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取引は成立し、課題も与えられた。けど、一方的に課題を与えられたばかりでは不公平と俺が文句を言うと、拙生さんに一回だけ協力してもらうことにした。
俺は下京区にある俺が最初にあった陰陽師のお宅にお邪魔をする。
インターホンを押すと、スピーカから音がする。
《はーい》
「こんにちは。藤原さん。お久しぶりです。賀茂朝飛です。唐突に申し訳ございません」
《……ああ! 賀茂くん。お久しぶり。どうした?》
「はい、少々ご相談したいことがありまして、羽山さんと大江山の鬼の代表として稲葉さんという方が来ております。……中でお話できますか?」
向こうから俺の様子もわかるだろうし、あえて真剣な声を出したんだけど……。インターホンの機械のマイクからは、ものの数分ほど沈黙する声が聞こえる。
マイクの音が切れると、玄関のドアが開けられた。藤原さんは羽山さんと稲葉さんに驚いていた。
「驚いた。ほんまに羽山さんと稲葉様やないの……」
「……稲葉様?」
きょとんとして俺は稲葉さんに向くと、彼は言いにくそうだった。
「……わて、鬼の社会では一応それなりええとこで……陰陽師と退魔師、妖怪と鬼を繋げる顔役の一人みたいなもんです」
「あっ、だから、京都御苑で陰陽師と退魔師の人たちと連携を」
納得していると稲葉さんは頷き、藤原さんは困惑したように俺達を見る。
「えっと、中で何か話したいことがある?」
本当はアポイントメントを取るべきなんだけど、拙生さんと藤原さんは商売人と客。顧客の情報を簡単に教えるわけには行かない。だから、直接行くしかなかった。本当は良くないんだけど……俺は真剣な顔で頷く。
「はい。唐突のご来訪で申し訳ございません。藤原さんだからこそ、頼りたくてご相談しに参ったのです」
頭を下げて、俺は藤原さんに頼む。
羽山さんがいるなら話が通りやすいかと思ったけれど、稲葉さんを知って尚且つ彼が重要な位置についているならば話は早い。虎の威を借る狐みたいなものだけど、こうしないと事態が進まない。申し訳無いけど、藤原さんもただ事じゃないと思うはずだ。
「……ええっと、では、中で話を聞きましょう」
藤原さんは困惑しつつも、俺たちを中に案内してくれた。
唐突なのに、茶と菓子を用意してくれる律儀さに頭を下げたくなる。
俺は何が起きたのか、課題については話さないけれど、京都御苑の出来事から今日の出来事。糞女について、簡単に話した。糞女のことは知っていたらしく、俺の話を真剣な顔で聞いたあと深く息を吐く。
「……なるほど、賀茂くんは私のもとに尋ねてきた理由がわかりました」
俺に同情の目を向けられる。
「狙われるだけで周囲に被害が及びかねないなんて最悪やな。賀茂くん」
「……ええ、少しでも周囲の被害を減らしたくて、結界を張るためのご協力をしてほしいのです。
……僕の指定する場所の近くに知り合い、その知り合いのツテがいらっしゃるならどうか僕に繋げていただけると嬉しいです」
俺は頭を下げて言うと、藤原さんは考えるように黙って俺に話す。
「して、場所は?」
俺は事前に持ってきた京都府の地図を持ってきた。俺は指をさす。
「僕の通う中学の地区と父の働く会社の地区。祇園の芸者置屋のある地区と僕の居住する地区ですね」
藤原さんは範囲を見て厄介そうに眉を寄せる。
「……意外と広いな……。それで、使うものは?」
「この札です」
俺は拙生さんからファイリングされた複数の札を見せる。藤原さんはその中身を見て目を丸くした。
「それは……!」
思ったより、藤原さんが食いついた。やっぱ、藤原さんでもこのお高い札を知ってたか。普通の陰陽師は買わないと思う。普通の中学生がこれを持っているなんてありえないだろう。
俺は札を見せて、藤原さんに説明をする。
「相手は藤原さんもご存知の通り、かなり厄介な性質を持っています。この札を張ってできる限り、他の妖怪にも被害を及ばないようにしたいのです。なので、僕が指定した地区に知り合いがいましたら、僕に繋げてくれませんか? 札を貼る許可がほしいのです」
「……」
藤原さんが難しそうに考える。
……枚数は多いといえど、限りはある。藤原さんはしばし考えたあと、考えがまとまったのか頷いて俺を見る。
「……私も協力してええ?」
「……えっ!?」
流石に驚くと、藤原さんは俺の手にしている札に指をさす。
「その札は、私のような仕事がある陰陽師でも滅多にお目にかかれない凄い札だ。しかも、羽山さんしか取り扱っていない。真似も模倣もできない一品だ」
……拙生さんの方でしか取り扱ってない? しかも、真似も模倣もできない?
高い理由はわかるけど、俺が聞きたいのはもっとある。俺は拙生さんを見ると、当人は指さしてにっこりと笑う。
……ええい! 事の大きさを理解したとしても、もうやるしかない。俺は頷いて、藤原さんに言う。
「……じゃあ! 協力してくれる礼。いえ、依頼の報酬として、余ったら札をあげます。その代わり、僕と連絡先を交換しませんか!? 携帯電話の番号でも構いませんし、SNSの方もよろしくお願いします。あと、この旨は父にも話しておきます」
俺の言葉を受け、藤原さんは目を丸くする。苦笑していた頷く。
「わかった。……あと、SNSアプリってどれ?」
「あっ、そうですね……」
SNSアプリは今はたくさんある。有名なのはあるけれど、マイナーなものまで。出来るだけ個人情報がわかるようなものは避けたいし、危ないものは入れたくないし入れさせたくない。
有名なSNSアプリは、鍵垢で閲覧と情報収集用に使っている。アドレスも、携帯やアプリで登録しているものではない。……と、考えると普通にもう一つの有名なSNSでメッセージアプリとしても機能しているもののほうがいいか。
メッセージアプリを起動させて、IDを交換してフレンド登録をしておく。
藤原さんとのフレンド完了。紙で携帯番号とメールアドレスを書いて交換した。何とか、ツテひとつ。
藤原さんは登録し終えると、俺を見て感心したように言う。
「賀茂くんは中学生なのに、ようしっかりしている。私の息子と仲良くなれうやわ」
……皮肉のようなイントネーションはない。褒めてくれている。息子さん居たんだ。
「息子さんとは?」
思わず聞くと、藤原さんはこの先が楽しそうに話す。
「賀茂くんと同い年なんや。陰陽師ではあるんやけど、まだなりたての子でな。同じ京都におるから、どこかで会えると思う」
……あまりあったことがない。京都なら接触してていいはずなんだけど、学校が忙しいのか。藤原さんが陰陽師のなりたてで言っているから、そちらで集中しているのか。同じ場所にいるならどこかで会えるのかもしれない。
というものの、たぶん藤原さんに気を遣わせている。大人個人で繋がるということは、普通に怖いし、大人になっても扱いを気をつけなくてはならない。大人と子供だけではなく、安全弁として大人同士の繋がりも作っておくべきなのだろう。
「……そうですね。息子さんが帰ってきたら、僕のことを話しておいてください。藤原さんのことを父に話したことありますが、この旨を伝えておきます」
俺はバッグからスケジュール帳とシャープペンを出して、藤原さんに聞く。
「今すぐというわけには行かないでしょう。お時間空いている日をお伺いしてもよろしいですか?」
俺の動作に藤原さんは驚いていた。
「……聞き慣れているね」
「生活しているときに、仕方なく身につけたものです」
嘘ではない。拙生さんとの時間を確保するために始めたことだ。家計簿や学校での行事のスケジュールをみるときに、本当に助かっている。あと、男衆の師匠のヘルプがかかるときに、スケジュール帳は本当にありがたい。
俺は器用のように見えて、器用じゃないほうだからこうメモやスケジュールをとっておかないと。
「では、私の空いている時間だが──」
藤原さんから、俺は空いている日時と時間について聞いた。




