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藤原さん家から離れて、目的のぬいぐるみのある寺へと向かう。
流石は日本の歴史の中心の京都。寺は多く、人形供養をやる場所はいくつある。
今の俺は京都に住んでいるけれど、ある程度知っているだけで生粋の京都人ではない。祖父と母と父は京都の出身だけど、俺は府外の出身だ。俺が生まれる前に父の仕事の都合で府外に引っ越したからだ。つまり、京都の街や地図は調べないと分からないのだ。今は拙生さんについていけば間違いはないと思うけど、甘えられない時もあるだろう。……俺なりに京都の街を覚えていこう。
まず、気になることが一つ。俺は腕を組みつつ、拙生さんに聞く。
「拙生さん。聞いてもよろしいですか?」
「ん、なに?」
「なんで、藤原さんはひとりかくれんぼに対処できなかったのですか?」
俺の質問の意図を読んだのか、口元は楽しそうに笑っていた。
「なんで、その質問をするのか聞いていい?」
質問をし返すのは良くないというけれど、これは試しているんだ。正答かどうかわからないけれど、答えておく。
「ひとりかくれんぼの詳細は知りません。でも、ひとりかくれんぼ自体が降霊術だと聞いています。式神と違わなくても……式神にするために霊を調伏する方法があったかと思います」
俺の指摘に、拙生さんは頷く。
「悪行罰示神。悪事を行っていた神様や悪霊を調伏する方法だね。役小角やせーく……いや、安倍晴明がやってたことだ。ひとりかくれんぼはこれに類するだろう」
「悪行罰示神に?」
「ああ、簡単に言えば、それは式神の種類だ」
拙生さんは目を見せぬようにサングラスを掛け直して教えてくれた。
「思念によって作った思業式神。藁人形や紙を用いた人形に霊力が込められた擬人式神。この擬人式神が皆が想像する陰陽師だね。そして、悪事を行っていた神様や悪霊を調伏するのが、悪行罰示神という」
「……ひとりかくれんぼは、悪行罰示神のいう式神のやり方が近いと言うことですか?」
「……有が能すぎて、拙生が困るな」
「有と能を合体していってください」
拙生さんにツッコミをいれるけど、本当に困ったように言う。……俺、有能なの? 拙生さんは息を吐いて話す。
「悪行罰示神は、術者の力が強くなければできない。悪霊やその神様にのまれてしまう」
「……じゃあ、藤原さんがひとりかくれんぼに対処しきれなかったのは、そのぬいぐるみに宿った悪霊が強かったから?」
そうとしか考えられないけれど、彼は肯定した。
「そう、式神や降霊の原理を何となくでも陰陽師は把握している。藤原さんは退魔師や陰陽師の界隈で実力者と言われる。そんな彼が対処できなかったんだ。封印はしているけれど、安全ではない」
……封印をしているだけで、処理をしているわけではない。
中身が強いなら尚更専門家に任せたほうがいいか。けれど、本当に拙生さんは色々と知っているな。
俺達は話しているうちに、目的の寺に着く。住宅街にある寺だ。人形舎などある。綺麗な人形は飾られているらしいけど、流石に物騒な人形は飾られわけない。
寺の境内の社務所に行って、拙生さんが名前を上げて事情を説明すると納得したように、案内の人を呼ぶ。
社務所に貼られているポスターをみると、祭りのポスターがある。俺たちがいる寺は人形供養の祭りで有名のようだ。
待ってる間、拙生さんはスマホを弄っている。俺は寺の中を見回していく。用事がなければゆっくりと拝観したかったな。スマホをしまった時に、案内人の住職さんがきた。住職さんは俺たちを案内してくれた。
もう寺の営業が終わる時間なのか、門は閉じられていく。
アポイントメントはもうとってあるんだ。
案内された場所は何もないけれど、住職さんが札をかざすと最新の木造の小屋が現れた。小屋の壁には、明札やら祝詞やら呪文やらが書かれている。お坊さんいわく、カメラには映さず生物をすり抜けるように藤原さんが仲間とともに施したらしい。人形がかざられている人形舎とは異なる。……確かに「明らかに呪物がありますよ!」と見てわかるような小屋があると、物好きやバズりたい輩が来て迷惑かける。評判も落ちるし、近所の人にも迷惑をかけるだろう。オカルトもいい意味で悪い意味で、大変だ。
拙生さんは小屋のドアノブを手にして、俺に目を行ける。
「朝飛くん。みる?」
「えっ、いいですか?」
驚く。いや、そう呪物見せていいの? 見たい好奇心もあるけれど、好奇心は猫を殺すというしな……。俺は住職さんに目を向けて、おそるおそる聞く。
「あの、一般人に見せてよろしいのですか……? 僕は一応学生ですよ……?
変なことしないか、心配になりませんか?」
「羽山さんが連れているなら大丈夫でしょう」
不安がることなく、にこにこと言う。いや、危機管理!!
でも、拙生さんが入室を許している時点で俺が変なことしないと理解しているのか。何が拙生さんが事前に連絡をしたか。……嬉しさがあるけれど、拙生さんの為にも迷惑かけないようにしないと。俺は住職さんに感謝を言って頭を下げた。
「ありがとうございます。──羽山さん、よろしくお願いします」
拙生さんにも頭を下げた。
「はい、じゃあ、私の指示に従ってね」
専門的な場では指導員の指示に従うのがいい。身の安全を守る為でもあるし、皆の為にもなる。
土足は大丈夫らしく、そのまま上がった。
中に入ってみると、小屋の中央に柱があって台座のようなものがある。四方にも柱がある。台座には複数の札が貼られている猫のぬいぐるみがあった。腹に傷があり、持てるはずのない包丁を手にしている座っている様が異様さを物語っていた。普通金属を持ったものは倒れるはずだ。けど、握りしめるようにしっかりと手にして座っている。ぬいぐるみは、年月が経っているようで既製品のようには思えない。……あんまり見ない猫のぬいぐるみだ。表面には白い粉か結晶のようなものがついている。傷口のほうから少しなにか赤いものが見えるような……。
ぬいぐるみの前には、神社のように供物と酒。北東側に猿の彫り物と、南西側に人の顔のような異形の獣?
時折ぬいぐるみの目と合うような気がするし、ぬいぐるみから黒いものが見える。
……いや、神社の地鎮祭のように囲うやつ、しめ縄と紙出というやつだったかな。名前は普通の人は知らないと思うけど……。
「……四方祓いの儀みたいですね」
拙生さんがドアを閉じながら、驚いていた。
「よく知ってるなぁ。普通の中学生は知っている?」
「いえ、マニアックな方です。興味がある人、何かに使う人じゃないと知らないかと。俺は普通じゃないので知りたくて知りました」
ニッコリと笑って言う。幽霊や妖怪が見える時点で、俺普通じゃないしね。拙生さんは気まずそうに微笑んで困っていた。
「……皮肉だと分からずに天然で返されるの効くわな」
「えっ、皮肉だったんですか?」
「ううん。なんでも。じゃあ、四方祓いの儀ってなんだ?」
「家を建てるときに行われる地鎮祭のときに行われる儀式。土地の穢れを祓うものです。けど、これ四方祓いの儀に似ているだけで、別の儀式ですよね?
土地の穢れを祓うというよりも、何かを出さないための……ぬいぐるみを出さないための結界のように見えます。
それに、北東に猿の置物があるのは鬼門避けですよね? 南西にあるのも、たぶん裏鬼門を封じるか避けるための獣。あと、中の作りを鬼門を封じる作り。鬼門から悪いものがはいらないようにして、御神酒と供物は御霊信仰も利用して封じていると見ていいですか?」
マニアックな知識ではあるけれど、俺でもわかることはある。
俺の考えに拙生さんは苦笑する。
「Youが能だねぇ」
「……有の部分を、発音だけ英語にしないでください」
「ははっ、拙生としてはこちらの界隈You Noだ」
「何処かのタレントさんみたいな使い方しないでください」
ツッコミながら俺はぬいぐるみの方を見て、ぞわりとした。
ぬいぐるみが俺の方を見ている。目が合ったような気がして、身の底から寒気のような震えた気持ちが出てくる。
怖い。
俺は身を引くと、拙生さんが守るように立つ。ぬいぐるみの視線がなくなった。俺は拙生さんの背中をみる。その背中がたくましくが見え──。
「幽霊になってもまだ苦痛を味わいたいとは、物好きだねぇ。殺されてみたい?」
──たくましく見えるのは一瞬だけだった。
ぬいぐるみに見られている時よりも、ゾワッとして目を丸くした。刀の刃先を顔の近くで近付けられたような、銃口を間近で突き付けられているような恐ろしさ。
友好的な話し方だけど、声と内容は物騒だ。声には怖さがある。殺気、というのだろう。
殺されるとわかる。別の意味で怖さを感じた。自分に向けられてなくても、怖かった。
拙生さんは俺に向くと、いつものように微笑んでくれた。
「朝飛くん。ほら、大丈夫だよ」
「えっ、大丈夫って」
幽霊というか、ひとりかくれんぼの呪物はそう恐怖を感じないんじゃ。そう思って、猫のぬいぐるみるとガタガタと震えていた。ポルターガイストなどの心霊現象か、実際にぬいぐるみの中に機械が仕込まれているのかというほど震えている。
……中にいる幽霊でも、怖かったようだ。




