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紫煙の鎖  作者: Blood orange
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ギルティーチェーン

 オレはそのまま地面に寝転がると「くそ…良いパンチしてやがるぜ…」悔し紛れに呟いた。

あまりにも苦しくて咳き込んでいると、自分の上着のポケットの中に紙が入れられているのを知った。

折り畳まれた紙を広げるとあの刑事の字だ。

 [高柳 美里 西京病院206号室]


オレは腹を押さえながらも立ち上がると大通りへと向かって歩いて行った。

タクシーを拾って行き先を告げると、今のオレに何が出来るのかを考え始めた。

親父や刑事が言うようにただの高校生のガキのオレには何も出来やしない。

携帯で、オレの執事に連絡をとると高柳 美里について調べさせると結果を持って病院の前で会うことにした。


病院の前にはすでに資料を持ったオレの執事で黒部と言う男が待っていた。

黒部は執事見習いをやっていた。オレの執事を辞任した岩崎の後釜として正式に執事になった。


「尚様、こちらが例の資料でございます」


「ああ」


黒部から受け取るとすぐに資料に目を通した。

親父には内緒であの少女ー高柳 美里の事を調べ始めた。

高柳 美里 スーパーのレジで働く母親と二人家族で、父親は一般企業のサラリーマン。

少女の目の治療費は、全額日高財閥が請け負っているが、母親はそれさえも拒んでいると言う。


あの高柳美里がオレの父親からの謝罪と言う名の示談金を蹴った時のことも書いてあった。

岩崎が高柳夫妻の前で土下座して謝ったと書いてあった。

あの岩崎が?

金が入った袋を手渡したが、投げつけられて返されたと書いてある。

「岩崎…」

報告書によれば、岩崎はあれから毎日のように何度も足重しく、高柳美里に会いに行っていた。

オレの執事を辞したのは、そう言うわけだったんだ…。

『どうして私にけがさせた人がここに来ないの? 変よ。それにこのお金。何? おじさん、こんなことよりも言わなきゃならないことってあるよね? 悪いことをしたら謝るのが普通なんでしょ? 謝る前にどうしてお金が来るの? バカにしてる。いらない。こんなお金』


『も、申し訳ない』


『もう帰って。顔も見たくない…って言っても、私はこれから太陽さえも見れないんだった』


その後、岩崎は頭を下げたが少女は自暴自棄になって言った言葉に、自分で笑い出したと言う。

オレは調書を握りしめると、さりげなく少女のーいや、高柳美里の病室を覗いてみた。

顔…目の部分には包帯が巻かれていた。

あれから何度か目の治療をしたと書かれていたのを思い出した。

自分が引き起こした事件…それを思い出したオレは途端に重い罪の十字架を背負わされた気になった。

今まで被害者の少女の事なんて気にも留めてなかった。

両足が罪の鎖でつながれたように一気に重く感じた。

一歩一歩、歩を進める度に報告書に書かれていた少女の一言一句が、全てオレの頭の中でリフレインされていく。

そろそろ帰ろうとした時に、少し衣擦れの音がしたらしく「誰?」と小さな声で聞かれた。

「血のニオイがする。けがしてるの?」

心配そうに言って来る高柳美里の声にオレは心の中で叫んでいた。

これはあの刑事に殴られた時のだ。

オレにそんなに優しくしないでくれと。

お前の目を見えなくしてしまったのは、オレなんだから。

「だ、大丈夫だ。かすり傷だよこれ」

掠れたオレの声に高柳美里はほっと胸を撫で下ろした。

どうして、加害者のオレに優しく出来るんだ?

何を話していいのか分からず、ただオレはずっと黙っていた。

どれだけ時が過ぎただろうか。教授による巡回検診が始まり、この病室にも教授達がやって来た。

病室に入って来た教授は、まず先にオレの顔を見て驚いた。

さすがにオレの名前までは出さなかったが、オレを一瞥すると面会時間はもう終わりましたからと帰るように促した。

オレが病室から立ち上がろうとすると寂しそうな声で言って来た。


「もう、帰っちゃうの?」


「ああ」


やめてくれ。そんなに優しい言葉をかけないでくれ。


「また来てくれる?」


どうしてそんな縋るような声で聞くんだよ。


「また来てくれる? 私一人で寂しいの」


何も答えなかったオレに、何度もまた来てくれるかと聞いて来た。

聞かれるたびにオレは自分のしでかした罪の重さに打ち拉がれた。


「ああ…また来るよ」


「良かった」


少女のあどけない笑顔を見て、オレは少女の前で膝をついた。

オレは学校なんて嫌いだった。行かされているとしか思っていなかったからだ。

でも、彼女は行きたいのに行けないのだ。


オレは小さな声でごめんとだけ言うと病室を出た。

病院を出る前に教授に呼び止められ、あの少女の病状を聞かされた。

左目は完全に失明になったが、右目は何とか弱視で押さえれることが出来たと聞いた。

それでも視力を失うのは時間の問題だと言われた。

オレは、岩崎のようにこの少女のために何か出来ない事はないだろうか…。

いつの間にか、オレの中でそんな考えが芽生え始めて来た。








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