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十二月。制服は完全な冬服で、俺は受験勉強に追われる。学校の友達はいるけど、勉強や受験で今は遊ぶことも少ない。拙生さんと稲葉さんとの時間、学校の友人との時間は分けている。
けれど、休憩は必要だ。今日は鬼で友人の稲葉さんと京都タワーにあるカフェで飲み物をテイクアウトして、近くの広い通りの隅っこでお茶をしている。……拙生さんから言われたであろう。髪型はともかく、私服は不良やヤンキーのようなものではなく普通にコートと長ズボンなど差し障りのない冬服だ。
ちなみに、お茶は俺が誘った。稲葉さんとも親交を深めるために、今も色んな話をして談笑している。そんな中、稲葉さんの出した話に驚く。
「えっ、人間にも鬼の血を引く人がいるのですか!?」
「鬼の子孫と言われてはるお方や、寺の宿坊をしてはる。たぶん、何回かてれびやねっとで取り上げられていたはず」
ネットで調べてみると、本当にでた。しかも、隣の県だ。
歴史のあるお寺さんでしかも修験道。本当に興味深い。
「人間にも近いとしても、わてら鬼からすると人間と仲良ーしとうた証で希望の象徴的なもんや。今まで続いてくれて、おおきにありがとうとゆいたいわぁ」
「鬼といっても、日本の鬼は神様や悪者、良い人とか、てんでばらばらのようで超人的や怖いというイメージだけは共通してますよね。そういえば、……稲葉さんには良い人。女の人はいないのですか?」
聞くと、稲葉さんは首を横に振る。
「いない。わてのいる山の鬼女は強すぎる。人の女の人のほうがええと言っとるけど鬼もいるけど、人と結婚するなら厳しい試練と条件を乗り越えなくちゃあかんよ。男同士や女同士の恋愛もあるゆう話やけど、わては普通のつもり。恋愛はええなと言っとるだけでええ」
「ああ……」
「朝飛殿はないん? 好いたおなごとか」
「男の人はいませんが、女の子ですか……」
ふっとある彼女はよぎるけれど──俺は首を横に振る。
「──俺はまだ恋愛初心者なのでよくわかりません」
「そう? 一人ぐらいならおると思ったけど……」
疑うように見てくるけれど……まあそれはそれ。俺はカフェオレのカップを手にして、笑ってみせた。
「人それぞれですよ。それに、俺は拙生さんとの時間が多い方でしたから」
カフェオレを一口。甘さを控えめにしてもらって、ミルクのこくが珈琲の酸味を消してくれる。……うん。美味しい。飲みながら、拙生さんのあることに気付く。
「……そういえば、拙生さんに女の人の影がありませんね」
拙生さんと話したことはあるけれど、恋人や伴侶といった影はなかったな。愛人ぐらいは居そうな人ではある。ちなみに、置屋の旦那様はスポンサーという形なので、恋愛事にははいらない。むしろ、お祖母ちゃんと拙生さんで俺を愛でる会をしているらしい……。
お祖母ちゃんといえば、前に男衆を手伝った帰りの時にお座敷遊びをしたお客様のお土産のお菓子とお小遣いをくれた。男衆の弟子見習いという立場をとっているとはいえ、俺個人のこともある。流石にお小遣いは返そうとしたけど、着付けを教えてくれる男衆の師匠からの口添えもあってもらった。ちなみに、男衆のお給料は俺は知らない。
拙生さんの話題を出すと、稲葉さんはサラリと。
「いや、旦那。昔所帯持ってたと聞いたことがある」
「…………はいぃ!?」
まさかの新事実に俺は驚く。
奥さん居たの!? 指輪で匂わせるとかなかったけれど、確かになんか子供の扱いには慣れてたような感じはあったけど……!
衝撃すぎる。拙生さん。居たんだ!
俺の驚きように、稲葉さんは同意するように頷く。
「わかるわかる。わても最初は驚いた」
「稲葉さんが聞いたのはいつですか? 拙生さんの昔ってどのくらい昔なのか」
「……わてが聞いたのは百五十年前ぐらい。本当に若造の頃やわ」
「今の人間に百五十年は生きられませんね……。……百年も前ということは、その頃じゃなくてもっと前ということでしょうか」
拙生さんは稲葉さんより年上だと聞いたことがある。若々しい見た目で、案外年を食っているのかもしれない。
「旦那は「道真様よりかなり年下の若造」と本人は言うてはった。あっ、そないや、妻と子供は嘉保か永長の元号の頃には居なくなったと聞いたような……」
悩ましい顔で話す稲葉さん。……嘉保か永長の元号って、平安時代後期あたりだったような気がした。道真公よりかなり年下ということは、稲葉さんの歳を余裕で超えていることを示す。
……拙生さん。もしや生き証人なのかな。稲葉さんより年食ってるうえに、長く人間社会に適応している様に畏怖する。
けど、なら、なんで道真公を基準にするんだろう。俺たちは神様として祀られている北野天満宮や太宰府の神を菅原道真公。神様ではあるけれど、元は人だ。人外なのは間違いないのだろう。
間違いないのに、何故か違和感があった。
「……拙生さんって、本当に何者なんだろう」
疑問を口にすると、稲葉さんは不思議そうに言う。
「旦那は、陰陽師の訪問販売人やろ」
「そうなんですけど……」
訪問販売と言う割には、物騒な面が発露する。ひとりかくれんぼの時の拷問発言や刀。ゾンビバエの例えとか……。まあ人外だからという理由で片づけられそうな気もしてしまうけれど。
稲葉さんは仕方なさそうに笑う。
「こうやってわてに会ったり、旦那のこと話したりするの。不安なんやろ、朝飛殿。旦那があの怪異を追ってしばらく会えてない。音沙汰がないから、余計に心配なんやな」
「……」
俺は黙って頷く。
拙生さんは訪問販売とは別の仕事をしているらしく、そちらの方が本当は忙しい。別の仕事をしているときは、訪問販売の方は別の人がやっているとのこと。拙生さんが別の仕事をして、過去に会えない期間が会ったので会えないのは仕方ないと思う。
心配なのは、被害が出てないかだ。唯一、拙生さんの連絡を知っているのはお父さんか稲葉さんと御客さんだけ。
オカルト案件にお父さんを巻き込むわけにいかない為、稲葉さんに頼ったのだ。俺は稲葉さんの様子と話から、連絡がないことを察する。
顔を俯かせて、溜息を吐く。
「……稲葉さんから聞けばわかるかなと思ったんですが……」
「ほんま、申し訳ないと思っている。けど、朝飛殿は人間社会の受験しーずんにはいるんやろ?」
受験シーズンだから、俺が落ち着くまで男衆としての修行と手伝いはない。生徒会と仕事はあれど、高校にはいったら生徒会にははいらない。
入る高校は決めているし、内申点も申し分ないなずだ。でも、問題は学費だ。お父さんも稼いでいるといえど、流石に限度はある。学費の免除の制度や奨学金について、先生やお父さんに相談をしている。
そこは中学生で考えるまでじゃないと言われそうだけど……少しでも負担は減らしたいし社会勉強をしたい。
頷いて、気まずい顔をする。
「……はい、そちらに集中するつもりです。……心配しすぎは毒ですかねえ……」
「せやなぁ……。けど、わては朝飛殿の護衛で友。困ったことあったら、話ぐらいは聞きますよ」
にこやかに言われる。……上下や主従関係ではなく、友達と思ってくれている稲葉さんに感謝だな。俺は稲葉さんに手を出す。友好の握手だ。
「ありがとうございます」
「こちらこそ、おおきに」
稲葉さんは優しく握ってくれた。
稲葉さんのポケットからバイブの音が聞こえる。
「あっ、すんまへん」
「気にしませんよ。どうぞ、そちらを優先に」
すぐに手を離して、稲葉さんは携帯を出す。画面を見て目を丸くすると、すぐに通話の操作をして携帯に話しかける。
「……もしもし」
《もしもし、稲葉か?》
……スピーカーの機能だ。その機能を使ったのは、通話の相手が拙生さんだからか!
「拙生さん!?」
《その声……朝飛くんか! 稲葉と一緒に居たのか》
驚く俺に、拙生さんも驚いたようだった。けど、声は真剣なものに戻る。
《なら、丁度いい。朝飛くんに話すことがある》
あまり聞いたことのない真剣な声に俺は息を呑む。拙生さんは悍ましい糞女の名前を言う。
《愚喰市個の復活が確認できた。今、京都市内にいる》




