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 霊力というのは、目ではわかりにくい。稲葉さんに聞くと完全に目で見えて分かるらしい。

 陰陽師はどうなのだろう。俺は感覚で流れとかを追っているけれど、自然が多い場所だと分かりにくい。けど、京都の都市部ならば場が整っているおかげか、分かりやすい。

 理由は街作りだ。碁盤の目。中国の長安をモデルにして、天皇を中心とする為に作ったとされる。

 平安京は四神相応という考えで作られたと、最近知った。

 四神相応とは、四神が司る方角に応じた地上で最もよい土地の運勢のこと。また色としても使われる。

 朱雀は南で火の属性。季節は夏に相当。京都では巨椋池《おぐらいけ》。京都競馬場あたりにあるとされていた場所だ。

 対応する玄武は黒で水。方角は北で、冬に当てはめられる。場所は船岡山らしく、厩戸皇子……聖徳太子の時代からある山だという。

 西の白虎に当てはまるのは山陰道らしく、五行は金。季節は秋で色は名前の通り白だ。

 青龍は名前の通り、青。東で春の季節を司るも言われる。五行では木だ。場所は鴨川。

 名を挙げた場所の四つは平安京での四神相応の場とされるけど、あくまで有力な説。定かじゃないし、正しいかどうかはわからない。

 四神の扱いは地域によって違うかもしれない。でも、四神というけれど、五神、六神もあるという。中央は麒麟や黄龍とさており黄龍は十二神の勾陳と同一見される。ちなみに、中央で金色で五行は土。

 六神の場合は、天を司る騰蛇という龍もいるようだ。

 ルーツは古代中国といえど、日本の文化に根付いているようだ。

 丑寅は鬼門。未申は裏鬼門。

 鬼門は北東。裏鬼門は南西。

 鬼門は鬼がやってくる災いがくる方角であり、裏鬼門は鬼が出ていく不吉な方角とされている。丑寅と未申は干支で現した鬼門と裏鬼門の方向だ。ちなみに、五行思想は鬼門にも当てはまる。

 ……あっ、方角で思い出したことがある。

 昔家にあった羅針盤。

 乾、兌、離、震、巽、坎、艮、坤。これらの文字が円のように刻まれていた。あと、甲、丙、戊、庚、壬、乙、丁、己、辛、癸。十の漢字もあった。それだけでなく、十二支も刻まれていた。

 羅針盤に書かれた文字が意味が、今やっとわかった。あれは、方角を示すのものだったのだ。

 あったら、ちゃんとよく見たかったなぁ……。学んでみたかったなぁ。

 悔やみながら霊力を感じていると変化があった。


「⋯⋯あっ、拾翠亭の方の霊力の流れが一定になった。⋯⋯ということは⋯⋯これが……?」


 目を凝らしながら、俺は透明な流れを追っていく。霊力は僅かに見えるが、集中して見ないとわからない。

 京都御苑の中を稲葉さんと一緒に歩きながら、俺は集中して流れを追う。

 猿ヶ辻にある強い力を感じながら、俺は腕を組む。


「⋯⋯猿ヶ辻の方は力はまだ強いですね。本当に悪いものを通さないって感じです。⋯⋯あっ、丸太町通にあるいくつか霊力の流れが一定になった。⋯⋯少し良くない気はあれど、御所を触るものじゃないみたいですね」

「今してる作業は、御所内のセキュリティを強化してるようなもの。害のないやつはともかく、悪意ある幽霊や悪いものを素通りさせるために流れを一定にさせとる。通ってきた瞬間に流すものや」

「⋯⋯つまり、入ってきて悪いものだと分かった瞬間、押し流す的な?」

「正解。それでも悪いものの場合は、もっと上の強いセキュリティが発動する。流石に網やざるのように濾して、悪いものを取り除くと言うのは御所内に悪いものが残るからやれへん」


 言うと、彼は頷く。確かに、取り除くという作業をすると手間がかかる。俺は一定になった方向から離れて、まだ流れが一定じゃない場所に向かう。

 ⋯⋯流れを追うと言うけど、まさか色々と分かることが多いとは。

 自然の川の流れなら追うのは大変だけど、川が整備されたように街並みも整備された場所ならば流れは追いやすい。


「⋯⋯しかし、霊力が完全に目で追えないのはなんでだろう」


 ポツリと呟く。ひとりかくれんぼのときに黒いものは見えたけど、あれは宿った幽霊が怨霊に近くて、ぬいぐるみ自体が曰く付きであったから分かったこと。

 呟きが聞こえたのだろう。稲葉さんは話しかけてきた。


「⋯⋯朝飛殿。人でもわからない力を完全に視認できたら、それはもう普通の人じゃあらへん」

「⋯⋯普通の人、じゃない?」


 霊力を完全に目で追えることが?

 不思議そうに思っていると、稲葉さんはあまりいい顔をしなかった。


「一瞬で追えるならまだええ。でも、この日常風景が見えてる中で、力が普通に見えとったら、それはもう住む世界が違います。朝飛殿や陰陽師たちが幽霊や妖怪が見えてるのは、あれらは力の塊だから。星の一等星や二等星のようなものだから見える。けど、地脈や霊力の流れ、自然の力を完全に視認できてしまうなら、それはもう人の域を超えとる」


 稲葉さんの話を聞いて、わかってしまった。

 目で見えるから駄目なんじゃない。自分の目が顕微鏡やサーモグラフィーのように、よく見えてしまう機能を持ってしまうのが駄目なんだ。それを常に起動させているならば、確かにそれはもう人じゃない。サイボーグのような、人の倫理や価値観が変わる存在になる気がした。

 仲間の輪に外れたような感じがして、俺は頷く。


「⋯⋯理解しました」

「朝飛殿は、人外になりたい?」


 聞かれて、俺は苦笑する。


「まさかそんな。⋯⋯怖いですよ」


 俺は人でありたい。お父さんの息子で、拙生さんの弟子でありたい。人の輪から外れて人外になるなんて、大切な人を置いていくことじゃないか。それが、俺は怖い。

 息を吐いて、俺は空を見る。


「はぁ、しかし、霊力が見えていいのも限度によるんですね⋯⋯。身代わりの術をどうすれば⋯⋯──ん?」


 猿ヶ辻の方向に何が違和感を覚えた。

 稲葉さんも目を丸くし、猿ヶ辻の方向を見る。


「⋯⋯丑寅の方向。なんや、この感じ」


 わからない。けど、なんか引っ張られる感じが、する。自分の意識で抗おうとしても、抗えない。誘われるよう、な。俺は気になって猿ヶ辻の方へ走った。


「っ朝飛殿!?」


 なんだ、ろう。なんでだろう。興味や好奇心が出てくる。足を止めなくてはならないのに、止められない。

 猿ヶ辻の方に来て、一人の女性を見つけた。その女性は黒くて髪が長くてスーツを着ており、トランクを手にしている。凄く美人で普通に見える。俺はやっと足を止めた。その人は俺をみて愛想のよい笑いを浮かべるが、のっぺりとしている。


「こんにちは。ここで会えるとはまさに運命。特別な存在である私に会えたことは光栄ですよ」


 不審なことを言っているのに、なんだか自然と受け入れてしまう。おかしい。おかしいのに、俺の足が動かない。身体が、俺の意思で動かない。金縛りを受けているようだ。けれど、口は動く。


「どなた、です、か」

「ああ、申し遅れました。私は愚喰市個と申します。こういうことをしておりまして」


 と、差し出された名刺を俺は受け取る。

 名刺には呪物売買人と大体的に書かれており、携帯番号と会社名。アドレスやSNSのIDがない。ただ名前と商売の肩書きだけ。

 愚喰という女性は笑みを崩さず、トランクを開ける。


「特別な私を見つけてくださった貴方様に、あるものを紹介いたしましょう。

こちらは──」

「⋯⋯待ってください」


 手を止めさせて、力を込めて俺は注意をする。


「⋯⋯こんな場で商売するなんて、良くないですよ。許可なしでの売買もだめです。やめましょう」


 注意をするのに、力がいる。おかしい。普通に注意をすればいいのに、冷や汗ばかりが出てきて手が震える。訪問販売の時の書類もないし、ましてやそのまま売りつけようとするとは

 相手は笑みを崩さずに不思議そうに聞く。


「何故? 特別な存在の私には関係ないことですよ?

貴方様が注意するのは良くないですよことでは?」

「そうじゃない! 京都御所内はそう商売する場ではない⋯⋯!」

「おかしいのは貴方では? 私は悪くないのですよ。あなたの言うことがおかしいのであって、私が言う事が正しいのですよ。私には特別なことが起こる。私は特別な存在イチエル、神様や天使が見守ってくれる。許してくれます」

「っ」


 駄目だ。話が噛み合わない。事務的で機能的な話し方。しかも、こいつ⋯⋯おかしい!


[きぃぃ!!]


 ばんばんと屋根にある金網が激しく動く。猿ヶ辻の猿が、女に対して威嚇をしている。俺に逃げろと訴えているようにも見えた。動く話を聞いてはいたが、本当に動くとは。けど、そんな場合じゃあない。

 鬼門除け、鬼門封じの猿が、威嚇をしておるのが問題だ。

 愚喰という奴は、猿の威嚇をものともせずに俺に話していく。


「気を取り直して、こちらの商品はいかがでしょうか」


 こいつ、普通じゃない!


「日象」


 聞き覚えのある声がした。


「っ!」


 愚喰の手ごとトランクが燃えていく。ひとりかくれんぼで見たときと同じ、白銀の炎だ。燃やされたトランクと自身の手を見て、愚喰の表情は歪む。


「っうわっ!?」


 俺の手にしている名刺も燃えた。名刺は地面に落ちて、一気に灰とかす。

 奴の背後に人がいた。


「許可して売買しないとダメだし、契約の書面とかないの? 拙生はちゃんと守ってるのに、守ってないなんて法律違反だぜ」

「拙生さん⋯⋯!」


 拙生さんだ。身体が動くうえに、意識も自由になっている。拙生さんが来てくれたおかげなのだろうか。無事の確保の為に、俺は急いで彼のもとに駆け寄る。

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