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古都の陰陽道具訪問販売人 拙生さん 〜呪物もお引き取りいたします〜  作者: アワイン
3 結界の札2【購入又は取引】
28/31

5

 藤原さんの家で話したあと、俺はスピーカーの通話で話す。


「──そういうわけで、お父さん。ごめん」

《……いや、自分の身を守る為なら仕方ないが……》


 苦悩に満ちた声がした。本当に迷惑をかけていると思っているけれど……賛成とも反対とも言い難いよな。困る父の声に拙生さんが声をかける。


「大智。今回の件には稲葉もいるし、協力する陰陽師と妖怪も多くいる。拙生が監督をするし、何かあったときは拙生が守る」


 思わぬ助け舟に驚き続き、拙生さんは諭すような声で話す。


「前に話したろう。拙生が責任を取ると」

《……それは、そう言いましたが》

「心配なのは分かるさ。けど、昔の元服はだいたい十五歳。大人と言わなくても、やることの責任と自身の危機管理、失敗からの取り返しを覚えさせておくのもありだと思うな。互いの親離れ、息子離れの段階を踏むための準備と考えろ」


 拙生さんは優しく、けれど真剣なものだ。言葉を聞いて、お父さんは仕方なさそうに息を吐く。


《……貴方は本当に俺の心配を見抜きますね。俺に対しての、心の落としどころがうまい》

「言っとくが、それは限定的だぞー。朝飛くんの親なら、何が大切なのか。ちゃんと考えろよ。……拙生の話はここで終わり。じゃあ、親子の会話ターイム! 朝飛くんにかわるよ。さっ、話しな」


 拙生さんに肩を優しくぽんっと叩かれる。

 前から思っている。……お父さんと拙生さんは、どんな仲なのでだろうか。俺は不思議に思いながらも、お父さんに通話を戻す。


「……その、ごめん」


 拙生さんの説得を得て、お父さんのわかるほどのため息が聞こえた。


《あの人がいて多くの協力者がいるなら、安心して託せる。けど、やるなら一つだけ、言わせてくれ》


 何を言うのか息を呑んでいると、真剣な声が俺の耳に残る。


《……絶対に無茶だけはするな》

「……うん、お父さんのもとに絶対に帰ってくる」


 拙生さんに対して、ネバー・ギブアップで対応したんだ。お父さんにもネバー・ギブアップの姿勢で絶対にお父さんの元に帰る。

 今まで影から守ってくれているお父さんの為にも、俺は『俺は大丈夫だ』と見せなければ駄目だ。信じさせないと、この先お父さんも俺も生きてはいけない。


《今日は俺が作るよ。納豆カツカレーなんてどうだ?》

「俺はいいとしても、お父さんの胃袋……」

《か、カツは少なくするし、野菜は多めに食べる》

「食べる容量は一緒に考えよ……ありがとう、父さん。俺頑張る」


 通話から父の返事が来ると、通話が終わる。俺は片親ながらもいい父さんにも、親類にも恵まれていると思う。両親がいるから、良い家族というわけではない。その家族の人間性による。

 携帯をしまったあと、俺は拙生さんに向く。


「拙生さん。今日はありがとうございました」

「拙生がしたのは、少しの協力だ。あとは、朝飛くんがやったんだよ?」

「俺は出来る範囲のことをしただけで、拙生さんの功績が大きいんです」

「朝飛くんの交渉の手際が良かったからだと思うけどなぁー」


 しらばっくれるように言う。……相変わらず、手柄をものとしないな。そういう人なのは知っているけれど。

 ……お父さんはゲン担ぎでカツとしたのだろう。勝つとかけるから、カツカレー。……本当、難が転ずるやら魔が去るやら、ダジャレれっていうのもあるから、俺たち日本人は言葉遊びが好きだなと思う。俺は稲葉さんと拙生さんに頭を下げた。


「よろしくお願いします。拙生さん、稲葉さん」


 二人は快く頷いてくれた。

 藤原さんが繋いでくれた陰陽師と退魔師の協力と、許可が得られる。

 話し合いで、先に俺が住まう地区に張ることにした。

 残りは決行日にて、行動を起こす。それぞれの地区にいる妖怪や陰陽師と退魔師の皆さんから結界の札を貼る許可を得られた。むしろ貼るべきという意見も多く、それほどにあいつが脅威であることはよくわかる。

 札の効果は約一年だから、中学の地区にも当てはまる。来年卒業するのに中学の地区に張る理由は、後輩達には少しでも安全に生活して貰いたいし、あの辺りには仲良くしてくれる夏菜さんと夏菜さんの家族が住んでいる。祇園は大切な人たちもいる。父さんの会社に迷惑をかけたくない。

 俺は頬を叩いて、稲葉さんに声をかける。


「じゃあ、さっそく俺の地区で札を貼りましょう!」


 区全体までの結界は札では無理だ。俺達が世話になっている地区で範囲は少し大きいぐらい。その地域に住まう陰陽師と妖怪からの許可は取れている。

 まずは自身の地域からだ。安全なテリトリーを確保すべし。足を動かして、俺の家がある地区へと向かう。



 本当、京都には色んな鬼門除けがある。

 ある場所の鬼門除けは、鬼門の方角に枡形か四角で石を囲って白い石を突き詰めて結界を作る。白石と呼ばれることもあるようだ。なかには、鬼門がある方向に石を積み上げて盛り塩したり、鬼瓦や飾り瓦を屋根に乗っけて鬼門除けにする。鬼門に仏堂を勧請、小さな祠を建てて神や仏の分霊を移して祀ったりするなど。

 鬼門だけではなく裏鬼門にも、柊や南天が置かれることもある。鬼はトゲがある植物を嫌うから、それを鬼門除けをする風習もある。京都で鬼門除けがよく見るが、これは京都が碁盤の目で鬼門の方角がわかりやすいからと言われている。

 俺の家の敷地にもある。鬼門除け、ああ、鬼門封じともいう。言葉の受ける印象が違うな。

 鬼門らしき場所の家の庭には柊が植えられており、その家の玄関の前で俺は頭を下げた。


「──すみません。ありがとうございます」

「ええのよ、賀茂くんのお祖父ちゃんには昔お世話になったから。ね、ろく爺」

[せやな。えりちゃん、わしらも都の安寧を為なら許可するで]


 年老いた女性とろくろ首のお坊さんが頷く。同じ地区に住まう陰陽師の家へ行くと、稲葉さんがこの地区の偉い妖怪を連れてきてくれた。

 藤原さんと稲葉さんが根回ししてくれたお陰で、この地域で札が貼れる。えりちゃんと呼ばれ人とろく爺という妖怪が、お祖父ちゃんの知り合いであったからスムーズに話が進んだ。

 ……あの糞女の話を知っているからこそ、二人は許してくれたのだ。

 妖怪も、人も、安全で居たい。例え、考えが異なっていても安心して暮らしたいのだろう。

 ろく爺と呼ばれる方は、俺をまじまじ見たあと納得したように頷く。


[なるほどなぁ。祐太郎が孫にわしらを見て見ぬふりをさせるわけだ]

「あっ、貴方様から見てもやはり僕は霊力が強いですか?」

[強いがそれより別のことが気になる──いや、これはあんさん次第か。ほな、この地の妖怪たちや他の強い妖怪にも知らせてくわ]

「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」


 頭を下げると、ろく爺さんと呼ばれる方は飛び上がって何処かへ消えた。何かは気になるけれど、まず目的の優先をすべきだろう。

 俺は住まう地区を囲う為、長方形を作るように札を貼るのだ。下京区や中京区のように全体に貼れればいいだろうと思うだろう。効果範囲があるらしく、広くなる分だけ効力が薄くなる。少しでも被害を抑えるならば、俺の住まう地域になったほうがいい。

 鬼門や裏鬼門の方角に触れても問題ない札らしく、だから高いのだろう。

 陰陽師の人と別れて、俺たちは目的を果たしていく。

 地図とアプリのマップを確認しつつ札を貼っていく。

 何事もなく順調に貼り終えて、最後の一つを貼って息を吐いた。


「……これでよし。ここの地区は終わりです」

「道中で邪魔やくれーむがないのはほっとするわ」

「事もスムーズに進ませるためにもアポイントメントと情報の共有は大切ですね……」

「けど、人の社会では当たり前のことなのに、なんで多くの人間ができへんのやろ?」


 疑問に思う稲葉さんに俺は苦笑いをしておく。当たり前をする間の過程のやり方がよろしくないことは、俺にも該当する事だから皮肉とか言えない。


「残りの日まで、朝飛くんは準備をしておくんだね」

「はい。藤原さんの事を父に伝えたあと、父に今回の件についての詳細と作戦について話します。その後は、決行日まで藤原さん達と連絡し合います」


 やることは多い。でも、それはこの先のためだ。今起こっている事柄だけではなく、今後の為にも俺が無事でいたいし、お父さんたちにオカルト側から危険な目に遭って欲しくない。


「妖怪の方はわてが話をつけておく。朝飛殿は陰陽師と退魔師との話をつけておいてください」

「はい、稲葉さん。今日もありがとうございました」

「こちらこそ、毎日が楽しいのであきへん。ほんま、おおきに。では」


 交互で頭を下げる。稲葉さんは飛び上がって屋根に飛び移り、姿を消してこの場を離れていった。

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