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ep8

 黒鬼。確かに、鬼にも五行の色が使われていた。

 青鬼と赤鬼。緑鬼と黄鬼。そして、黒鬼。仏教と五行思想が組み合わさったものだ。

 仏教では難しい言葉ではあるけれど、簡単に言うとこうだ。

 赤鬼は欲深い。青鬼は苛立ち。緑鬼は怠け。黒鬼は疑心暗鬼。黄鬼は自己中。

 これらは五行の色で合わせられ、黒鬼は水行に類する。

 丑寅の土と木、申の金。鬼門の土に苺の木に稲葉さんの水……。


「さっきは相生と相剋は行われたけど、猿が来る前は相剋の性質が多かったんだろう。で、そこに猿ヶ辻の猿。干支では金に属する。『相乗』や『相侮』のようなものは起きてない。なら、なにが猿を呼び出したのか。基本の五行の性質で改めて考えて直してみればいい」


 拙生さんに言われる。

 基本の五行……?

 思い出しながら五行の性質を思い出す。

 水は火を消すけれど、水は木の成長をうながし、土によって水が濁る。

 木は火を燃やすのを助けるけれど、金によってなぎ倒され、土の養分は木が吸い取る。

 金は表面に水を出現させ、土から金が生まれるけれど、金は火によって溶かされる。

 火は水に消すことができるけど、金を溶かすことができる。火によって燃やされたら木は灰となって土に返る──あ。

 一つの性質が、よぎった。だって、場を平穏にするためには秩序が大切なのだ。当たっているかはわからないけれど──。


「……もしや、『勝復』ですか?」

「ほぼ正解。正しくは『勝復』に近いもので、猿ヶ辻の猿を呼び寄せたんだろう」


 拙生さんは鬼門の方角を見つめて話す。


「五行の属性が強まったり、弱まったりしないように『相克』や『相生』が繰り返され、平衡の関係にしようとするのが『勝復』だ。ようは、バランスを保とうとして猿が戻ってきた」


 地球温暖化の例を見たのに、思い浮かばなかったな。

 猿ヶ辻の猿が来た理由は、場を保とうとしたからか。……けど。


「……バランスを取ろうとしているなら、なんで稲葉さんを蹴る必要がなかったのでは……?」

「わてが鬼だから蹴ったんよ。猿は鬼門封じに使われる。それに、桃太郎の猿も鬼退治の手助けをしているしなぁ……はぁ」


 顔を俯かせて、深い溜息をついている。……蹴られ損な部分はある。本当にすみません。けど、蹴ったことで一つ思うことはある。


「……『勝復』である意味場を保たれているならば、あのお猿さんが稲葉さんを蹴る必要がなかったのでは?」

「いや、あの場での秩序を保つには『勝復』はあかん。だから、蹴ったのでしょ。あの場は、昔からああして保つのがええん」

「なぜ?」

「昔からそういうふうにやってきたという理由はあるけれど……長年あの場で保ってきたものを別のもので保たせると、他の場にて秩序を乱す」


 稲葉さんがいうと、拙生さんは同意するように頷く。


「稲葉の言う通りだな。

例えるなら、ある山で大雨が降ると土砂崩れが起きる。土砂崩れの原因は土砂崩れを留める木を伐採したか、そこに意図的に多くの土砂が積まれていたせいか。自然ならば兆候らしきものや状態などを見て判断ができる部分もある。しかし、人の手が入った事により、災害が早まった。また、そこにあった秩序を一つでも乱すことは災害に繋がる」


 自然災害と人災で起こされた自然の災害で、当てはめるとわかりやすいな。一つの自然災害で取れだけ生息地と人の住む場もインフラに影響がある。つまり、他の秩序を守るためにも、手を入れない箇所があるのだ。


「じゃあ、今までのやり方が正しいのですか?」

「そう」


 拙生さんは頷く。学んだことを俺はメモを出して、今日の起きたことを書き連ねる。


「けど、鬼と苺という組み合わせも中々いいと拙生は思うけどな」

「……やめてくださいよ、旦那。鬼門封じが苺を持った鬼なんて、ただの路上にいる商売ますこっとですよ」


 と涙目で御尤もなツッコミをする。

 確かに、鬼とかアニメやラノベでも使われるし、萌えキャラに使われたりする。稲葉さんも顔が整っている方だから、いちごをとか関西弁を使うとキャラが立ってるし……よく考えるとうん。すみません。俺は何も言えません。

 書きながら、俺は京都御苑の休憩所に和菓子屋があることを思い出す。


「……そうだ。稲葉さん! お時間ある時に、ここの中にある休憩所でぜんざいかパフェを食べに行きましょう。今日のお詫びに!」

「あの、わてはええといったんですけど」


 困惑する稲葉さん。するだろうと思ったので、俺は拙生さんを親指で指さす。


「いえ、拙生さんの奢りで」

「あっ、奢るの、拙生なの?」


 指さす拙生さんに俺は呆れてみせる。


「もう、圧をかけないであげてください。あと、稲葉さんにお礼をするという言質をとってます」


 注意もすると、拙生さんは楽しげに笑っていた。


「ははっ、確かに言ったな。なら言葉通り、拙生が奢らないとな」

「そうですよ。……あ、稲葉さん。甘味は大丈夫ですか?」


 甘いのが好きかどうかは、鬼の個人差によるかもしれない。心配そうに聞くと、稲葉さんはほっとしたように笑う。


「甘味は大丈夫。おおきに、朝飛殿」


 気を使う様子はなく、本当に大丈夫のようだ。

 ……まだ問題は終わってはいないけれど、少しだけ勉強になったこともある。今日は充実したと考えよう!



 ニュースのアプリの速報でで猿ヶ辻の猿の木彫りが戻っていると通知が来た。内容は、なんで戻って来たのかはわかってないけれど、安心したような内容だ。金網は新しくつけられられるらしい。お父さんもニュースの内容を見てホッとしつつ、何があったのかを聞いてくる。

 拙生さんとお父さんは繋がっているし、どんな事があったのは知っていると思ったのだけど……詳細は聞いてないのかな。

 よし、何があったか話そう!

 俺は夕飯で何があったのかをお父さんに話した。

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