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「稲葉とも、親交を深められたみたいだな」
嬉しそうな拙生さんに、俺は首を横に振る。
「いえ、まだです。友とは言いますが、口だけでは何でも言えます。だから、自信満々に友達と言えるまでは、稲葉さんと助け合ってゆきたいです」
稲葉さんはまだ俺に対して遠慮がある。それは、俺も然り。遠慮がなくなってしまえばいいわけではない。稲葉さんと俺は根本的に違うからこそ、少しずつ知り理解しなくてはいけない部分が多い。
そう、根本的に違うからこそ……。
「……?」
根本的に、違うから……?
「朝飛くん?」
拙生さんに呼びかけられる。
わかっていたことではある。俺は拙生さんの顔を見ると、サングラスに映った俺の顔は瞠目していた。当たり前のように受け入れていたけれど、今ではおかしいとわかる。
「……拙生さん。お祖父ちゃんとお父さん、俺に良くしてくれます。その理由は、なんですか?」
拙生さんは商人である。なのに、俺を、俺達一家を贔屓目ではある。疑問をぶつけると。
「愛に理由なんているのかい?」
と、真正面から恥ずかしいことを言ってのけた。
あ、愛!?
驚愕するしかないし、俺の顔は熱くなる。拙生さんは明るく笑っていた。
「拙生が君たちを良くする理由なんて、案外近くにあるものさ。ほら、家まで見送るから、朝飛くん。家に帰りなさい」
家の方向に指をさされる。日が暮れているから確かに帰るべきではあるけれど………聞きたいことは聞きたい。でも、疲れているのは事実だ。残りの体力は勉強と家事に使いたい。
「……わかりました。では、決行日の時はよろしくお願いします」
「ああ、任せたまえ」
頭を下げて、お願いすると拙生さんは明るく首肯してくれた。
家に帰ってご飯を食べたあと、早速お父さんと話し合いをした。直接の謝罪とこの先やること事についても話す。
お父さんはしっかりと聞いた上で、許してくれた。……もう少し怒るのかと思ったけれど、怒ることすらなかった。拙生さんがついているから安心しているのだろうか。
なんだろう。さっきの疑問と答えを聞いてから、違和感を抱く……。
その後は、藤原さんと繋いで父と話す。話すと言っても挨拶程度。当日はよろしくお願いしますとか。互いの携帯番号とアドレスを交換して、連絡網を作り上げた。
お祖父ちゃんの知り合いの陰陽師とかもいるだろうけど、祖父が死んでから交流はぱったりとなくなった。これから、この先、また繋がる事があるのだろう。
お父さんと話し終えたあと、俺は風呂の支度をしてお風呂が沸くまで自室で待機していた。
雨戸で完全に閉めて、カーテンをする。
寝る前に宿題と勉強の支度。学校の支度をした。必要なものをカバンに入れて、学校の授業を確認。…あとはお風呂が沸くのを待つだけ。
五行の性質を使うようなことは、今回はない。急に狙われたからね……。向かう目的は物事の解決だけ。
ほっと息をつくと、本棚に目がついた。
『もののあはれなきんのとび』
もののあはれ。しみじみとした深い感情と言う意味だ。
……内容は子供向きではないけれど、小さい頃によく読んでいた絵本。
お風呂が沸くまでの間、読んで待ってようかな。俺は絵本を手にして、表紙を開いた。




