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聞かれた拙生さんは黙る。俺は疑問を口にしていく。
「最初にぬいぐるみを見たとき、おかしいと思いました。あのぬいぐるみには既製品としての札がありませんでした。オーダーメイド品ですね? 恐らく、元より曰く付きのものを被害にあった男にわざと売りつけたんでしょう。そうして、ひとりかくれんぼをやらせるように促すふりをして操った」
「なんでそう思った?」
「藤原心玄さんが手こずるのがおかしいんですよ。貴方も彼を実力者と言ってましたし、彼の家の前は綺麗で、部屋の中も整っているように見えました。植物の位置も印象的でした」
「え、それだけで判断したの?」
驚かれるけど、俺だって家や部屋が綺麗だけで判断したわけではない。
「その場だけでも専門的な知識があれば、色んな判断ができます。
本当の陰陽師ならば、詳しいはずですよ。風水は五行思想、土地と建築、部屋の内装にもかかわります」
普通なら藤原さんだけでも大丈夫だったろう。部屋の内装と家の前は見ただけでも分かるほどに整っていた。
藤原さんの家にあった鉢植え、赤い実と赤い葉のものは南天という植物だ。風水的に庭に植えるといいものとされる。
鬼門とは反対の裏鬼門に置かれていた。南天を置く理由は、鬼門除けだ。南天は難が転ずるという言葉遊びから置かれる。
土地だけではなく、風水は建物や内装にも適用される。土地と建物の風水の知識についてはまだ詳しくない。けれど、内装が特に目についた。
家の中にあった置物や居間の中心の黄色いテーブルクロスは、今でも印象つよい。間違えなければ、藤原さんの居間は風水の色に適応している。だからといって、何かあるわけではない。運気を上げるための願掛けみたいなものだ。
「庭の掃き掃除や部屋の内装に、建築。それに、京都の土地にも風水にかかわる場所が多い。気を乱さぬようにお掃除しておくのも、腕のいい陰陽師の証ですかね。スピリチュアルと言われてしまいそうですけど。それと、拙生さんが引き取る前に協力した時点で、もう明らかに何かあるのは違いないでしょう」
「あのぬいぐるみは拙生が売ったものと疑うべきだと思うけどなー」
へらりと笑うものの、俺は呆れてみせる。
「貴方を疑う以前に、そもそも訪問販売なんて信頼信用、法律を守らないとできないんです。拙生さんは人に害をなすものを売るときは人を選ぶでしょう」
俺は呆れたように話した。
この人は怖い人ではあるが、普通の人に対しては悪い人ではない。より線引きをしっかりとしている人である。訪問販売なんて契約の内容や商品の説明などの書類が必要だ。これは法律にもあり、彼は守っている。人を騙すなぞしてないし、クーリングオフにもちゃんと対応しているだろう。拙生さんはものを売るとき、ちゃんと書類を渡していたし契約内容も話していた。
話を続ける。
「ひとりかくれんぼのぬいぐるみが動いたのは、宿った佐藤可奈美さんの怨念が強かったからだけではありません。ひとりかくれんぼの手順を見ましたが⋯⋯やり方によっては心臓が入っているらしいですね。恐らくがぬいぐるみが動く要因の一つでしょう」
「要因の一つか」
「ええ、用意するものと手順のほうにも要因があります」
「へぇ、それはなんだい?」
「五行の性質です」
拙生さんは一瞬だけ目を丸くすると、俺はぬいぐるみがいた場所を指さす。
「ここからの五行はネットで調べたので、大したことないのですが⋯⋯ぬいぐるみの材料は色々と五行に当てはまります。でも、今重要なのは手順です。
水と塩、塩味は五行の水に属します。海水から作られた塩は水の気が強いでしょう。……問題はここ。水の気が強すぎたことです」
五行には多くの性質がある。『相生』と『相剋』と『比和』の関係性。『相生』と『相剋』と『比和』と『相乗』と『相侮』と『勝復』という性質がある。
「ひとりかくれんぼを性質を当てはめると、間違いなく多くの性質が該当するでしょう。ですが、ここで一番強く性質が出ているのは、『比和』です」
五行は関係性と性質がある。『相生』とは相手を助ける関係。『相剋』とは相手を攻撃する関係。『相乗』とは過剰な相生であり、相剋関係でもある。『相侮』とは相剋関係が反転した状態。『勝復』とは生剋関係のバランスを維持する機能。
そして、俺の言った『比和』とは同じ気が重なり強まる関係だ。
五行の性質は四柱推命の占いに使われるものではあるが、現実に当てはめてみると意外と該当する。さすがは自然哲学というべきか。
「『比和』はよい結果であればよい結果で増し、悪い結果は悪い結果で増す。条件によって、その結果が異なるものです。このひとりかくれんぼで起きた『比和』は良くない結果を招いた。ひとりかくれんぼのぬいぐるみと怨霊に近い悪霊、心臓は生命の証としての象徴であるからこそ、より悪い結果が起こった。塩水は浄化の役割を果たしきれなく、陰の要素を強めただけ。これらの要素が重なって、ひとりかくれんぼの降霊術の効果が増して持続させたということでしょう」
水の気は陰に属する。幽霊の陰の気も強すぎたのだ。何事にもバランスが大切であり、何事にも限度がある。
俺はまとめに入って彼に答えを出す。
「今回の件はこうです。
詐欺訪問販売業者が、故意に男に曰く付きのぬいぐるみを売りつけた。更に操って曰く付きのぬいぐるみに降霊術を行わせて、取り憑いていた怨念に近い悪霊となっていた佐藤可奈美さんが宿った。それだけではなく、ぬいぐるみには心臓が埋め込まれていた。心臓とひとりかくれんぼの手順が余計に佐藤可奈美さんを刺激させたうえに、五行の性質の『比和』が悪さをして、ひとりかくれんぼのぬいぐるみは動けるようになって、男を殺して藤原さんを手こずらせた」
そうして、今俺が彼女に渡した手紙で佐藤可奈美さんは我に返った。 拙生さんの強力な術でひとりかくれんぼの術もろともぬいぐるみは燃え、彼女は解放された。ここは見たから言わなくていいだろう。
「どうですか?」
俺の答えを聞いたあとしばらく沈黙していたが、すぐに両手を挙げて拙生さんは苦笑していた。
「拙生の降参だ。そこまで考えていたとは思わなかった」
「……俺と俺の親族以外、貴方が助けて干渉することが妙な気がする。そこからも考えて答えを出しました」
答えると、拙生さんは微笑む。
「正答以上を答えられると、何とも言えないな。
うん、課題クリアだ。……拙生の話せる範囲で今回の件について君に教えるよ」




