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古都の陰陽道具訪問販売人 拙生さん 〜呪物もお引き取りいたします〜  作者: アワイン
1 ひとりかくれんぼのぬいぐるみ【呪物お引き取り】
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 今日最後の授業は生物。黒板に書かれた内容をノートに書いていく。

 先生は話し出した。


「隔世遺伝とは、個体の持つ遺伝の形質がその世代では発現しておらんが、数世代そのはるか昔から世代を飛ばして遺伝しているように見えとる遺伝現象を言うんや」

「せんせー、それって先祖返りっていうみたいなもんですかー?」

「どこで知ったんだー。まあ、場合によってゆうこともあるけどなぁ。せやけど、俺の言うたのがテストに出るとは限らんで」


 先生の言葉に全員が「えー」と声を上げる。

 まあうん、そうだろうな。この先生はそういうところがある。

 でも一応ノートに書いておこう。

 学校のチャイムが鳴る。授業の終わりの挨拶をして、清掃とかホームルームとかしていれば、放課後。学生が部活や勉強、自由時間を過ごすときだ。

 勉強する予定の時間を確認したあと、いつもの待ち合わせの寺の前で待つ。俺個人のスケジュール帳にと書き記して手帳を閉じた。バッグにノートを仕舞うと会話が耳に入ってくる。


「他の学校ではタブレットらしい」

「ええなぁ。うちの学校もタブレット端末にしてほしいわぁ」


 一部の学校ではタブレットとか使われている。俺達の方は手書きの文化が強い。まあ、タブレットなんか導入したら遊びだす奴もいるからしないからしないだろう。苦笑しつつ、バッグのチャックをとじた。

 教室を見回す。

 受験に近くなるからか勉強をしに塾へ行く人。まあ、サボって遊びに行く人いる。俺は時間はあるといえど、一応徒会に属している。卒業までの仕事はあるんだよな……。

 今日は生徒会の仕事はない。生徒会の仕事があったとしても、何とか拙生さんとの時間は取っている。今後、術を教わる為にも時間が欲しい。高校から生徒会とか部活に入るのをやめようかな。

 今日は、拙生さん以外の用事がないから──。


「あら、朝飛はん。もう行くん?」


 声がした方向に向き、俺は頷く。


「ああ、夏菜さん。もう帰る?」


 同級生の田中夏菜さん。俺でも可愛らしいと思う女の子だ。

 中学に上がった頃、図書室の本を返却しようとした時に出会った。おっとりはんなりしているけれど、やはり京都の人だ。ちょっと線引きしているところもある。けれど、何度か話しているうちに仲良くなった。

 夏菜さんは首を横に振り、楽しそうである。


「帰らへん。この後置屋で仕込体験の話をおかんとするんよ」

「あっ、そういうことできるんだ。舞妓はんの学校に行くのは知っているけど……あっ、何処で体験するか聞いてもいいかな」

「かまへん。……たぶん朝飛はんは知ってはると思う」


 どうやら小声で話したいらしく、俺の耳を貸す。こっそりと聞くけど……ええっ!?


「それ、お祖母ちゃんのところじゃん……!?」


 小声で驚いた。お祖母ちゃんといっても、母方の祖母だ。俺の母はかつては芸子だった。父と結婚する為に辞めたし、俺の祖母も結婚して一回芸子を辞めている。

 ……ここまで話して、母の姿や影がないのはおかしいと思っただろう。俺のお母さんは、俺が物心ついてから亡くなった。

 病気だった。……早期発見できれば、助かったかもしれない病気だった。母が亡くなったことに父は祖母に謝ったけど、恨むこともせず「娘を忘れるな」と言う言葉をぶつけて許した。父は気まずいのか、母方の祖母と会うことはない。

 俺は時折顔は見せるし、祖母の顔を見る。……時折というのは、置屋で男衆《おとこし》の弟子見習いの形で、着物の着付けや舞妓はんに必要なものを調達するなど手伝っているからだ。

 男衆。その名の通り、祇園で唯一男がつくのに許される職業。昔は世襲制だと聞いたけど、今は舞妓はんのように修行も必要だ。あと、舞妓はんと芸子さんとの恋愛はご法度。場所によって男衆も忙しいので女を見てる暇なんてない。多感な時期と言われる中学生の俺だけど、手伝って分かる。師匠は忙しそうだし、舞妓の繁忙期となると俺も手伝わされる。本当に女の人を見る余裕なんてない。男衆になりたい男の人は、雑紙とかに時折募集の要項が載っている。あとはツテがある人なら、弟子入できるだろう。

 ……本来なら、俺が置屋に入ることは許されないことをちゃんと言おう。

 中学生だから、働く形で属してない。お祖母ちゃんの口添え、男衆を増やすツテとして俺を弟子で見習いという形で、手伝わせている。ただ他の置屋だけでなく、お祖母ちゃんの置屋限定だ。ちゃんと男衆として、技術は教えられている。着物の一つ一つの名称とか、着付け方。着物の着付けはある程度できるけれど、やはり師匠には及ばない。それに、中学生の俺が手伝うのは帯を結ぶか帯締め。普通に買えるものに限定されている。流石に現役の舞妓はんや芸子さんにはちゃんとした大人が着付けるし、専門の品は大人が注文をする。

 けど、見込みがあるのか、師匠は色んなことを教えてくれる。男衆として教えられるべきことはまだあるようだ。今は仕事を覚える為の期間、将来就職の一つのツテにはなるだろう。

 夏菜さんは感慨そうに話す。

 

「ほんま、朝飛はんのお祖母さんが置屋の女将さんなの。あまり聞かへんよ」


 ……まあ、普通はありえない。


「置屋の伝統的にあまりないと思うよ。事例があったとしても記録されてないか、数少ないか。置屋は世襲制じゃない。こうなった理由は、昔、お祖母ちゃんが経営してた置屋は潰れる寸前だったからだからなんだ」


 ぽつりと祖母の過去を話していく。

 置屋は最後の舞妓さんを卒業させたら、その一代で畳む。もしくは引き継ぎを頼むなどをして置屋を続ける。でも、日本全国的にも年々舞妓はんの数や置屋の数は少なくなっている。旦那さんと呼ばれるスポンサーさんも得られる機会は今は少ない。京都府としても、京都市民としても、伝統を守りたい気持ちがあったのだろう。

 お祖母ちゃんが当時の旦那様と結婚のために芸子を辞めた。旦那様とは、母方の祖父だ。祖父とお祖母ちゃんは子をもうけて、俺のお母さんを生まれた。

 祖父はお金持ちだった。でも、ある時お祖母ちゃんが世話になった置屋の経営が危ないと知った。本当に状態が悪くて、引き継ぎも畳むこともままならなかったらしい。

 子持ちのお祖母ちゃんは一時置屋に出戻って置屋を継いだ。その置屋を援助したのは、祖父であった。祖父のお陰で置屋は持ち直して今がある。……離れて暮らす母の面倒を見ながら、置屋の仕事をするのは大変だったと思う。祖父は、育児を大半を手伝ってくれたという。でも、母が中学に上がる前、祖父はある日で事故にあって亡くなった。祖父は四十代だった。

 祖父は自分の遺産をすべて、祖母と母。祖母のお世話になった置屋のために使うよう遺書を残していたのだ。

 ……最後まで祖父は家族を愛してくれた人だった。祖母は周りの好奇の目や嫌な目を向けられても、頑張って俺の母を育て上げた。

 祖父が亡くなってしばらく、お祖母ちゃんは完全に芸者置屋のおかあさんとなったのだ。祖父の残したもののおかげで、芸妓や舞妓はんを育てられている。

 聞いた話を思い出しながら話すけど、本当に俺のお祖母ちゃんは凄いなと思う。俺の母を育てながらこなし、型破りなみたいなことをしているのに置屋の伝統は守っている。ちゃんと今の時代のコンプライアンスに沿っていながら経営や舞妓はんの世話をしている。

 ……だから、そんな俺が祇園に足を踏み入れてもいいのかとも思うと心苦しい。


「……苦肉の策だったとは思う。でも、プライドや守ってきた伝統を曲げて、お祖母ちゃんはあの場所を守りたかったんだ。今では結果オーライって本人は言ってるけど、本当は苦しかったと思う。おじいちゃんと一緒に舞妓はんが活躍する姿を見たかったと思うよ。今でも肌見放さず、おじいちゃんからのプレゼントの簪を持ってるから」


 舞妓時代に贈られたおじいちゃんの簪は、今でも祖母の思い出の品で形見だ。

 母方の祖父が死んでからも、母が死んでからも、周りの反応やら色々あって大変だったと思う。俺が男衆の弟子見習いという形でも、祇園の置屋にはいることを文句を言う人もいる。伝統的に正しい批判だとは俺は思う。……色々と言われているのに祖母は強い人だ。孫としても甘やかしてくるから本当に頭が上がらない。

 夏菜さんは微笑ましく話す。


「素敵な御祖母様ね」

「うん。何と言われようが、俺の自慢できる家族だよ。俺の憧れの人と同じくらいに敵わない人だ」


 頷くけれど、俺は教室にある時計を見て我に返る。

 ってそろそろ、約束の時間近いじゃんか!!

 急いで立ち上がって荷物を持つ。


「ごめん、俺もう行くよ! 体験、決まるといいね!

じゃあ、また学校で!」

「はぁい、また」


 夏菜さんは手を振って、俺を手を振り返していく。急いで学校の下駄箱に向かう。靴を履きながら俺は息をつく。夏菜さんとよく話すから付き合っているのかなんて、ふざけた噂か流れるけどそんなことない。

 夏菜さんは俺と友達で、夢を応援し合う仲間だから。

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