Chapter1 単純明快かマセ犬②
「これは囚人たちの免罪を賭けたゲームなんだよ。四人の囚人に対して、黒と白の帽子が二つずつ──ランダムで一人一つ被らされてる。自分の帽子の色は知らないけど、見える範囲で他人の帽子の色は確認できる。黒と白の帽子が二つずつあるってことも、彼らは知ってる。囚人に割り当てられた立ち位置は……見ればわかるよね」
図を分析する。三人の囚人が段違いになるように階段に立たされており、彼らの目の前の壁を隔てた向こう側にあと一人の囚人がいる。最も高い位置の囚人からA、B、C、そして壁の向こうの囚人がDと名付けられている。肝心な帽子の色は、Aから順に黒、白、黒、白。
アオの説明の中で気になるのは──。
「……『見える範囲で』、ね……。壁の向こうは見えないんだ」
「ふふ、察しがいい。ちなみに、自分より後ろの人の帽子も見られないよ。じゃないとクイズにならないもんね」
「てことは、問題は……」
焦らすように少し間を置いて、アオは言った。
「この囚人たちの中で、自分の帽子の色を一度で当てられるのは誰か……わかる?」
「なるほどね。ちょっと一人で考えるから」
「はぁーい、がんばれー」
気持ちが微塵もこもっていない声援を受け流し、スマホに描かれた図と向き合う。
(まず考えたくなるのはA……二人の帽子の色を見られるのは大きいはず)
だが残念なことに、Aは自分の帽子の色を当てられない。前の二人の帽子は白と黒。Dの帽子を見られない以上は何も断定できない。
(BとCが同じ色の帽子だったらすぐわかったけど……そんなに甘くないよね。この可能性に賭けていたであろうBとCが哀れだ……)
Aが無言を貫くこの空間は、さぞお通夜状態なのだろう。
──そこではっとした。
あぁ、なんだ。
簡単じゃないか。
「B」
「ん?」
急に言葉を発した私に、アオは虚を突かれたらしい。短く聞き返されたので、私ははっきりと言い直す。
「帽子の色を当てられるのは、B」
「……やるじゃん。正解」
クイズに正解したことよりも、アオが僅かな動揺を見せたことのほうが嬉しいと思った。でもそれは見逃しそうなほど短い時間のことで、次の瞬間には余裕そうな表情で私に尋ねてきた。
「解説、どうぞ?」
「えっと……BとCの帽子の色が仮に同じだったら、Aがすぐに答えられるはずなんだよ。当然、BとCとは違う色の帽子で確定なんだから」
「うんうん」
「逆に──Aがすぐに答えないことは、Bにとってのヒントになる。BとCの帽子の色が違うから、前にいるCの帽子と違う色を答えればいい。それがBにだけわかるんだ」
アオの目を真っ直ぐ見つめて、こちらも余裕の笑みで言ってみせる。
「わかってしまえば単純だった」
「……五秒でこれかぁ」
すごいな、とアオが呟く。先ほど『お手並み拝見』だと言っていたが、認められたと思っていいのだろうか。
「まぁでも及第点かな。チャンスくらいはあげよう」
「あ、やっとスタートラインなんだ……」
やはり舐められているのか。彼の考えることはよくわからない。
それでも少しだけ満足げに見える彼の表情をぼんやり眺めていると──。
「──あっ」
不意に、手を滑らせてしまった。
「……うわ、やば。やらかした」
遠い庭の芝生へ無惨に叩きつけられた液晶を見て、私は呟く。……落とした、スマホ。
私に続き、アオも下を覗き込む。
「あぁー。壊れた?」
「わかんない……やばい……けど、古いやつだからよかったほうかも」
そろそろ買い替える頃だろうから、まだマシなほうだ。新しいスマホだったらと思うと怖くなる。……現状がマズいことには変わりないが。
ちょうどそのとき、家に近づいてくる人影が見えた。
「お姉ちゃん……!」
「……あ、花波〜!」
ベランダの私に手を振ってくれる。芝生の上のスマホを指さすと、彼女はそちらにも気づいた。拾い上げて苦笑する。私は言葉に詰まってしまう。
「え、えっと……」
「とりあえず持っていくねぇ〜!」
スマホを掲げて叫び、彼女は玄関に歩みを進めた。一度私たちの視界から消える。
「ねぇ、今の見たよね」
「ん?」
隣のアオに囁く。
「お姉ちゃん、アオのこと見えてなさそうだったでしょ?」
姉が悪人でないことを立証できたのが、純粋に嬉しかった。アオは呆れたように返す。
「さては反省してないな」
「いや、してるよ……。でも、それはともかく!」
「……確かに見えてなさそうだったけど」
まもなく、姉が階段を上がる音が聞こえてきた。




