7『もののあはれなきんのとび』1
昔々、とある森で鳶が住まう森がありました。
ある日、鳶が住まう森で、鳶の長から特別な鳶が生まれたのです。その鳶は、生まれながら金色で美しい翼を持っていました。それだけではなく、とっても強い力を持っていたのです。
この鳶が強い力をもって生まれたことに意味があります。その金の鳶はこの世を守る為の使命を背負って生まれきたものと、とある存在が森にやってきて森の鳶たちに伝えられました。
その使命のこともあり、彼は家族からは厳しく育てられ、他の鳶からは畏れられます。誰もがその鳶に話しかけることはありませんでした。父と母、兄弟、他の鳶からも。そのせいで金の鳶はひとりぼっちといえる状態です。
金の鳶の気持ちの器は満たされておりません。ですが、そんな鳶に一羽の雌の鳶の子が声をかけてきたのです。
「ねぇ、いっしょにあそぼう?」
小さい頃には誰もが言う一言でした。でも、それだけで金色の鳶は嬉しかったのです。
金色の鳶はその子と遊びました。悪い噂はたつことはありませんでした。二羽が遊ぶ姿をきっかけに鳶の森の皆とも話せたり、手伝えたり、森の皆と交流できるようになりました。
「すごいなぁ」
「狩りを手伝ってくれて ありがとうね」
「話しかけられてよかった」
普通の子のようにいつもどおりに言われること、感謝されることが嬉しかったのです。
「またあえる?」
その仲良しの鳶に頷いて、金の鳶は告げました。
「またあしたもあそぼう」
何度か約束をして、雌の鳶と金の鳶は遊んでは遊ぶ約束をしてまた明日と言って別れるのです。金の鳶の気持ちの器は少しずつ大きくなって、満たされていきました。
金の鳶は、その雌の鳶の子が好きになってゆきます。
時がが経つと、鳶は生まれ持った使命の為に故郷を離れなければなりませんでした。
一時の別れ、仲間の鳶たちからは惜しまれながらも旅立っていきました。
その故郷を離れたあと、鳶は鳶以外の生物と出会い、使命を果たそうと悪い奴らを倒していきます。倒していく中、使命を告げた存在が現れて彼らに問うのです。
「悪い奴らとは、なんだ?」
そう聴く存在に、仲間の一体一体は答えていきました。
龍は「かぞくにあだなすやつら」と答えました。
巨人は「いきるのをじゃまするやつら」と答えました。
狼は「ひとをばかにするやつら」と応えました。
龍のような獣は「よをみだすやつら」と答えました。
翼のある龍は「ひとをころすやつら」と答えました。
すぐに答える仲間に、鳶も答えました。
「なかまをきずつけるやつら」
どれもが違うようで、言っていることは同じ。傷つけることが悪いと言っていました。ですが、その存在は首を横に振っていいえと示すのです。
「正解は、生きているみんな。すべてだ。そう私もお前たちもそれに含まれる」
「そんなのないです」
仲間の一体が反論すると、その存在は再度首を横に振りました。
「いいや、悪い奴らだ。けれど、少しでもよくありたいから多くを学ぶ。良きものでありたいから知る。良きものでありさせたいから、多くを教える。でも、それができるものはかぎられているんだよ。残念ながらみんなおなじにできないし、今まで見たものと味わったものの気持ちが異なる。お互いを完全に理解し合えるなるて、相手によりけり。だから、争うし殺し合うんだ。だから、私たちも悪い奴らなんだよ」
みんな、おなじじゃない。だから、いきているみんなはあく。
金の鳶は知らずして、気持ちに突き刺さったようでした。突き刺さって、何か気持ちの器に何かが入った気がしました。
それを知るのは時が過ぎて十になる前。
金の鳶は故郷にこっそりと戻ってきてしまった時なのです。
皆を驚かせようと思い、自分の姿を茶に染めて普通の鳶と変わらない姿として森に帰っていったのです。
鳶の森に帰ってきても、金色の鳶が帰ってきたことに気付かない。皆と同じ色と姿をしているから気付かなかったのです。
鳶は驚かせようと、ワクワクしていたところ。
「あの金の鳶。いつ帰ってくるのかなぁ」
「帰ってきたら、上手くいい丸めておかないと」
金の鳶は言葉の意味がわかりませんでした。金の鳶は同じ鳶の仲間に聞きました。
「金の鳶とはなんですか?」
「お前、知らないのか? さては外から来たか?」
「ええ、はい」
「昔、この森にいた特別な金の鳶のこと。帰ってきたら金の鳶を偉い人に捧げないとならないんだ。この鳶の森を治める長が決めたんだ」
金の鳶が知る限りでは、鳶の森の長は自分の父でした。しかし。
「ほら、金の鳶と仲の良く遊んだ雌の鳶の親だよ。その親が金の鳶の父親を殺したらしい。他の金の鳶の家族は、無理やり家族にしたり、働かせられたりしているらしい」
何と言ったのか、何を言ったのか。金の鳶はわかりませんでした。例え話したことが少なかったといえど、自身の父親が殺されたなんて知りませんでした。
「酷いよなぁ。娘も娘で、あの金の鳶の気持ちを利用した形になって」
「でも、最初は利用するつもりなかったんだろ?」
「今じゃあ、父親の言いなりじゃないか」
金の鳶は二匹が話している間、こっそりとその場を去りました。金の鳶は他の鳶からもいろんな話を聞きました。
「あの金の鳶の家族と金の鳶は嫌だったんだよね。気味が悪い」
「あの金の鳶がかわいそうだ。利用されていただけなんて」
「あの雌の鳶には親の決めた相手ができたらしい。雌鳶も望んでなかったらしい」
「金の鳶が居なくなってから、森の空気が心地良い」
「金の鳶は怖いんだよね。俺たちと違うから」
「金の鳶は居ただけで、気持ち悪かった。手伝うだけ手伝わせてありがとうなんて言われたくない」
森の鳶たちは金色の鳶が自分と同じ姿をしていることを知らずに、言いたい放題なことを言いました。大きくなった気持ちの器ですが、いろんな物が入ってヒビが入ってゆきます。
金の鳶はその場から離れていきました。
しかし、途中でかつて遊んでいた雌の鳶とその雌の鳶の親がいるのを見ました。金の鳶は隠れて話を聞いてしまいます。
「あの金の鳶が帰ってくるのはいつになるやら」
「そうですね」
「非常に珍しい色と力なのだ。きっとあのお方も気にいる」
「そうですね」
「俺の指示通り、あの金の鳶と仲良しになってくれて嬉しいぞ」
「そうですね」
雌の鳶は気持ちのない返事で、ただ父親の言葉に頷いているようにも見えます。雌の鳶は笑うようにこういいました。
「すべては鳶の森が生きる為です。やむを得ないこと」
気持ちの入っていない言葉と空っぽな顔。金の鳶の気持ちの器の一部が勢いよく空いて、大きな穴があきます。
もののあはれな金の鳶。どう帰ったのか、どうやって使命を果たす仲間のもとに戻ってきたのか。覚えてません。
何年かの間に、鳶の森は変わってしまったのでした。
金の鳶は仲間のもとに帰ってきたとき、使命を告げる存在が来て仲間にこういいました。
「鳶の森に金の鳶を狙って悪い奴らが来る。鳶の森に住まう鳶たちも協力している。このままだと、この世に悪いことが起こる。鳶の森ごと滅ぼす仕事を誰かしてくれないか」
金の鳶は内容が頭に入ってきませんでした。
鳶の森は、金の鳶の故郷です。良い時間も有りました。ですが、帰ってきた金の鳶が味わったのは悪いものでした。
「金の鳶を狙っている偉くて悪い奴らがいる。鳶の森の全員が、金の鳶を差し出すつもりだ。相手は金の鳶を悪いことに使おうとしている」
話を聞きていて、金の鳶の中で話が繋がってしまいました。
金の鳶と彼がよく仕事する仲間たちはまだ幼いからしなくていいと告げられました。
が、彼自身とも言える金の鳶が名乗りを上げたのです。
「やります。ほろぼします」
その前までは、からっぽな気持ちでした。しかし、今は底から溢れ出る苦くて燃えるようなムカムカとする気持ちが締めてきたのです。金の鳶の申し出にその存在は断りましたが、金の鳶は押し切って故郷を滅ぼす仕事をしたのです。
金の鳶は帰省する知らせを鳶の森に届けました。
金の鳶が戻ってくると皆は歓迎するふりをして、裏ではこそこそと金の鳶を捕まえる準備をしておりました。
金の鳶も喜ぶふりをして、家族のもとへ行きます。
家族と好きだった子と食事をしながら共に語らいます。
普通ではないのか。そのうち父が顔を出すのではないのか。そのぐらい穏やかな時間ですが、食べ物に眠りの薬を仕込まれていた時点で全部が嘘だと改めて気付かされます。
ですが、金の鳶に薬は効きません。眠ったふりをしてあえて捕らえられました。
真夜中、鳶の森には偉いものがやってきます。
寝ているふりをしながら偉いものの一同がやってきたあと、金の鳶は話を聞きました。
「そちらの金の鳶に、約束通りそちらの鳶を妻に迎え入れよう」
「ははぁ」
偉いものに鳶は平伏し、偉いものは金の鳶が好きだった雌の鳶を呼び寄せますよね
「さあ、ちこうよれ」
「ええ、はい」
すり寄る雌の鳶の姿は、何処か物悲しくも見えました。金の鳶の家族と雌の鳶の家族は何も言いません。
捨てられた。裏切られ裏切られていた。少しでも鳶の森で過ごした良き時間を否定されたようなものでした。
金の鳶は起きて力を出します。今まで悪い奴に向けていた力を、偉いものだけでなく故郷にいるもの全てに向けました。
鳶の一羽に雷が落ちました。
鳶の一羽がまばゆい炎に襲われました。
鳶の一羽の羽に矢のようなものが刺さりました。
偉いものとその場にいた金の鳶の家族と雌の鳶の家族を巻き込んでゆきます。好きだった雌の鳶すらも。
鳶の森には、たくさんのたくさんの痛そうな声が聞こえてくるのです。
もののあはれな金の鳶。気持ちの器から溢れるものを堪えることなく、たくさん穴が空いてゆきます。空いた穴からもたくさんの気持ちをこぼします。
皆、同じじゃない。だから、生きている皆は悪。その言葉を思い出し、金の鳶は涙を流しながら笑いました。
焼かれて燃えて、鳶の森すべての悲鳴を聞きながら、金の鳶は自分の手で滅ぼしていく光景を最後まで見届けたのです。




