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平均点の少年は、誰の痛みも分からない  作者: くるみ


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第6話 空席

ネネは火災の翌日に学校を休んだ。

教師は、風邪をこじらせたのだと説明した。


「やっぱり、無理をしてたんだよ」


リナは心配そうに、ネネの空席を見た。


「火の中に入ったんだもの。身体が弱いのに」

「火傷は治っていたんだろ?」


ダリオが言った。


「火傷だけの問題じゃないよ。煙も吸っていたし、手の傷もあったし」

「医務室の先生は、もう大丈夫だって言ってたぞ」

「大丈夫って言われたら、すぐ元気になるわけじゃないの」


ユリウスは教科書を開きながら、2人の会話を聞いていた。

ネネの欠席について、特に思うことはない。

病気なら休む。

それだけのことだった。

昼休みになり、学生食堂の窓際にある、いつもの卓へ向かった。

ユリウスは椅子に座る前に、次の移動教室の荷物を右側の床へ置いた。

左隣に座る者の邪魔にならないように。

置いてから、今日は誰も来ないことを思い出した。


「どうしたの?」


向かいに座ったリナが尋ねた。


「何が?」

「今、隣を見てたから」

「鞄を置く場所を間違えただけだよ」

「ネネがいないと、少し静かだね」

「食堂はいつもと同じくらい騒がしいよ」

「そういう意味じゃなくて」


リナは笑った。

ユリウスは、首を傾げた。


いつもと同じように本を開く。

数行を読んだところで、左側から誰にも覗き込まれていないことに気づいた。

ネネは、ユリウスが本を読んでいると、ときどき勝手に同じ頁を読む。

読めない言葉があれば尋ね、内容が難しければ黙って首を傾げる。

少し、面倒だなと思っていた。


今日は、それがなかった。

だから読みやすいはずだった。

ユリウスは頁をめくった。

昼休みが終わるまでに、普段より7頁多く読めた。

効率はよかった。



ネネは翌日も休んだ。

その次の日も、教室には来なかった。

リナは授業の内容を別の紙に書き写していた。


「何をしているの?」

「ネネに渡すの。休んだ分が分からなくなると困るでしょう?」

「本人に頼まれたの?」

「頼まれてないけど」

「では、必要ないかもしれないよ」

「必要じゃなくても、あったら安心すると思う」


リナはそう言って、また紙へ視線を落とした。

文字は丁寧だった。

教師が口頭で補足した内容まで、細かく記されている。


「リナは親切だね」


ユリウスが言うと、彼女は少しだけ頬を赤くした。


「ユリウスほどじゃないよ」

「僕は、頼まれていないことまではしないよ」

「でも、困ってたら助けるでしょう?」

「できる範囲なら」

「それを親切って言うんだよ」


ユリウスは微笑んだ。

リナは、彼が本当に誰かのためだけに動く人間だと思っている。

その認識を正す必要はなかった。


「それ、ネネの部屋まで持っていくの?」

「寮の管理人さんに渡してもらうつもり」

「そう」


ユリウスは頷き、教科書へ視線を戻した。


「ユリウスも、何か書く?」

「僕が?」

「お大事に、とか」

「リナが書けば十分じゃないかな」

「ネネは、ユリウスからも何かあったら喜ぶと思う」


なぜ喜ぶのだろう。

よくわからなかったが、断る理由も特にない。

ユリウスは紙の余白に、短く書いた。

早く治るといいね。

それだけだった。


翌朝、ネネは教室へ戻ってきた。


「もう大丈夫なの?」


リナが駆け寄る。


「うん。心配かけて、ごめんなさい」

「謝らなくていいよ。これ、授業の内容をまとめたの」


ネネは渡された紙を見た。

頁をめくり、最後の余白で手を止める。

早く治るといいね。

ユリウスが書いた一文だった。


「ありがとう」


ネネは、リナへ向かって言った。

それからユリウスを見た。


「ユリウスも」

「僕は1行書いただけだよ」

「それでも、嬉しかった」


ネネは笑った。

ユリウスはいつもの表情を返した。

笑顔を見て、特に何かを感じたわけではない。

ただ、食堂では、いつものように左隣の椅子を空けておく必要があるなと思った。

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