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呪具。呪術に使う道具の意味だ。霊具とも言うのだろう。藤原さんが買ったのは線香だ。悪霊や妖怪を追い払うもののようだ。拙生さんは線香が入った箱が渡すと、藤原さんに書類のような紙を一枚だして説明をしだす。内容は線香の効果と諸々の内容だ。緊張して詳細は覚えてない……。藤原さんは受け取ると書いて渡して、頭を下げた。
「……では、呪物に関して再度説明してもええですか?」
「ええ、確認の為によろしくお願いいたします」
どんな内容なのか。藤原さんの芳しくない表情で、あまりいいものでないのは分かる。姿勢を正して聞く。
「お引き取りしてほしいのは、ひとりかくれんぼに使われたぬいぐるみです」
ひとりかくれんぼ。聞いたことがある。
確か、平成の頃、十年以上も前に誕生して流行った都市伝説で危険な遊び。手足のあるぬいぐるみと包丁などを用いる。降霊術だけど、実際にやったら怪奇現象が起きた話が伝わっていた。俺はひとりかくれんぼの手順は詳しくは知らない。けれど、ひとりかくれんぼをしたぬいぐるみは絶対に燃やさなきゃならない話は伝わっている。
……燃やされるはずのひとりかくれんぼのぬいぐるみがあるなんて、どんな経緯で。
藤原さんがきちんと話してくれた。
「そのぬいぐるみは、猫のぬいぐるみでした。一人の男がひとりかくれんぼをして──そのぬいぐるみに殺されました」
「ころ……」
俺は息を呑む。ぬいぐるみに殺されるなんて、現実味のない。二次元やホラー映画の話だと思ってしまう。あり得ないという顔をしている俺を見て、藤原さんはポケットからスマホを出す。
「現実味はない。けれど、怪異に殺された事件は隠蔽されて殺人事件、もしくは未解決や未遂事件として扱われることもある。……このニュース、見たことあるかな?」
画面を見せてくれた。俺はそのニュースの中身を見て、驚く。
……覚えている。ニュースでやっていたもので印象強い。俺が中学一年生の頃に起きた殺人事件で、犯人が逃亡しているという事件だ。府内で起きた事件だ。ニュースキャスターの人は、残酷な情報を口にしていた。部屋の中が切り刻まれたような後があって、物も散乱して斬り刻まれていたと。
恨みなどが強いからか殺人事件でして扱われていた。今は捕まった話は聞かないけれど──もしかして。
「見たこと、あります。もしかして、この事件が藤原さんの言っているひとりかくれんぼのぬいぐるみと関係が……?」
藤原さんは頷いた。
「そう。一年前、私はぬいぐるみを追って封印をした。普通ならちゃんとした手順で、ひとりかくれんぼをした本人が終わらせられなければならない。儀式や形式のある呪術では、その形式通りに終わらせるほうが安全。……本来ならその術者が殺されるか隠されるかで術はお終いのはずなんやけど、そのぬいぐるみは終えたあとでも動いていた」
俺は息を呑み、話を聞き続ける。
「野放しにできないと判断したけれど、そのぬいぐるみに宿る思いは強すぎたんだ。そのぬいぐるみは、羽山さんの協力もあって封じられた。今は寺の人形供養の場の一角を借りて封印している。……私の手で片付けられないのは、悔しいことである」
スマホにあるニュースを見せるのをやめると、藤原さんは深刻そうな顔をしている。
……本当に呪物じゃないか。藤原さんの話を聞いて、少し分かった。話を聞くだけでも分かる。危険な事が多い。一片を見せるといったのはこういうことか。
藤原さんは拙生さんに向かって話す。
「しかし、その封印も持ちそうにない。羽山さん。どうか、引き取って処理をしてください」
頭を下げる彼に、話を再度聞いた拙生さんは微笑んで頷いた。
「はい、お任せください」
……仕事の話は、終わったかもしれない。話を聞くだけでも濃い。俺は二人に向けて声をかける。
「あ、あの!」
目線が来ると、俺は深々と土下座した。
「貴重な時間をいただき、ありがとうございました!
この機会、今後に活かします!」
貴重な商談で、陰陽師の世界に触れさせてくれた。しかも、見知らぬ学生を快くあげてくれたのだ。京都の人で家の上まであげて許してくれる人なんて、本当に珍しい。だから、俺なりに誠意を見せる。
行動で示してこそ、だ。
「君にとって何かの選択の助けになれば幸いだ。現実を見て、こちらの世界に関わるかどうかを決めるように」
俺の姿勢を見て、藤原さんは真剣な声で話す。
……うん。浪漫はあるけれど、それがすべてじゃない。藤原さんをみて、俺は真剣に返事をした。
お茶とお菓子をもらったあと、玄関まで行くと俺と拙生さんを藤原さんが見送ってくれた。見送られる前に、拙生さんに藤原さんが話しかける。
「羽山さん。貴方が目をかけるなんて珍しいですね」
「おや、そうですか?」
「ええ、身内でしょうか? 贔屓に近いものを感じます」
「ははっ、ご想像にお任せしますよ」
拙生さんは朗らかに笑って誤魔化すけど、実は俺もそれは感じてた。でも、俺としては藤原さんが親切なのも気になる。
「でも、藤原さんが僕に親切なのが気になります」
「賀茂くんはお客様で年下だからさ。将来有望な子でもあるしね」
「それだけではない、ですよね」
俺の発言に二人は驚く。
京都の人は、表面はいいけど中はきついと耳にしたことがある。京都には洛中と洛外に分ける人がいるし、その差を気にする人もいる。線引きが強いと俺は感じている。……線引きが強いのが悪いわけではない。それが結果的に文化や自分たちを守ることに繋がる。
藤原さんの住まう場所は下京区で洛中。彼は雰囲気とイントネーションでわかるかと思うが、俺は府外で生まれ、途中まで府外で育った中途半端な人間だ。両親が京都の出身でも、俺は府外の土地で受けた影響が強かった。ちゃんとした府民ではないのに、藤原さんが俺に対して分け隔てなく親切にしてくれている。
……生意気だろうけど、俺は聞かなくてはならない。
「……今の陰陽師の業界に動ける人が少ないのですか?」
俺の質問で更に藤原さんは驚いていた。
人員が欲しいのだろう。肉体労働や技術職などのブルーカラーと言われる職業。肉体労働する人や、技術を受け継ぐ後継者は少なくなっていると聞いた。
陰陽師はデジタル寄りではない人が動く職業寄りに近いのだろう。藤原さんは仄めかしていた程度だけど、陰陽師関連の職業の人の条件の適性の人は少ない。危険なら危険と追い払うはずだ。拙生さんのように遠回しに近づけさせないようにする。藤原さんが俺に選択を委ねたのは、来てほしい希望もあるのだろう。
藤原さんは俺をまじまじと見つめ、拙生さんを見る。
「羽山さん。この子、素質ありますよ。分析能力と的外れではない判断力。本格的に引き入れさせてみては?」
「私が許せません」
感心する藤原さんに、拙生さんはにこやかに答えて拒否した。むっ、俺にも選択の権利あるはずですが。でも、さっきの呪物の話を聞いてからは、意気揚々に業界に入ろうとは思わない。
……それは、俺がぬるま湯に浸かりすぎているからだ。
「でも、この子が本当にそちらの方でしか生きられなくなったときは考えます」
……拙生さん、言い方。犯罪に手を染めた時のような言い方しないでほしい。
「……俺、犯罪とか前科とかつくような生き方したくないですよ」
「させないし、させるつもりもない」
拙生さんは俺の頭を撫でて、微笑む。
「朝飛くんは、今を生きていればいいんだよ。それだけで、自分は嬉しい」
……父親やおじいちゃんのような優しい色の声で言われてしまい、俺は何も言えなくなった。
藤原さんは俺達の様子を見て残念そうだった。
「賀茂くんがいれば、陰陽師界隈の先も明るいと思ったんですが」
「まだ光明は見えているでしょう?」
拙生さんの言葉に渋い顔をして頷く。
「人員はいる。優良な人材と人手が足りないのは本当やけど…。今いる後継をしっかりと育てなきゃあかんか」
無理やり明るく笑って、拙生さんに頭を下げた。
「では、呪物の件。よろしくお願いします」
「はい。しっかりと処理してきます」
……二人はにこやかに笑って会話を終わらせた。一瞬だけバチッとしたように見えたのは気のせいじゃないと思う。俺は中学生ではあるけれど、鈍くはないしあえて素知らぬふりをした。




