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準決勝

『それでは――準決勝、第二試合!』


 舞台の中央。


 巨大なオオーカと、小柄なピーチが向かい合っていた。


 オオーカはすぐには構えず、腕を組んだまま目の前の少女を見下ろしている。


「ピーチ」


「はい?」


「お前の弱点が分かった」


「私の弱点ですか?」


「ああ。ここまで、お前の試合はすべて見た」


 ピーチの戦いは、どれも似ていた。


 試合開始。


 相手へ近づく。


 そして次の瞬間には、対戦相手が舞台の外にいる。


「お前は、瞬間的な強化魔法を使っている」


「…………」


 ピーチが瞬きをする。


「相手に触れる瞬間だけ、身体能力を爆発的に引き上げる。それで一気に場外まで吹き飛ばしているんだ」


「えっと――」


「違うか?」


 ピーチは何か言おうとした。


 だが、オオーカはそのまま続ける。


「この大会で勝つ方法は三つある」


 太い指を一本立てた。


「一つ。相手を舞台の外へ落とすこと」


 二本目。


「二つ。相手に降参させること」


 三本目。


「三つ。降参を促された相手が、三十秒間返事をしないこと」


 オオーカが笑う。


「そして、お前は今まで一つ目だけで勝ってきた」


「そうですね!」


 ピーチは元気よく頷いた。


「ならば」


 オオーカが両手を広げる。


「それを封じればいい」


 低い声で呟いた。


「――結界」


 舞台の四方が光る。


「わっ」


 半透明の壁が、舞台を囲うように立ち上がっていった。


 高さは数メートル。


 四方すべて。


 舞台の外へ出ようとすれば、必ずこの壁にぶつかる。


『これは! オオーカ選手、舞台の周囲に結界を張りました!』


 観客席から大きなどよめきが起こる。


 ピーチは近くの壁まで歩き、指先で軽く叩いてみた。


 コンコン。


「固いですね」


「俺の魔力で作った結界だ」


 オオーカは拳を握る。


「これで、お前の得意な場外勝ちは使えない」


「なるほど……」


 ピーチはしばらく結界を眺める。


 そして、くるりと振り返った。


「でも!」


 両手を胸の前で握る。


「それでも、愛の力で勝ってみせます!」


「……そうか」


 オオーカが笑う。


「ならば、やってみろ」


 その全身から魔力が立ち上った。


『さらに強化魔法です!』


 巨大な身体を淡い光が包む。


『オオーカ選手、結界と自身への強化魔法を同時に展開! 最初から全力です!』


 ピーチはいつものようにステッキを舞台の端へ置いた。


「よろしくお願いします!」


『両者、構えて!』


 オオーカが腰を落とす。


『試合――開始!』


 ドンッ!!


 開始と同時に、大きな音が響いた。


 土煙が舞う。


『出たぁぁぁっ! ピーチ選手、いつもの――!』


 オオーカの巨体が宙を飛んでいた。


「おおおおおっ!」


 そのまま一直線に舞台の外へ――


 行かない。


 ドォンッ!!


 背中から結界にぶつかった。


 半透明の壁が大きく揺れる。


 しかし、壊れない。


 オオーカの身体は、そのまま舞台へ落ちた。


「あれ?」


 ピーチが目を丸くする。


 オオーカはすぐに立ち上がり、肩を回した。


「……なるほど」


「大丈夫ですか?」


「ああ」


 オオーカは自分の胸を軽く叩く。


「飛ぶには飛ぶ」


 そして笑った。


「だが、軽いな」


「え?」


「俺を吹き飛ばすことに力を使いすぎている」


 オオーカは拳を構えた。


「飛ばされはしたが、ほとんど効いていない」


「…………」


「今までは、それで十分だったんだろう。場外へ出せば勝ちだからな」


 オオーカが一歩踏み込む。


「だが、今日は違う」


 次の瞬間。


 姿が消えた。


「――っ!」


 ピーチが腕を上げる。


 ドンッ!!


 巨大な拳が腕へ叩き込まれた。


「きゃっ!」


 ピーチの身体が大きく後ろへ飛ぶ。


 石の舞台を何度も転がった。


『ピーチ選手が飛ばされたぁぁぁっ!』


 会場が沸き上がる。


 ピーチはすぐに起き上がった。


「いたた……」


 腕を見る。


 確かに痛い。


 この大会で初めて、まともに攻撃を受けた。


「まだ終わらんぞ!」


 オオーカが迫る。


「わっ!」


 拳を避ける。


 次の拳を受け止める。


 ドンッ!


「くっ……!」


 ピーチの足が滑った。


 さらに一撃。


「きゃっ!」


 今度は肩から舞台へ落ちる。


『オオーカ選手、完全に攻勢です!』


 これまで誰も見ることができなかった。


 ピーチが押される姿。


 オオーカは止まらない。


「どうした!」


「まだです!」


 ピーチが立ち上がり、オオーカの懐へ入った。


「えいっ!」


 両手で胸を押す。


 ドンッ!!


 再び巨体が吹き飛んだ。


 ドォンッ!


 結界へ激突する。


 だが、オオーカは何事もなかったように着地した。


「二度目だ」


 笑っている。


「やはり軽い」


「むむ……」


 ピーチが頬を膨らませる。


「もう一回!」


「来い!」


 ドンッ!!


 また飛ぶ。


 また結界に阻まれる。


 それでも倒れない。


「もう一回!」


 ドンッ!!


 結果は同じだった。


 オオーカは確かに吹き飛ぶ。


 だが、それだけだ。


 結界が受け止めてしまえば、大きなダメージにはならない。


「今度はこちらだ!」


 オオーカが地面を蹴る。


 拳。


 ピーチが受ける。


 一撃。


 二撃。


 防いでも、そのたびに重い衝撃が身体へ伝わった。


「きゃっ!」


 再び舞台を転がる。


『ここまでほぼ無傷で勝ち上がってきたピーチ選手! 明確にダメージを受けています!』


「はぁ……」


 ピーチはゆっくり立ち上がった。


 肩。


 腕。


 脇腹。


 少しずつ痛みが増えている。


 対して、オオーカはまだ立っていた。


 何度吹き飛ばしても、場外へは出せない。


 そして、吹き飛ばすだけでは倒すこともできない。


「……困りましたね」


 ピーチが小さく呟いた。


 それでも。


 負けるわけにはいかない。


「でも」


 ピーチは両手を握る。


「愛の力で、絶対に勝ってみせます!」


 その言葉を口にした時。


 少し前の光景が、頭に浮かんだ。

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