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古都の陰陽道具訪問販売人 拙生さん 〜呪物もお引き取りいたします〜  作者: アワイン
1 ひとりかくれんぼのぬいぐるみ【呪物お引き取り】
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 拙生さんは俺を見ると、にこにこと紹介してくれた。


「稲葉だ」

「稲葉です! よろしくお願いします!!」


 俺にむかって、勢いよく直角にお辞儀をしてくる。いやいやいや!! 大の大人が中学生に頭を下げるの、俺はそういうの嫌だ!!


「やめてください! 気にしませんって……」

「甘やかしちゃ駄目だぞー。こいつ、今の人の世俗に慣れようとしている最中だからな」


 と、拙生さんに言われ……って、人の世俗?

 拙生さんを見ると、彼は自身のサングラスを指さす。


「自分の目をよく凝らして見てみなよ」


 目を凝らして? 俺は言われた通り男性を見た。稲葉と言われた相手は頭を上げる。……よく見ると二本の角が額から生えて、顔に黒のペイントのようなものがある……?

 明らかに人ではない容姿に、俺はよぎった言葉を口にする。


「……鬼?」


 集中するのをやめると、姿は普通の人間に見えてくる。


「GRADE! よく見破りました。こいつ変化中なの」


 拙生さんは彼の肩に手を置いて微笑む。


「こいつは、鬼の稲葉。二百歳。大江山の鬼で、ご先祖さんは酒呑童子に仕えていたんだ」

「あっ、そ、そうですか。僕は賀茂朝飛です。よろしくお願いします」


 相手は歳上なのだから、ちゃんと敬語と一礼の礼儀を忘れずに──。


「よろしくお願いします! 朝飛様!!」


 勢いよく頭を下げて、俺に敬称をつける。って、ちょっとちょっと!


「いや、なんで様なんですか!? 会ったときの対応なら呼び捨てか名字呼びでは!?」


 顔を上げてツッコむ。二百歳の鬼から中学三年生に対して様は普通ないし、異世界系のように「あれ俺何かしちゃいました?」的なことまだしてない!

 俺の言うことに稲葉さんは真っ青な顔を上げて、首を横に振る。


「滅相もない! 旦那が可愛がってる子に無礼をしたことが私の生き恥!」

「……拙生さん! この人に昔何したんですか!?」


 流石にこの下手ので様は見ていてない。他の人間はわからないけど、中学の俺がドン引くほどのへりくだりようはおかしいって!


「ああ、昔悪いことをした稲葉を高度一万メートルから楽しい楽しいパラシュートなしのスカイダイビングをさせただけだよ。途中で泣いて反省したから許したけど」


 聞かれた拙生さんはさらりと答える。いや、明らかにそれ!

 高度一万メートルは極寒な世界と聞いたことある。……想像つかない。悪さをした稲葉さんを懲らしめるために、昔にやったらしいけど。よ、容赦がなさすぎる……。

 俺は恐る恐る話しかける。


「あ、あの、稲葉さん? 僕というか……俺のことは、その、朝飛とか名前で呼んでいただけると嬉しいです。謙るというか、お互いにリスペクト……尊敬し合ったり、友だちとして仲良くなれたら私的には嬉しいです」


 俺の言葉に稲葉さんは怯えながらも顔を上げて、拙生さんに目を向ける。

 拙生さんは仕方なさそうに息をついた。


「……朝飛くんがそう言うならいいけど、失礼こいたら──稲葉、わかってるよな?」


 にこやかに笑いながらも、後半の喋りのトーンが低くなる。稲葉さんは涙目になりながら、何度も何度も首を縦に振っていた。稲葉さんが怖い人かと思っていたけど、もっと怖い人なの拙生さんの方でした……。

 言わないでいると、拙生さんから声がかかる。


「ああ、そうだ。朝飛くん。さっそく課題だけど、『今回のひとりかくれんぼの件の簡単に推理すること』だ。なんで今回のようなひとりかくれんぼの件が起きたか、簡単に推察してほしい」

「……できる範囲でやってみます」


 いや、流石に簡単ではない。けれど、できる範囲で解決できることはあるはずだし、拙生さんも無理難題を押し付けるはずはない。彼を見ると、いつの間にかにこにことしたように小さな紙袋を手にしていた。


「と、いうわけで、朝飛くんへのお助けアイテムー。これを持っていきなよ。中身見ていいから」

「は、はい」


 いつの間にその紙袋を……。紙袋を受け取って中身を見ると、真っ白な雑面だった。不思議に思いつつ見ていると、拙生が説明をしてくれた。


「顔につけるだけで、人やカメラなどの機械にも見えず、サーモグラフィーにも反応しない。身を隠す事ができる雑面。必要になるからあげるよ。悪用もできるけど……」

「それは流石にしませんよ!」


 オカルトの悪用は良くない。俺でもわかる。食いかかる俺に拙生さんは力強く頷く。


「信じているから、わかっているよ」


 信じると真っ直ぐに言われてしまう。……拙生さんから言われると弱い。絶対に悪用しないようにしつつ、この雑面を大切にしよう。

 拙生さんに見送られながら、俺は稲葉さんと共に地下鉄へと向かう。

 ICカードとかあるけど、たまに切符で改札を通る時がある。余裕があるときだけだ。

 今日は余裕があるので切符を買う。稲葉さんはICカードを使う。切符を通して改札を抜ける俺だけど、稲葉さんは後から入る。

 ピッという音が鳴って、こちらに来る稲葉さんに聞く。


「稲葉さん。俺が切符を買っている間は先に駅のホームに行っていいですよ……?」

「できません。朝飛様優先で」

「脅されたり馬鹿にされたり嘲笑されるのは嫌ですが、そう特別扱いされるのも嫌ですよ!」


 畏れ多い。俺の言葉を受けて稲葉さんは肩を縮ませる。


「……しかし」

「主従とかじゃなくて、俺は貴方と友達になりたいんです!」


 はっきりといい、手を出して稲葉さんを見つめた。友達になりたいと聞き、稲葉さんはびっくりしているようだった。


「……敬語、なくてええの?」

「ええんです」

「……素を出して、ええの?」

「ええのです!」


 ヤケクソで頷く。拙生さん、どれだけ怖がられてるんだ!

 俺と俺の手を何度か見つめたあと、恐る恐る手を差し出してゆっくりと握る。


「……わては稲葉。大江山の稲葉。ほな、よろしゅう」

「俺は賀茂朝飛です。よろしくお願いします」


 ちゃんと自己紹介をして手を放すと。


「ほな、朝飛殿。いきましょか」


 と、少し敬称のランクが下がる。……いや、そうじゃないよね?

 間違ってないけど、殿とつけられるほど俺は偉くないよ。


「殿は……っああ……それで、よろしくお願いします!」


 電車の時間や活動時間の制限を考えて、俺はそれで良しとする。

 この時、初めて拙生さんを少し恨んだ。



 地下鉄の電車に乗って、俺達はとある終点の駅に行く。

 大学というけれど、京都には大学がたくさんある。けど、事件が起きたニュースを見れば、何処の地区なのかは大体分かる。列車に乗って行ける範囲で良かった。

 俺は駅の看板を見ているけど、稲葉さんは興味なさそうに話す。


「国際会館……今のひとのもとはぐろーばるかぁ」

「近くに宝ヶ池と、小中高が付属した大学があるんですよね。ともかく、俺達が知るべきは被害者とその周辺のことです。事件が起きたアパートについては調べがついています。聞き込みをしてみましょう」


 昨日のうちに、事件が起きたアパートについて調べた。SNSからも情報を調べて特定をした。……SNSの写真で特定できるのもすごいけど、ネットでの特定はあまりしたくない。

 俺はポケットから携帯、スマホを出して、マップのアプリを起動させる。

 事前に保存済みしておいた場所の確認をしつつ、道を通っていく。アプリの道案内はとんでもないところに出るので、基本は自分の足だ!

 稲葉さんと一緒に住宅街を歩いて、目的のアパートに着く。事件が起きた場所は事故物件になる。それでも、安さで人が住まうこともがあるだろう。

 スマホをしまい俺はメモ帳と鉛筆を手にして、雑面を手に取る。

 稲葉さんに声をかける。


「稲葉さん。ちょっといいですか?」

「なん?」

「聞き込みについてなんですけど……」


 稲葉さんの見た目は怪しまれるし、俺が事件のことを聞き込みをするのも怪しまれる。それに、人に聞いてちゃんと教えてくれるのか。聞き込み調査は、探偵や警察など専門的な人がやるべきものだ。今の時代の聞き込み調査は怪しまれるし、法律もある。だが、妖怪や幽霊などには人間の法律は適さない。

 なるほど。だから、拙生さんはこの雑面を渡してくれたのか。


「──妖怪や幽霊、人外に聞き込みをしたいのですが、稲葉さんも協力してくれますか?」


 見えない人が妖怪に聞き込みする人の姿は、何もない場所に話しかけているようなもの。気が狂ったかと思われるので、身を隠す仮面をする必要がある。それだけでなく、稲葉さんがいるのは、たぶん拙生さんが頼んで俺の護衛をしているのだろう。


「朝飛殿の頼みや。ほな、協力しましょ」


 俺の願いに稲葉さんは了解してくれた。

 よし、あとは近くに居そうな妖怪や幽霊に聞き込みをするだけ。稲葉さんは変化を解いて、角やペイントなどを表して見えて、人に見えないようにする。俺は雑面を顔につけて、早速メモと鉛筆を手にした。

 目的のアパートを起点に、人外に聞き込みだ!

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