Chapter4 恋する乙女は蕾になって②
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「にしても、ビックリしたわ〜」
お風呂から上がってきて、咲海と一緒に夕ご飯を食べ始めたとき。彼女は微笑みながら眉を下げた。私はコーンスープを啜り、口ごもる。
「別に大したことじゃ……」
「折り畳み傘は持ってたはずなのに、あんなに濡れて帰ってきたら心配するものよ?帰りが遅くなることも増えたし……花波も忙しいのよね」
つい先日まで、二ノ瀬くんのストーカーの件やアオへの仕返しの件などで多忙だった。妹の詳しい動向がわからないと姉として不安だろうが、それでも必要以上には詮索しないでくれるのがありがたい。
こくんと頷くと、咲海は優しく言った。
「だけど……ちゃんと休めてる?」
「え?」
「気のせいだったらそうに越したことはないんだけれど。最近の花波、疲れているように見えるから」
そんな素振りを見せてしまっただろうか。疲れているという自覚すらもない。
「そうなの?」
「そうよ〜。ぼーっとしてることも前より増えてる」
「前からぼーっとしてたんだ、私……」
「とにかくね、忙しくて疲れているなら休まなきゃダメよ?」
「うん」
私のその返事のあとは他愛もない話をして夕食を終えた。
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あぁ、どうなんだろう。
途中で花波から代わった洗い物を済ませ、リビングのテーブルに突っ伏す。
花波は自分の部屋へ行ってしまったのでここにはわたし一人だ。物思いに耽るにはちょうどいい。
わたしは、ダメだろうか。
妹の僅かな変化に何も干渉できず、ただ『怯え』ているだけ。花波を知ることに。そして、自分と向き合うことに。
罪滅ぼしのつもりで休まなきゃダメだと伝えてみたが、真剣に受け取ってくれているかわからない。
花波の「うん」が本心かどうかは五分五分で、それを見分ける術もわたしは持っていない。
「……情けない、なぁ〜……」
顔を上げてみる。視界に映るのは見慣れた家の風景だけだ。
こんなとき、『あの人』ならどうするんだろう?
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「で……いいの?やられっぱなしで」
ミニテーブルで向かい合うようにアオを座らせ、私は切り出した。
「コガネのこと?」
「もちろん」
彼は大して関心がなさそうだ。時間を置いたこともあってか、かなり落ち着いている。
「地獄って治安悪いからあんなの日常的によくあることだよ」
「日常的にああいうことされてるの?」
聞いてみたが、アオは答えなかった。
「どちらにせよ私情をこっちに持ち込むのは避けたいんだけど」
「そんなの今更だよ、制裁だって楽しんでるくせに……コガネって子、嫌いなの?」
「嫌い。……だし、あいつに構ってる暇ないからさ。花波の制裁に集中しなきゃ」
「今すぐじゃなくてもよくない?」
呆れ返ってものも言えないというように、アオが私を見つめた。私の立場から言うのもおかしかったか。
なら何と言えばいいのかと思案していると、アオは不思議そうに首を傾げた。
「花波は、コガネに恨みでもあんの?」
「恨み?」
「仕返ししたそうだから、なんでかなって」
仕返し。その言葉に違和感を覚える。よく考えれば私自身が何かされたわけではない。確かに鋏で手を貫かれはしたが、強く恨んでもいない。
自分の考えを数秒かけて言語化した後、私は指を二本立てた。
「理由は二つ」
「……おぉ」
「まず、私が悪人だってことをコガネは知ってたから」
彼女の捨て台詞を忘れてはいない。『悪人のくせに』と確実に吐き捨てていた。
「もしかしたら制裁に来るかもしれない……深読みしすぎかもしれないけど、可能性がある以上は先手を打ちたい」
「なるほど、理由になってないね」
「えっ」
事件の推理の穴を突く犯人候補みたいに、アオは私の話をばっさり切り捨てた。その表情が少しだけにやついているので、説明の為に立てていた指を自然と下ろしてしまう。
「本命はもう一つのほうかな?」
「………」
気持ちを濁そうとして敢えて余計な理由を付け加えてみたが、無駄だった。こうなったら正直に白状してしまおうか。
「……ムカついたの。アオを酷い目に遭わせる存在に。だから」
アオに真っ直ぐな視線を向けて、宣言する。
「私はアオの為にやるよ、仕返し。もしアオが止めても」
「……そこまではっきり言われると、止める気も失せるよね」
気持ちを切り替えるように小さく息を吐いて、彼は好戦的に言ってみせた。
「もともと止めるつもりはなかったけど」
「流石」
「でもコガネは強敵だよ?」
余裕の表情を崩さず、アオが忠告した。
「俺でもほとんど敵わないし」
「……へぇ」
本気でいけ、ということだろうか。
だが彼女に挑むには、現時点で情報が少なすぎる。
「だったら……教えてよ。コガネのこと」




