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Chapter4 恋する乙女は蕾になって②

✾


「にしても、ビックリしたわ〜」

 お風呂から上がってきて、咲海と一緒に夕ご飯を食べ始めたとき。彼女は微笑みながら眉を下げた。私はコーンスープを啜り、口ごもる。

「別に大したことじゃ……」

「折り畳み傘は持ってたはずなのに、あんなに濡れて帰ってきたら心配するものよ?帰りが遅くなることも増えたし……花波も忙しいのよね」

 つい先日まで、二ノ瀬くんのストーカーの件やアオへの仕返しの件などで多忙だった。妹の詳しい動向がわからないと姉として不安だろうが、それでも必要以上には詮索しないでくれるのがありがたい。

 こくんと頷くと、咲海は優しく言った。

「だけど……ちゃんと休めてる?」

「え?」

「気のせいだったらそうに越したことはないんだけれど。最近の花波、疲れているように見えるから」

 そんな素振りを見せてしまっただろうか。疲れているという自覚すらもない。

「そうなの?」

「そうよ〜。ぼーっとしてることも前より増えてる」

「前からぼーっとしてたんだ、私……」

「とにかくね、忙しくて疲れているなら休まなきゃダメよ?」

「うん」

 私のその返事のあとは他愛もない話をして夕食を終えた。


✾


 あぁ、どうなんだろう。

 途中で花波から代わった洗い物を済ませ、リビングのテーブルに突っ伏す。

 花波は自分の部屋へ行ってしまったのでここにはわたし一人だ。物思いに耽るにはちょうどいい。

 わたしは、ダメだろうか。

 妹の僅かな変化に何も干渉できず、ただ『怯え』ているだけ。花波を知ることに。そして、自分と向き合うことに。

 罪滅ぼしのつもりで休まなきゃダメだと伝えてみたが、真剣に受け取ってくれているかわからない。

 花波の「うん」が本心かどうかは五分五分で、それを見分ける術もわたしは持っていない。

「……情けない、なぁ〜……」

 顔を上げてみる。視界に映るのは見慣れた家の風景だけだ。

 こんなとき、『あの人』ならどうするんだろう?


✾


「で……いいの?やられっぱなしで」

 ミニテーブルで向かい合うようにアオを座らせ、私は切り出した。

「コガネのこと?」

「もちろん」

 彼は大して関心がなさそうだ。時間を置いたこともあってか、かなり落ち着いている。

「地獄って治安悪いからあんなの日常的によくあることだよ」

「日常的にああいうことされてるの?」

 聞いてみたが、アオは答えなかった。

「どちらにせよ私情をこっちに持ち込むのは避けたいんだけど」

「そんなの今更だよ、制裁だって楽しんでるくせに……コガネって子、嫌いなの?」

「嫌い。……だし、あいつに構ってる暇ないからさ。花波の制裁に集中しなきゃ」

「今すぐじゃなくてもよくない?」

 呆れ返ってものも言えないというように、アオが私を見つめた。私の立場から言うのもおかしかったか。

 なら何と言えばいいのかと思案していると、アオは不思議そうに首を傾げた。

「花波は、コガネに恨みでもあんの?」

「恨み?」

「仕返ししたそうだから、なんでかなって」

 仕返し。その言葉に違和感を覚える。よく考えれば私自身が何かされたわけではない。確かに鋏で手を貫かれはしたが、強く恨んでもいない。

 自分の考えを数秒かけて言語化した後、私は指を二本立てた。

「理由は二つ」

「……おぉ」

「まず、私が悪人だってことをコガネは知ってたから」

 彼女の捨て台詞を忘れてはいない。『悪人のくせに』と確実に吐き捨てていた。

「もしかしたら制裁に来るかもしれない……深読みしすぎかもしれないけど、可能性がある以上は先手を打ちたい」

「なるほど、理由になってないね」

「えっ」

 事件の推理の穴を突く犯人候補みたいに、アオは私の話をばっさり切り捨てた。その表情が少しだけにやついているので、説明の為に立てていた指を自然と下ろしてしまう。

「本命はもう一つのほうかな?」

「………」

 気持ちを濁そうとして敢えて余計な理由を付け加えてみたが、無駄だった。こうなったら正直に白状してしまおうか。

「……ムカついたの。アオを酷い目に遭わせる存在に。だから」

 アオに真っ直ぐな視線を向けて、宣言する。

「私はアオの為にやるよ、仕返し。もしアオが止めても」

「……そこまではっきり言われると、止める気も失せるよね」

 気持ちを切り替えるように小さく息を吐いて、彼は好戦的に言ってみせた。

「もともと止めるつもりはなかったけど」

「流石」

「でもコガネは強敵だよ?」

 余裕の表情を崩さず、アオが忠告した。

「俺でもほとんど敵わないし」

「……へぇ」

 本気でいけ、ということだろうか。

 だが彼女に挑むには、現時点で情報が少なすぎる。

「だったら……教えてよ。コガネのこと」

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