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八坂神社の近くには、公園があって観光客に向けて店や宿などがある。
俺はいつものように八坂神社で参拝をして、神様にご挨拶をする。その後に目的の店に向かって、俺は店内に入る。
流石に孫と祖母と合う時は、祇園の置屋から少し離れた場所で会う。仕事の最中には会わない。
店内に入ると、店員さんが来た。店内にいる待ち人について話して、俺はその待ち人のいる席に案内される。……お祖母ちゃんと俺はお店の人にも顔を知られている。
二人席に案内されると、着物を着た美しい妙齢の女性がいる。
俺が言うのもあれだけど、本当に年相応の綺麗さがあるなと思う。目つきは写真にある母とどこか似ている。髪は簪でまとめて、綺麗な姿勢と所作でお茶を飲む。
俺と目が合うと、優しい微笑みを浮かべる。けど、俺は深々と一礼をする。
「宮道さん。こんちには。こんな僕にお時間を割いてくださったこと、感謝いたします」
「堅苦しいのはええ。今のうちは祖母、朝飛は孫や」
「ですが、京都の祇園には長く続く伝統がございます。血縁関係ということは」
「朝飛」
ぴしゃりと名前を呼ばれて、びくっとする。顔を上げると険しい顔をしていた。
「今のうちは舞妓はんのおかあさんやない」
反応を見て、何とも言えなくなる。渋い顔をしつつ、俺は素直になることにしてトートバッグを見せる。
「……お祖母ちゃん。これ、拙生さんから置屋の皆さんへの手土産です」
「おおきに」
俺がお祖母ちゃんというと、花のように笑って受け取ってくれた。二人席の相席で対面して座る。
お祖母ちゃんの宮道鈴江。生前の祖父が俺の面倒を見てくれていたなら、祖母はどちらかというと色んな事を教えてくれた。
置屋のおかあさんとしても忙しいはずなのに、時間の隙を見ては俺に色々と教えてくれる。たまに舞妓はんと芸子のお姉さん方と一緒になることもあったけど、お仕事だから触っちゃ駄目と言われたことある。……お姉さん方や実情を知ると納得もの。
京都に遊びに来た時や、京都に引っ越してきたばかりの小学生のころは芸妓のお姉さんと舞妓さんが休みの時は一緒に甘いものを食べたりした。今思うと結構贅沢だな。あの時のお姉さん方に面倒を見てくれたお礼をしたい。
お祖母ちゃんは俺にメニュー表を渡す。
「朝飛。何食べたいん?」
「ないよ。俺はこうしてお祖母ちゃんと居れるだけでじゅうぶ」
タイミング悪く腹の虫が鳴る。……たぶん聞こえてた。顔を赤くすると、お祖母ちゃんからクスクスと笑われる。
「もう、食べ盛りやから食べたいもんはしっかり食べやなあかんで」
「……本当に敵わないなぁ」
観念して、メニュー表を受けてる。今俺が中学三年生であることを本当に恨む。メニュー表で腹持ちのいいものを頼む。少しでもメニュー表の中でも安いものにしたからいいと思う。
俺は店員さんに注文をするけど。
「あと、いつものみたらし団子のセットをこの子に」
「かしこまりました」
抜け目なく、お祖母ちゃんが俺の好物の一つを注文する。拍子抜けた俺の顔を見て、お祖母ちゃんは綺麗に微笑む。
「遠慮しなくてええんよ、まったりしてき。食べ盛りなんやから」
「……お祖母ちゃん。俺に甘すぎ」
「中学生になってから会える機会が少なくなった。会えなかった分、ぎょうさん甘やかさせてもらうわぁ」
「……勘弁して」
店の人の目が生暖かい。恥ずかしいなぁ、もう。
食事が来ると、俺は手を合わせて食事の挨拶をして丁寧に食べていく。食事の利き手などの文句は言わないけど、食べ方やお作法には厳しい人だ。まあ家でも綺麗な所作で食べるなとお父さんからよく言われているから、体に染み込んでいる。
俺の食事を食べる様子を、お祖母ちゃんはにこにこと見てくる。恥ずかしいよ……。
食べ終えると息をついて、手を合わせた。
「ご馳走様でした」
「よろしゅうおあがり」
「……美味しかったです」
お腹が落ち着いてほうってしている。店員さんが食べ終えた食器を下げてくれると、俺は紙ナプキンで口を拭く。拭き終えると、早速お祖母ちゃんが聞いてくる。
「朝飛。本題、聞きとうない?」
「……そう、だね。うん、お祖母ちゃん。三年前、京都の芸者置屋で舞妓はんがいなくなった。もしくは止めて行方不明になった話は聞いたことあるなら、教えられる範囲で教えてほしい」
把握されているのだから、包み隠さず話す。……拙生さんに誘導されているだろうけれど、俺にオカルト側を体験させる為だ。流されておくべきだ。
俺の頼みに、お祖母ちゃんは頷いて教えてくれた。
「──三年前、まだ朝飛が中学生一年生の頃に起きた殺人事件。あの殺された男の被害者に、知り合いの置屋の舞妓をしてはった子がおったんよ。話を聞くに、その子は男と会う前は元々憧れて舞妓になってここに来た。頑張り屋で家族を大切に思ってた子で、お座敷遊びをしてきた旦那はんやお客さんからええ評判やったんよ。けど、その子はたぶんお座敷遊びか何処かで男に気に入られて、付き纏われてたらしい。とうとう置屋とみんなにも迷惑をかけて、その子は責任を感じはったんやろう。舞妓をやめて、何処かに行方をくらました。その一年後、その子は遺体となって海に浮かんでいるのが見つかったらしい」
内容に何も言えなくなって、俺は眉間を押さえた。祖母はお茶を飲みながら、切なげに目を細める。
「その子の体は家族の元に帰れた。せやけど、その子の心と魂はちゃんと家族の元に帰られたのか。時々思うんよ」
「……そう、だね」
妖怪の聞き込みから聞いたけど、男があまりにもクソすぎだ。同情の余地もない。
でも、話を聞いていて大体わかった。状況から察せられることはできても、実際はわからない。拙生さんに色々と聞かなくては。
「ああ、そうだ。朝飛。明日も拙生はんに会う?」
「うん、そのつもりだけど」
祖母は風呂敷を出す。小さく折りたたまれたものだけど、お祖母ちゃんは丁寧に広げて、それを見せきた。
一枚の封筒。住所と名前が書かれたものだ。
「前、知り合いが供養の品についても取り扱ってると話したら、その子のおかあさんにこれを託されたんよ。その子が辞めたあとに届いたらしくて。その供養してほしいと頼まれたんよ。……これ、拙生はんに渡しといてくれる?」
……それは、もしかすると今回の課題の達成にも繋がる。拙生さんの手の上であろう。だとしても、俺の中ではぬいぐるみに宿る幽霊のためという思いが強かった。
お祖母ちゃんから、受けとって俺は頷く。
「分かった。ちゃんとこの手紙を渡すよ」
きっと、今回の解決にも繋がる。
お祖母ちゃんにお礼を言った。繁忙期は男衆の手伝う約束をつけられたから、師匠と話して予定の調整をしておこう。
家に着く。まだ夕食を作るのに少しだけ時間がある。一息つき、俺は勉強道具を出す前に紙のうえに今までのまとめを書き出した。
ひとりかくれんぼは降霊術のような物。本人が解呪しなければ危険だけど、専門的な知識がある陰陽師なら対処はできる。しかし、拙生さんが引き取ったひとりかくれんぼのぬいぐるみは陰陽師でも対処できなかった。
式神の悪行罰示神のようなもので怨霊に近い存在になっていた。原因はひとりかくれんぼをした男が原因である。その中身の幽霊は男がちょっかいを出した元舞妓であり、自殺に追い詰めた。
あとは、疑問と元舞妓の幽霊をどうするかだ。しかし、今の優先事項はぬいぐるみにいる元舞妓はんを何とかすることだろう。
オカルトの体験というけれど、今までやってきたことはどちらかというとまるで捜査に近い気がする。けれど、人の幽霊の問題を解決するにも、正しいやり方なのかもしれない。
もっと危険なものを想像したけれど、拙生さんはさせる気がないのだと思う。危険を知ってもらうという話もあったけれど、今回は危険という危険はなか……あっ。
書き連ねた疑問を見て、目を丸くして頷く。
「……そういうこと?」
危険の意味がわかった気がする。だから、絶対に聞かなくてはならない。強く思いながら、俺は稲葉さんを通して拙生さんに連絡を入れた。
明日、課題のクリアしたいという連絡だ。完全にクリアができるから入れたのだ。拙生さんの返事はオーケーである。
明日の午前にいつもの場所で待ち合わせる。
そこから場所を移動して、処理場に向かうという。稲葉さんもついていくことになっており、俺は準備の為に早めに勉強を終わらせようと考えた。




