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家に一旦戻ってから私服に着替えて、バッグに必要なものを入れた。
時計を見ると、時間はまだある。
⋯⋯そうだ。ひとりかくれんぼの手順と五行について、調べておこう。スマートフォンを出す。
子供の頃、祖父が使っていた携帯は折畳式の携帯だったな。ひとりかくれんぼの話が流行ってるときは、まだ主流だったのかな。けど、今はスマートフォン。これ一つで検索と連絡ができるし、ひとりかくれんぼと調べればサイトと画像がすぐに出る。
昔は調べるものはパソコンが頼りか……と思って、検索しているうちに出てきた内容を見る。
【用意する物は、手足があるぬいぐるみ。ぬいぐるみに詰めることができるほどの米。縫い針と糸。赤い糸が良し。自分の爪。髪の毛や皮膚、血を入れるのは危険度が増す。刃物。包丁かカッターナイフ、錐などの鋭利なものでもよし。コップ一杯程度の塩水で天然塩が良いとされる。
実行手順
午前3時になった以下の行動で行う
一 ぬいぐるみに対して「最初の鬼は(自分の名前)だから」と自分の名前で3回言い、浴室に行って水を張った浴槽にぬいぐるみを入れる
二 家のすべての照明を消してテレビだけつける。砂嵐が出ている状態にし、目を瞑って十秒数える
三 刃物を持って風呂場に行き、「(ぬいぐるみの名前)見つけた」とぬいぐるみの名前を言って刺す
四「次は(ぬいぐるみの名前)が鬼だから」または「次は(ぬいぐるみの名前)が鬼」と3回言い、自分は塩水のある隠れ場所に隠れる。
終了方法は、塩水を少し口に含んでから出て、ぬいぐるみを探す。まずはコップの残りの塩水をかけ、口に含んだ塩水の順でかけたあと「私の勝ち」と3回宣言して終了となる。必ずこの手順によって1〜2時間または2時間以内に終了させる。ひとりかくれんぼに使用したぬいぐるみは、最終的に燃える方法で処理する】
⋯⋯改めて思うけど、本当によろしくないものです。
これを好奇心で行う人がいるんだから、本当にヤバいな。中には鶏の心臓とかいれる場合もある。心臓が入っている形跡は……なんか傷口の隙間から赤いのが少し見えたな。思い出してげんなりする。俺の見たあの猫のぬいぐるみはもうほぼ呪物じゃないか。
⋯⋯事の大きさを改めて知ったな。
今思い出したけど、あのぬいぐるみの表面についていた白い粉か結晶のようなものは塩水か。だいぶ塩分濃度が濃いものでやったんだろう。…⋯俺の勝ちと言う前に相手は殺されたのだ。ニュースでは部屋の中が切り刻まれたようなあとがあって、物も散乱して斬り刻まれていた。包丁を手にしながら、木の枝を伐採するがごとく、今までの仕返しを込めて包丁を振るったのだろう。ひとりかくれんぼに宿った幽霊の殺意が強い。笑うことではないし笑えない。
さて、次は五行の性質を改めて見てみようと思う。五行の性質の現象の名前は知っているが、その詳細は詳しく知らない。
ネットで調べて見て、簡単に紙にまとめる。
五行には、関係性と性質がある。『相生』とは相手を助ける関係。『相剋』とは相手を攻撃する関係。『相乗』とは過剰な相生であり、相剋関係でもある。『相侮』とは相剋関係が反転した状態。『勝復』とは生剋関係のバランスを維持する機能。『比和』とは同じ気が重なり強まる関係である。
五行は一方的に生じる関係を維持することによって間接的に生じられる『相生』の循環に取り込まれる。相手からの見返りは期待できないが見返りを得ないことで、間接的に一方的に助けられる。しかし、見返りを得ると『相生』の循環が崩れて間接的な援助も得られなくなる。
『相剋』は制御の意味に近い。強い力は制御ができないと暴走する。援助と同様に制化をしてバランスを保つ。
『相侮』とは、相剋の関係が逆に作用したこと。
『相乗』とは、相剋が過剰になったもの。乗には、強いものが弱いものを凌駕するや虐げるなどの意味がある。五行のうち、剋している一行が相手を強く抑えすぎて、過度な相剋反応が起きることをいうらしい。
『勝復』とは東洋医学ではバランスの調整機能の理論……らしい。
あっ、わかりやすい例えがあった。
地球温暖化が進むと夏が暑くなる。でも、冬が暖かくなるわけではなく、冬も寒さが厳しくなる。こんなふうに相対するものがバランスを保つことらしい。
そして、『比和』とは同じ性質をもつ五行が集まって力を増すこと。基本的には吉と言われるよい運勢として出るものらしいけど、条件により吉凶が変化するらしい。
「ん?」
俺はひとりかくれんぼの手順を思い出して五行の説明を見る。
何度か説明を見るけれど、携帯の時間を見て約束の時間が近いことに気付く。
ああ、もう拙生さんと会う時間か。
俺は鍵をして家を出た。
歩いて十数分。目的の西本願寺の前に着いた。時間通りに来たけれど、目的の人は来てない。その人らしき人を探そうと、辺りを見る。
バス停近くだから人の通りも多く、通勤の人だけでなく観光客も多い。
京都は観光都市だから他の街に比べて交通機関は整っている分、人が流れやすく人も多くやってくる。
代理って、どんな人なんだろう。拙生さんの仲の良い友人は、何人かいるという。俺が印象強かったのは2人。巨躯で仏頂面ツンデレ。同じように背は高く優しいけど、ドMって言ってたな。
「どんな人なんだろう」
仏頂面ツンデレと優しいドMか。……どっちも嫌だなと思う。
俺が悩んでいると、後ろから声がかかる。
「ちょっと、ええ?」
「あっ、はい! なん」
振り向く。開いた口がふさがらない。この言葉を体感するとは思わなんだ。
ツヤツヤで黒髪のオールバックヘアで、くわえタバコ。黒の鈍く光る革ジャンやら……全身黒。顔はかっこいいと思う。でも、見た目は見るからに、不良か……いやどう見ても形容通りのイケイケヤンキーです。
すみません。仏頂面ツンデレさんと優しいドMさんの方がマシでした。
男はたばこの煙を吹くと、俺を見る。やがて驚いたように。
「……っあんさんはまさか旦那の」
イントネーションは関西ぽいからここの人間なのだろうか……?
息を呑んでいると、男性の手にあるタバコが、背後から勢いよく握られる。熱さが平気なのか強く握り締められていた。男性の背後から低い声が響く。
「受動喫煙、駄目だなぁ。あと、お寺さんが近いのにそう火を近づけるのもいただけないぞぉ?」
男性の背後に拙生さんがいた。怖いぐらいににたりと笑って、耳元で囁く。
「この子に手を出したら、容赦はしないからな。稲葉」
「っヒィ……! 旦那っ……!」
彼は勢いよく離れて、拙生さんはにこやかに手にしたタバコの吸い殻を強く握る。
「はっはっ、吸い殻捨てるやつあるだろ? 消してあげたから、ほら出して」
「はい! お手数おかけします!!」
すぐに懐から出して、拙生さんから渡された吸い殻を入れてしまう。すぐにウェットティッシュを出すと、拙生さんの吸い殻を握った丁寧に拭き始める。
「申し訳ございません! 旦那の手を煩わせました……!」
「ティッシュはちゃんと?」
「公共機関に設置してあるゴミ箱に捨てる! 覚えております!」
「偉い偉い」
拭き終えた手を、にこやかに振ると男性は深々と頭を下げた。
「お褒めに預かり、恐悦至極に存じます!!」
ものすごく流暢に敬語を使って、拙生さんに頭を下げている。
……いや、あの……俺の情報の処理が追いつかない。何とも言えず、二人のやりとりを見るしかなかった。




