オレばかりが守られていた。
「尚ちゃん…あんたはあの女の子の光を完全に奪ったのよ」
母親が泣きながら、オレの耳元で叫んでいた。
「え…?」
オレが冗談言っていると思ったのか、親父はオレの胸ぐらを掴むとオレの体をガクガクと揺さぶった。
「お前が持っていた持っていたタバコの火が…あの子供の目にあたって失明させたんだよ。あの子はあまりの熱さに顔をよけた時に運悪く飛び散った火種のカスがもう片方の目にあたったんだ…」
親父に言われた言葉は想像を遥かに超えていた。
タバコの火が人の目にあたったら失明するなんて…知らなかったとは言えない。
ネクタイを緩めた親父は、赤くなった拳を摩っていた。
「オレ…どうすれば…いい?」
ダメだ。
オレの体が震えてる。
今まで散々色んなことをやってきたけど、いくらやってもそれは悪戯で済まされるたぐいの物だったから、学校も親達も金で済ませていた。
だが、今回のオレ達の悪戯はあまりにも度が過ぎていた。
マリファナを自家栽培させ、それをタバコとして自分達が吸っていた。
これは、立派な犯罪だ。
それに禁煙禁止区域である公園内でオレは歩きタバコをしていて、子供にけがをおわせた。
「お、オレはどうなるんだ?」
オレの言葉を聞いた親父達は一様に軽蔑するような目を向けてきた。
「お前に何が出来る! 半人前のくせに! これ以上、私の顔を潰すな! あの子供の親には示談を持ちかけてるから、お前がこれ以上どうこうすることはない。分かったら大人しくしてろ!」
この時ばかりはオレは親父を一瞥すると、階段をかけ上った。
オレの背中に母親が呼び止める声がするが、オレは構うことなく部屋を出て行った。
高校は始まったばかりだが、宮田たちはそれぞれ二週間の停学。
それに対し、怪我をさせた張本人と言う事で、オレは1ヶ月の停学を食らった。
昼間はまだいい。
だけど夜はさすがに眠れなくなった。
暗闇の中、目を閉じるだけで、あの出来事が鮮明にフラッシュバックされる。
少女の胸をえぐるように叫ぶ悲鳴が。
熱い熱いと言って、側にいた母親らしき人物に訴える姿が。
何度も、何度も。
壊れたビデオテープのように同じシーンだけが、オレを責めるように蘇って来る。
その度にオレは広いベッドの上で震えた。
親父の秘書から貰った被害者の少女の書類には、少女はオレの6歳下と書いてあった。
オレが少女の事が書かれた書類を見ていた事を知った親父が、すぐに書類をオレから奪うと、シュレッダーにかけた。
「尚、お前はあの子に近づくな。これ以上あの子を悲しませるな。わかったな。お前がやった事はあの子から全てを奪ったんだ」
「分かってるよ」
そう、わかってるさ。
だけど、心配するくらい良いだろ?
まだ小学生だと言うあの子は、突然光を奪われて途方にくれてやしないかと心配になったオレは、次の日、家を抜け出して少女が通う学校へ向かった。
たった一週間で、あの少女が学校に登校出来るわけないのは知っている。
どうしてもオレはあの子のことを知りたくて、校門の側で立って待っていた。
だが、オレは肝心の彼女の名前もどこに住んでいるのかさえも分からない。
彼女がどこの病院に入院しているのかさえも。
ため息を吐いたオレの背後から声がした。
「あの子はまだ病院さ」
驚いて振り返ると先週、世話になった刑事が立っていた。
「あんたは…」
着いて来いと言われオレは刑事の後を追った。河川敷の鉄橋の下に来た。
「よぉ…ジュニア。今回ばかりはさすがのジュニアも、罪悪感感じてるって訳か…。なあ、ジュニア、あの子の事は忘れろ。あの子とあんたでは住む世界が違い過ぎる。それに、もうお前の父親が彼女の両親に示談金を払ったんだから、何もお前が心配するようなことはないんだぜ。お前が彼女の前に現れるだけで彼女が苦しむだけだ」
また金で解決させたのか。
今までだってそうだった。
幾ら払ったかは知らないが、あの子の親は本当に受け取ったんだろうか?
高校生と言う中途半端な自分はいつも、親父の手のひらで転がされている。
そんな自分にだんだんと腹が立ってきた。
あまりにも子供で、親父の庇護から抜けられない無力な自分に、あの日高財閥を引っ張ってく価値はあるのだろうか。
もしも、オレが反対の立場だったら…。
親父は金を受け取っただろうか…
あの人のことだ。金を受け取るよりも相手の会社を乗っ取る勢いで訴訟を起こすだろう。
そんな人だからな。
「うそだ…」
「うそか…。そうだな。あの子本人がオレ達警察の前で、出された示談金を岩崎って男に突き返して来たんだよ。まあ、警察の手前ってことで、岩崎って男も大人しく引っ込んだがな。だが今のお前に何が出来る? 他人に自分の尻拭いをさせて、土下座までさせているお前に、何が出来る? 骨の髄まで父親に甘えてばかりのお前に、何が出来る!」
「……」
辛辣な刑事の言葉にオレが屈するわけない。
岩崎が土下座?
どうして?
「なあ、あの子の…彼女の名前は?」
「知ってどうする?」
「オレにだってやれることがあるかもしれないだろ!!」
オレの鳩尾に一発食らわせた刑事は、「笑わせんなよ。ガキが」そう捨て台詞を吐くと、殴られた痛みで踞るオレを置いて何処かへ行ってしまった。




