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11月。休みの日、和紙とハサミを用意する。和紙を人形に切ったあと、俺は紙を見つめる。
……むむっ、紙に力を込める感じ……。
と、人型の紙がぱんっ! と弾けてばらばらになった。び、びっくりした……。心音は激しい。部屋の中は紙くずだらけで、失敗の数を表している。
「……っだめかぁー……」
寝転がって、俺は息をつく。力を込めすぎたのかもしれない。疲れてきたし、今日はここまでにして、部屋の中を片付けていく。
片付け終えたら、ルーズリーフで失敗点と成功した点と継続できた点を書く。
後で改善点とかを書いておこう。
拙生さんは約束通りに術を教えてくれた。最初に身代わりの術。やるべきは物に霊力を宿すという修行でありやり方を教えてくれた。その後はあと、俺は何度か紙に霊力を宿す修行をしている。
拙生さんの修行の内容はこうだ。
「身代わりというのは、呪いや厄から守る形代。けど、拙生が教えるのは物理的にも守れるやつだから、覚えるのにだいぶ苦労させるだろう。そのぶん効力は間違はない。まずは無機物に力を宿すことから。そうだな、植物が根を張るイメージか。予防接種だな。注射針でワクチンを入れられるイメージが必要だな」
とりあえず、予防接種の生々しいイメージだけはやめてほしい。喜ぶのはドMだけです。
俺はなんとか物に霊力を宿すまではできたけど、加減と言えるものがわからない。拙生さんに教えられたことを思い出す。
「拙生の教えるやり方はいわば、ドッペルゲンガーを身代わりに使うようなものだ。ドッペルゲンガーは自分の写し鏡、魂の一部やら言われている。だからこそ、ドッペルゲンガーというものは身代わりに使える」
ドッペルゲンガーを、使うか。想像できないが、なんか納得できてしまう。例えは少し怖いような気もするけれど……。カーボン紙やコピー用紙、和紙とか色々と試してみたけど容量は同じだ。けど、紙の性質によって使いようによるだろう。
「……そうだ」
俺は拙生さんに勧めてもらった五行思想の本を読もうと考えた。
本棚を探していると、俺は少し古い絵本を見つけた。『もののあはれなきんのとび』だ。懐かしい。
本棚から出して表紙の絵を見てみる。
金色の鳥が空を飛ぶ絵だ。
これは、お父さんのお祖父ちゃん。曽祖父がくれたものらしい。だから、ある程度古い絵本。
古い絵本は本当に有名なものしか残らない。つまり、名作ともいえるものだ。
でも、『もののあはれなきんのとび』という絵本は調べても出てこなかった。分かることといえば、本の作りが俺が見てきたものよりもの少し違うということ。……昔の本だからというのもあるだろうけど、この絵本にはバーコードとかついてない。かと言って江戸以降や明治や大正の昔ながらの絵本、ではない。そんな物は間違いなく、博物館に寄贈すべきレベルの貴重な歴史資料だ。これは、昭和の時期に作れたもの。経年劣化から観察して直感で…⋯昭和の中期かな。と考えると、曽祖父が作った本ということになる。
内容は子ども向けでは無かったけど、自分は何度か読んでいた覚えがある。あまり外に出しちゃいけないと言われていいたような。
けど、きんのとびってなんだ?
考えながら時計を見て俺は我に返る。
そろそろ、買い物しないと。
買い物は分担しているけれど、仕事のある日は俺が買い物をすることになっている。普段の夕食や昼食は作り置きできるものや常備菜が必要だ。足りない日用品の買い足しや店のアプリでの広告など。本当はお母さんがいたらいつもやることなのだろう。居たら、この大変さは分からない。
スーパーの広告のアプリを起動させて、俺は近場のもので安いものを見る。
魚やと肉やで安い場所はある。タイムセールの時間も把握済み。家計簿をつける、家事とか買い物の経験。これが、今後の生活に役立っていけたらいいな。
スマホのSNSアプリの通知がはいる。飲み会や忘年会のような行事があると、必ず連絡いれるようにしてくれているけれど。
俺は書かれている内容を見た。
【こちらで買えるものはあるか?】
買い物の手伝いのようだ。今日の父の帰宅時間を考えると……。
【今日はいつも通る薬局を見たら日用品が安いからそっちでトイレットペーパーとお水の箱をを買ってきてほしい。いつものやつ】
スタンプで了解という敬礼が送られる。俺は携帯をバックにしまい、着替えた。
いつものように出て、いつものように玄関を施錠する。
エコバッグはリュックに入れた。おサイフもある。自転車で行くのは勿体ない。歩きながら買い物して、京都の街並みを見るのもいい気分転換だ。あと、自分の足腰を鍛えるのにちょうどいい。
夕飯はハムと野菜多めのサラダと、湯豆腐かなぁ。常備菜もあるし、ご飯は明日のお弁当の分だけ炊いておこう。お父さんにはお酒は程々にしてもらおうかな。いくら酒が強くても、飲み過ぎは毒だ。
大きな道路を出て歩いていると、背後から声がかかる。
「朝飛はん?」
聞き覚えのある声に俺は振り返る。
「もしや、夏菜さん?」
「やっぱり、朝飛はんやわ。こんにちは」
着物の姿で頭を下げる彼女に、俺も頭を下げた。
「こんにちは。夏菜さん」
「ええ、はい。お買い物?」
「そう、俺とお父さんの役割分担でね。君は今日も稽古なのかな?」
「ええ、舞踊のお稽古どす」
舞妓はんのような言葉遣いをする。昔の京都の人は使っていたらしいけど、舞妓はんが使うような京言葉は今は使われてない。
俺は夏菜さんの稽古姿を見て、感心をする。
「出身が京都の人で舞妓を目指して、その前から舞踊とかやってるのすごいよ。俺の家庭事情も珍しいと言われるけど、夏菜さんも負けてないよね」
「ほんまにうちも珍しいと思うわ」
くすくすと笑う夏菜さん。日本各地には舞妓や芸妓となる場所はちゃんとある。だが、舞妓といえば京都というイメージが強い。言ってしまうと、京都の地元から舞妓になる少女の数はあまりない。俺が珍しいというのは、夏菜さんが出身が京都でありながら舞妓を目指しているからだ。俺のお母さんも京都の出身だから珍しさを感じないと思う。案外、地元から舞妓を目指す人は少なかったりする。
お祖母ちゃんが置屋のおかあさんだから、俺は舞妓はんや芸妓のお姉さん方のいる世界のことは少し知っているつもりだ。
「県外から来る人も頑張っているけれど、府内からも努力している人もいる。舞妓はんの世界に挑む人はすごいなと思うよ」
「ほんまにそう思うわ」
「でも、夏菜さん。舞妓の世界にはいるってことは、俺たちの流行とか情報とかについていけないことになるけど、大丈夫なのかい?」
昔はそうでなかったとしても、今は情報社会だ。俺の言葉に、夏菜さんは迷いも無く頷いた。
「ええんよ。何も知らないほうがええこともある。SNSなんて、もう見とうない」
遠い目をして夏菜さんは語る。……ああ、うん。
「疲れちゃうからね。一理ある」
俺は同意するように頷くと、夏菜さんははんなりと笑う。
「そうやね。おおきに。朝飛はん。ほな、また学校で」
「ああ、夏菜さんもまたね」
手を振ると、彼女も手を振って俺の前から去っていった。
夏菜さんは、SNSを見たくないと言った理由は単純だ。
夏菜さんには幼い頃までお姉さんがいた。お姉さんは誹謗中傷を受けて自殺に追い込まれた。本当に、単純だけど凄く嫌なこと。そして、他人からすれば他人事になってしまう。……本当に凄く嫌なことだ。
買い物を済ませて、一旦家に帰るとら生ものと野菜をそれぞれ適した方法で保存していく。また家を出て、俺はいつもの様に寺の門前にゆく。
観光客や地元の人もいるけれど、拙生さんは俺にとって目立つ。……俺だけにしかわからなかったこと、見抜けなかったのが悔しい。
……サングラスをずっとかけている彼しか知らないし、素顔を知らない。いつか、サングラスを外してやろう!
いつかの目標を胸のうちに掲げて、口をひらく。
「拙生さーん!」
いつもの様に声をかけて、彼を振り向かせた。




