは初耳だ」
彼は興味深そうにそう頷くと、珈琲を一口飲む。
「うん、美味い」
「教会の人間って、化物が淹れた飲み物なんて絶対飲まないと思ってたけど」
「確かに、頭の固い奴等だと、口に含んだ瞬間吐き出すだろう。だけど、俺は教会の中でも変わっているっと言われててね。別にそこまで気にならないのさ…… っと、やあ、ソロモン」
彼は会話を途中で切ると、入口から私達の様子を見に来たMasterの姿を見て、手を上げてから挨拶した。その際、彼をソロモンって呼んだけど、Masterがそのソロモン。っていうか、彼は教会っと関わりがあったの?
「あ、しまったのう」
「しまったっという、言葉は聞きたく無かったな、ソロモン。おかげで一匹怯えてしまった」
彼はそう言うと、チラッと愛の方へ視線を向ける。すると、愛はビクッと反応して、それから私の背中に急いで隠れた。可愛い。教会は相手を化物と見るや、容赦無く断罪対象として殺す機関として有名だから、それは獲物を狙うハンターにしか見えないわよね。愛が怯えるのも無理はない。可愛い。
「それでは、別の場所で話そうか、教会の影君」
「そうだな、それではここはお暇させて頂こう」
男は珈琲を飲み干すと、ゆっくりと立ち上がって歩き、それから扉を開けて外へ出る。
「今日のシフトは全員休みになってなかったかのう?」
「なってないわよ、全く。誰にも見られたくない重要事ならちゃんと入念にチェックしなさいよ、ボケ老人」
「うむ、何も言い返しきれないのう。全く持ってその通りじゃ。けど、ちょっとは年寄りを敬ってくれたまえよ」
Masterはわざとらしく、おろろんっと泣き顔を見せつつ、教会の男…… 影だっけ? を連れてどこかへと去っていった。
誰も居なかったらここで話し合いをするつもりだったのだろうが、もう私と愛が店を開いて働いてしまっているから、出来なくなったのだろう。今更店じまい出来ないしね。
うん、やはりシフト表の変更を描き忘れていた管理者であるあのぼけ老人が悪い。
「あ、あの……」
「どうしたの、愛?」
愛が恐る恐るといった感じで、私の袖をぎゅっと握って話しかける。私はすぐに彼女に身体を向けて、返事を返すと、困ったように口を開いた。
「えっと、あの教会の人…… 恐らく、Masterと関係している重要な人…… 置いていってる。見えないけど、まだ誰か居る気配がするし……」
「あっ」
言われて気づいた私は、すぐに教会の影が座っていた所とは反対側に座っていた席へと目を向ける。
すると、やはりというか、まだその人間はボーっと座っていたのだった。
影が置き去りにした人は、彼と同じく黒のフードで顔を覆い隠しており、身体も黒のローブで身を包んでおり、身分が教会関連っという事しか分からない。全くどんな人物か分からないが、そのまま放置するわけにはいかないわよね……




