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嫌な名前がでて、渋い顔をした。
「あの糞女……ある意味根性悪ですよ……」
《ああ、流石にあの影響力はヤバいと本社は判断して、早急の捕獲が決定された》
聞かされた判断に俺はきょとんとする。
「……捕獲ですか?」
《二度と発生させるようにするための処置を施すためだ》
確かにあんなものが野放しにされていたら、とんでもないことが起き続ける。
判断は間違いない。けれどわ俺に伝えたかったということは……。
「……あの、俺に伝えたかったということはもしかして……」
《……お察しのとおり。君を狙っているよ。朝飛くん》
ですよね。げんなりと顔に出す。
京都市内にいる理由。つまり、あの糞女は俺をターゲットにしているのだ。あの時、捕まえられなかったのを覚えているからかな……。稲葉さんはあまりいい顔をしておらず、通話に改めて参加する。
「旦那。変わります。疑問があります。一旦存在が消えたのにまた朝飛殿を覚えているとはどういうことですか?」
《そりゃ、朝飛くんが完全に暗示にかからなくて、抗ったからでしょう。滅多にいないから印象に残った。己で名前をつけるほどに、存在が確立されつつあるなら覚えられるいる可能性がある》
……俺は逃れられなかったとはいえど、少し抗った。それが滅多にいないから骨の髄まで覚えられていた。うげぇ……、吐き気を催すなぁ。
むしろあのまま暗示にかかっていたら、確実にテロのようなことを起こしてた。そして、ニュースでは無差別殺人事件か傷害事件……。もう他人事案件ではない。
「……早いうちに、潰さないとまずいですね。……俺が狙われているとなると、お父さんと周囲の人間を巻き込むわけにはいきません」
お守りを渡して防がれているとはいえ、お父さんと対面させるのはまずい。
学校は、流石に対策を練らなくてはならないだろう。校門の前で冊子を配る宗教団体のような感じでいると防ぎにくい。あと、祇園の守りを強くしたほうがいい。お祖母ちゃんたちにも巻き込まれる恐れがある。
携帯に俺は声をかける。
「拙生さん。学校地域と俺の家の地域周辺、祇園とお父さんの職場付近に結界を張りたいのですが……できますか?」
《できるけど、すぐじゃないぞ。ものを用意するにも、時間が……》
「……なら、拙生さんの今ある商品中で結界の札があるなら、今すぐにでも俺に対して販売しにきてくれますか?」
俺の提案に難しそうな声が聞こえてくる。
《申し訳ないけれど、学生にセールスはしたくない。こう注文の連絡を入れてくれているといえど、流石に注文するなら保護者同伴でないと──》
「なら、私個人で注文します。どうですか?」
拙生さんが困ったように言う中、稲葉さんが手助けしてくれる。携帯から驚きの声が聞こえた。……拙生さんも、このような申し出をするとは思わなかったようだ。だから、思わず聞いてしまう。
「……稲葉さん。よろしいのですか?」
「旦那に頼まれたことを守るのがわての仕事や。守れる術は多いほうがええし……友は失いたくない」
切なげに話す稲葉さんだけど……過去に何かあったのだろうか。彼の過去話を聞くよりも、俺は俺にすべきことをしなくてはならない。
「……ありがとうございます。稲葉さん。
……拙生さん。父は仕事で、今は家にはおりません。なので、俺の自宅でお話をしましょう」
《……わかった。じゃあ、四十五分後に着くから、それまでは待つように》
通話が切れる。……人混みの多い場よりも、俺の家のほうがまだ安全だ。稲葉さんが携帯をしまうと、俺は再度頭を下げた。
「本当にありがとうございます、稲葉さん。感謝しきれません」
「かまへんよ。けど、今は旦那を迎える準備をしたほうがええとちゃいます?」
「……そうですね。俺の家に向かいましょう」
稲葉さんの言うとおりだ。俺たちの足は拙生さんを迎えるために、俺の家に向かった。
廊下と居間は掃除してある。稲葉さんが手慣れたように急須とお茶の準備をした。ポットのお湯も問題ない。お菓子も用意してある。お皿には生菓子で和紙に乗ってて黒文字がある。もちろん人数分。お菓子は稲葉さんが速攻で買ってきた良い和菓子だ。稲葉さんがどれだけ拙生さんを怒らせたくないのか。お茶を淹れ慣れている様子でわかる。……一体、何百回接待しているんだ。
唐突な事だから、五行での性質やら五行を利用するなどしての勉強の機会が無さそう……。
と、いけない。今は事態を解決させないと。
インターホンの音がして、稲葉さんはビクッと震える。苦笑していると、声が聞こえた。
「朝飛くん。こんにちは。株式会社桜之花宮、羽山英明です。注文の電話を受けてきました」
拙生さんの声がした。
「はーい、今いきます」
俺は立ち上がって、玄関の土間にある下駄を履く。玄関の戸を開けると、いつものサングラスをした拙生さんが大きなカバンを手にしていた。
「来たよ」
「来ていただき、誠にありがとうございます。……お茶とお菓子もあります。どうぞ、お上がりください」
「では、お言葉に甘えて」
俺は拙生さんをあげると、玄関の戸を閉じた。二人で靴を脱いで、拙生さんを居間へと案内する。拙生さんが姿を現すと、稲葉さんはビクッと震えた。けど、すぐに真剣な顔に戻る。怖がっている場合でもないし、頼んだのは稲葉さんだしね……。
拙生さんと俺と稲葉さんで対面をする。緊張するし、こういうのは初めてだ。
「さて、稲葉はともかく朝飛くんはこうしてお客様の立場に立つのは初めてだよね?」
聞かれて俺は苦笑する。
「そうですね。時々父が拙生さんに注文の話をしてましたし、その間俺は勉強ばかり。当時の俺は拙生さんをぎゃふんと言わせたかったのです」
「ぎゃふん」
「今言わなくていいです。拙生さん」
「ごめんごめん。ああ、大智は今も定期購入をしているよ。初回は戸惑っていたなぁ」
拙生さんは懐かしそうに話す。
父が拙生さんの注文をしているのは、おそらく家の守りを強くするために結界の呪符や札。俺が妖怪や幽霊に狙われないように、定期的に購入をしているのだ。お父さんは小さい頃から俺を守ってくれている。家のなかで、身内関連の幽霊しか見たことないから。
「……そういえば、玉器とか、式盤とか、陰陽師が使うものは売らないのですか?」
気になって聞く。
占いの道具や儀式用とかあるはずだ。陰陽師は本来そちらに近い。式盤や形代など売ってそうだけど……。
「それは別の商人が売ってるんだ。札とか形代とかはフリマサイトや霊感商売の人が売ってるし、占い師もそれを売っているサイトもある。それに、現代は素材がスーパーやコンビニで買えて作れるし、神棚専門の店もあるから拙生はあまり売らない。注文されれば、取り扱うけどね」
言われて納得する。ネットでも見たことあるけど、あまり買おうとは思わない。この場合、信用している業者から買う方が安心か。
拙生さんは普通の訪問販売と違って、オカルトのものを売る。だから、普通の訪問販売のようなことはしない。
「拙生がちゃんとした訪問販売員といえど、詐欺もあるからあまり信用ちゃならないぞー。学生も被害に遭うことあるから、詐欺に関する情報収集は忘れずに」
「はい」
うまい話には裏がある。理解、解釈、分析。報告連絡相談。基本は大事にしないとな……。拙生さんは咳払いをし、俺たちを見る。
「じゃあ、そろそろ話をしようか。稲葉、朝飛くん」
「……はい」
俺と稲葉さんは姿勢を正す。




