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猿ヶ辻の猿を探して捕まえなくてはならない。だが、どう捕まえるのかも問題だ。付喪神かなと思ったけど、あの猿は日吉神社の神使とされている。話が通じる状態かもよるだろう。
「拙生さん、稲葉さん。スマホで調べことをしてもよいですか?」
「いいよ。ところで何を調べる?」
拙生さんに聞かれ、俺は片目ウインクをする。
「SNSの呟き検索です。メディアリテラシーが試されますが、速報性としては確かなので」
昔の日本人はメモ魔、よく要記録を取っていたと聞く。日常とか、何があったかを事細かに書いてあるから分かる。それが今はSNSになったのかな。
俺はスマホを出して、確かめた。中心部と言われる都市部には猿が出没するニュースはやる。SNSが当たり前の世の中、呟きも当然多い。
日本で主流になっているSNSのアプリからではなく、別のサイトからサーチをかける。
猿、目撃とかの文字を入れて、今日のニュースがやった時間からその前で確かめた。猿ヶ辻の猿の目撃情報をみる。
都市部に生物の猿が出没すれば、ニュースになる。だが、猿ヶ辻の猿が消えたというニュースだけで、目撃情報らしきものはない。猿を見たという情報を多くはなく、あったとしてもフェイクの可能性もある。
御所の監視カメラや人に聞けばどの方向に行ったか分かるだろうが、猿の像が動いたということだけしか分からないだろう。
いくつかのワードを組み合わせたり、別の言葉を入れて検索してみたけれど……。猿を見たという話もなければ、猿がいたという話がない。
猿ヶ辻の猿の姿はだいぶ特徴的だからわかると思ったけれど……そんなことはない。野生動物の猿は堂々と生活網に現れては電線や屋根の上を飛び乗って行く。けれど、あれは若い猿か群れからはぐれた猿と聞いたことがある。野生動物といえど、知性のある猿。だが、猿ヶ辻の猿の知性が人と同じ。もしくはそれ以上であるならば、話が異なる。
一応、今の時間帯で調べて見るけれど……猿出没らしき話はない。
「……猿が出たという話はないですね。都市部に目撃情報はないようです。表に出れたので羽目を外すことはあるかなぁと若干思ったのですか」
「今の猿ヶ辻の猿は、昔みたいに悪戯とかする性格じゃない。それに、あんなものを御苑内の侵入を許したことを許せなくて、姿を隠して探しているのかもな。姿がわかるのは、強い霊力や強い霊感のある人間だけど」
「……もしかして、知り合いなんですか?」
「約百年単位での知り合い。今、どんな状態だかは分からない。拙生の話を聞いてくれるかな」
それを早く言ってほしい。いや、そもそもあの猿を知っていたのならば、宥めてほしい。……時は既に遅しではあるけれど。
……まずあの猿ヶ辻の猿と知り合いで、呼びかけに応じるということは、話せるほどの知能があるということ。……あの時の猿は興奮状態だったし、俺が知らなかったのもある。
どうしようかと考えるけれど……あっ。
「……京都御苑内の霊力の流れを感じよ」
与えられた課題の内容を口にすると、拙生さんは不思議そうに言う。
「ん? それ、拙生が朝飛くんに出した課題だね」
不思議そうに言うけど、この人は演技をしている。本当なら猿ヶ辻の猿を連れ戻してこれる力があるはずだ。拙生さんは遠回しにこう言いたいのだ。
【猿を連れ戻せるかな?】
別にやらなくても良い。けど、拙生さんは俺を試している節を感じさせる。だから、できる範囲でやることをやらせてもらう。
霊力の流れだが、鬼門や裏鬼門のほうが流れが速い。猿はその流れの中で悪質な存在を見張る見張るか追い払う役割がある。
「誘き寄せてみましょう」
「誘き寄せる?」
「あの猿ヶ辻の猿の役目は京都御所の鬼門除けです。役目を放棄するなんて、今は許されないでしょう」
「ふむ、なら、どうやって誘き寄せるのかな?」
猿ヶ辻のある場所は鬼門の方向にある。京都御苑の中と言えど、派手なことはできない。でも、それ以外でも刺激できることはある。
「単純なことといえど、工夫は凝らします。まず……」
俺はバッグからお財布とエコバッグを出す。
「スーパーで生鮮食品を買いましょう」
俺の真剣な姿に、拙生さんと稲葉さんはきょとんとしている。……言っておくが、ふざけているわけではない。決して昼や夕食の買い物ではない。
「……猿は、果物が好きだというので果物を買いたいのです!
ただそれだけで、誘き寄せられるとは思ってません。工夫を凝らします!」
「工夫とはどんなのです? 朝飛殿」
聞いてくる稲葉さんに俺は目を向けて、一礼する。
「稲葉さんのご協力も必要なのです。よろしくお願いします」
「わての? できることならしますよ」
にこやかに微笑んで、オーケーを出してくれる稲葉さん。俺は頭を下げて礼をする。
「ありがとうございます! 早速、スーパーにいきましょう!」
二人に告げて、スーパーへと足を向ける。
日が沈みつつある時間。
京都御苑にいくと、俺達は姿を隠す面をする。俺は布だけど、拙生さんは何かの鳥を模した木造の仮面だ。稲葉さんは鬼の姿に戻っている。妖怪に近付くと、稲葉さんは普通の人から視認されにくくなる。そして、手にしているものも分からなくなる。
稲葉さんの表情は無に近かった。理由は、猿ヶ辻の前で彼は赤い苺のパックを手にしているからだろう。
帰宅する夕暮れの時間や散歩を楽しむ老夫婦や観光客。稲葉さんが見えないから通り過ぎていく。猿ヶ辻の前で、スーツ姿の鬼が赤いいちごのパックを手にしながら無の顔で眺めている。
……すみません。ものすごくシュールな図にさせてしまいました。
俺たちは離れた場所から観察しており、拙生さんは感心したように言う。
「ほー、稲葉にあんなことさせるなんて凄いな。朝飛くん。見えている人が見たら、一発で関わりたくない不審者だ」
「……見えてないのがまだ救いですからね……!」
本当に妖怪でよかったけど、当人に酷なことをさせている自覚はある。稲葉さん。すみません。あとで、なにかおごります。
「しかし、考えたね。朝飛くん」
感心されて、俺は瞬きをとする。
「苺を持たせて鬼状態の稲葉を立たせる。間違いなく、刺激になるね」
「……ただの煽りではなく?」
「いや、五行の属性と性質的に。そこも考えたでしょ」
「……まあ、はい」
拙生さんの指摘に俺は頭をかく。
苺は赤い色で五行的には火。けれど、東洋医学の五行では酸味と甘みもあるから木と土に類する。でも、本質は植物に類するので、強い属性は木。
猿、いや干支の申は五行では金に属する。鬼門の丑と寅。丑は土に属し、寅は木に属する。鬼門と裏鬼門は五行で土が強いけど、干支で方角を表すと別の五行もある。猿が鬼門に置かれたは、言葉遊びだけではないかもしれない。
京都御苑の中で法律や条例に反することはできないし、俺なりにできることしたつもりだ。
稲葉さんが持っている神獣の加護の羽根は拙生さんが預かっている。鬼の気配が強く出ているからこそ、猿は戻ってくると思う。
鬼門の五行の属性を強くするものと鬼。鬼門を乱すものが揃えば…⋯!
「いやー、しかし、拙生。猿が苺が好きだから、朝飛くんは苺を選んだのかと思ったよ」
「はっはっ、まさか」
表情を取り繕う。そのまさかです、はい。猿というか、ニホンザルはいちごが好きという情報を見たことあるので参考にしました。バナナよりイチゴが好きだそうです。はい。
拙生さんは意地悪く俺に笑う。
「まさか?」
「まさかまさか」
にこやかに笑って返すものの、奥から足音が聞こえる。
砂利の足音ではない。鉄板の上を歩くような音。俺は笑うのをやめ、拙生さんは普通の笑みをたたえる。
「来たか」
塀の屋根瓦を伝って、駆け出していくものがいる。烏帽子を被って、御幣を持った猿。違いない。猿ヶ辻の猿だ……! 猿ヶ辻の猿は他の人には見えてないらしく、音にも気付いていない。
俺たちは猿のあとを追う。もしかして、苺じゃなくて稲葉さんに反応したのかもしれない。
俺たちより先に、猿は稲葉さんの元へと向かう。流石は猿!
俺よりも走るのがはやい──。
[テメェはわてを舐め腐っとるのかぁぁぁ──!?]
と、猿が稲葉さんの顔にめがけて飛び蹴りをいれる。
「稲葉さ──ん!?」
俺は倒れていく彼の名前を呼んだ。




