ep15
包丁を拙生さんが燃やして消した。焼失できる力があるんだ。流石に処刑場跡で長居するわけにいかず、その場から離れる。
稲葉さんと合流して、俺たちは花の回廊と呼ばれる川辺にある道を歩く。人の気配がない鴨川の道。鳥や獣などがいない。魚らしきものがいるけれど、生物として登録されているものなのか。
不気味というよりかは、不思議だ。
四条大橋の近くまで来ると、階段を登って四条大橋の近くまで来た。車が通らないせいか、広々として話せる場所のようだ。
「……さて、話そうか」
トランクを手にしながら、拙生さんは話す。
「拙生の仕事はものを売ることだけど、その販売ルートは限られているのは知っている?」
「はい。電話をした人だけに、陰陽師の協会か紹介がなければ売らないんですよね」
訪問販売というが、拙生さんが陰陽師や退魔師、訳ありの家系や人以外に売る相手は限られている。訪問販売業者としても法律は守ってはいるが、オカルト側の訪問販売員は民間に効力のある陰陽師の道具を売りつけない。退魔師や陰陽師専門の出入り業者とも言えるだろう。
俺の話に拙生さんは頷く。
「そう。力が有るものを売るから、販売する人やルートも限られてくる。それに、そういうものを表社会に出すのは御法度さ。
けど、ここ最近なんだか怪しい訪問販売が民間で話がある。法律遵守してる様子じゃないらしい。詐欺ならまだ人の範囲で対応できるけど、どうもそうじゃないようだ」
「そうじゃない……?」
今時はセールスお断りの家は多いし、ネットでの販売などがある。訪問販売なんて人によっては鬱陶しいうえに、悪質な詐欺もある。予防や防げる術があるのに、そうじゃないとは?
拙生さんはサングラスを掛け直して、ため息を吐く。
「朝飛くんは操るといったね。ほぼ正解。暗示にも近い。その怪異はそいつに反応した時点で、即アウトというとんでもない奴だ」
「居留守とかするなら安全ですが、お断りしますと言った時点でダメと言うことですか?」
「いや、その存在を感知しただけでもアウトだ」
「……それ、人ですか?」
詐欺を行う人間も、その土地に住まう人間の調査を行う。その家の人間の捜査なども行うだろう。無視すれば回避できること、対応して回避できることもあろう。けど、こちら側が気付いた時点でアウトとは。
拙生さんは首を横に振る。
「人ではないな。人外で悪徳業者。拙生はそいつを追ってる最中でもある」
「……今のところ被害は?」
「今の所、人の場所では、二、三件ぐらいか。幸い表の被害は少ない。……こういう世界にいると、なかなかご厄介なことにも遭遇するんだ。これが危険な理由。危険を知ってもらいたい理由だ」
ひとりかくれんぼに襲われかけたことを思い出して、理由がわかる。
拙生さんは、お父さんと同じ理由で、俺を傷付けさせたくないから近付けないんだ。
ごく普通のように思えて、最も大切な思いと理由だ。
拙生さんは嫌そうに話す。
「怪談にあるような個人の自己責任ならともかく、民間に出回らせるのは流石にいただけない。大量殺人になる様なものは表にださせちゃ駄目だ」
それは、そうだ。俺は頷いて同意すると、拙生さんは複雑そうだ。
「……危険なんだけど、そういうことも考えて自衛する術は教えるべきなんだよな。仕方ない」
「それって、つまり」
俺は喜色の声で聞くと、拙生さんは降参したように笑う。
「術は教えるけど、少しずつな。今後は拙生の出す課題と条件をクリアしたら、段階的に教えていく形にする。普通の人から外れてることを教えるんだ。簡単には教えられない」
条件というのは、恐らく今までどおりの勉強だろう。とりあえず、高校入学したら生徒会にはいるのはやめよう。時間が惜しいし、勉強や経験を積みたい!
「ありがとうございます! 拙生さん!」
「まだ入門編だぞ。落ち着いて。その興奮は命取りになる時もあるから、気をつけて」
「……拙生さん。すみません。了解です」
命の奪い合いがあるということだ怖いな……。拙生さんは稲葉に顔を向ける。
「稲葉、今後からまた同じように朝飛くんの護衛を頼みたい。
その度の報酬は現金と酒、どっちがいい?」
「……外国産でも国産でもかまわないので酒を。私の目利きはあまりよくないので、いい酒をください。ちょうど大江山の親分が美味しい酒を所望しているので」
「了解。今回の分はあとで買って渡そう。今後はいいものの渡すから、働けよ?」
「旦那に不義理な働きはしません」
稲葉さんは苦笑いをしていると、俺は彼にも頭を下げた。
「稲葉さん、何から何まで本当にありがとうございます」
「わての方がほんまおおきになんよ。今後もよろしゅう。朝飛殿」
「はい、よろしくお願いします!」
手を出すと稲葉さんは一瞬だけキョトンとするも、意味を理解してハッとして笑う。同じように手を出して、握手してくれた。握手をし合って、俺は拙生さんに向く。
「というわけで、明日身代わりの作り方を教えてください。その前に、稲葉さんとお父さん同伴でのご褒美の高級料理の店を!」
「わかったわかった。今から連絡いれて、四人分の予約をとっておくよ」
拙生さんはスマホを出して、通話アプリを起動させた。
陰陽師の知識は中途半端だし、技量はない。けれど、せめて自衛やほかの人が少しでも助けれられる位には術を使えるようになりたい。明日から少しだけ変わっていく日常に期待しつつも、深呼吸をして気を引き締めた。




