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第十一章 寛永の大火

寛永の大火という史実を、家正の人生観の総括として使っています。物より人、形より心構えという、終章への橋渡しとなるテーマをここで先に提示しています。

寛永八年、金沢の城下を大火が襲った。金沢城をはじめ、多くの武家屋敷が焼け落ちた。わしの屋敷も、この災いを免れることはできなかった。


炎に包まれる城下を見ながら、わしは奇妙なほど冷静であった。若い頃であれば、屋敷が焼けるということに、もっと動揺したであろう。しかし、今のわしには、これまでの人生で幾度も味わってきた「失うこと」への、ある種の免疫のようなものができておった。


前田家を離れ、宇喜多家に入り、そこで栄達を極めたのちに全てを失い、浪々の身となり、そしてまた加賀に戻ってきた。この繰り返しの中で、わしは物や地位というものが、いかに移ろいやすいものかを、骨身に染みて知っておった。


焼け跡に立ち、わしは思った。大切なのは、屋敷という形あるものではない。そこに生きる家族の無事、積み重ねてきた信用、そして受け継いでいくべき心構え――それらこそが、真に守るべきものなのじゃ、と。


家族は幸い、皆無事であった。わしはそのことに、何よりも安堵した。屋敷はまた建て直せばよい。しかし、失われた命は取り戻せぬ。この火事を経て、わしはますますその思いを強くした。


孫よ、この世に永遠に残るものなど、そう多くはない。城も、屋敷も、いつかは失われる時が来る。しかし、人から人へと受け継がれる心構えや教えは、形なきものでありながら、最も長く残るものじゃ。わしがこうしてそなたに語っておるのも、まさにそのためなのじゃよ。


派手な事件を淡々と受け止める家正の態度は、これまでの喪失の積み重ねを踏まえた変化として描いています。感情を強調しすぎず、抑えた筆致を意識しました。

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