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平均点の少年は、誰の痛みも分からない  作者: くるみ


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第43話 白い夜

審問から3日後、王都で反乱の計画が発覚した。


王冠炉の事件で家族や地位を失った貴族たちが、王女を廃し、傍系の王族を新たな国王に据えようとしていた。

計画に加わった者は、王宮内部にもいた。

評議会は逮捕を決めた。

だが、証拠の確認と兵の手配には時間が必要だった。


「今夜、全員を拘束します」


ネネは東塔の部屋で、ユリウスへ説明した。


「どうして僕に話すの?」

「何もしないでほしいから」

「彼らは君を殺そうとしている」

「法に従って裁きます」

「逃げる人もいる」

「国境を封鎖しました」

「封鎖に関わる人間にも仲間がいる」

「それでも、勝手に殺してはいけない」


ネネはユリウスの前へ立った。


「約束して」

「何を?」

「今夜、ここから出ないと」

「君が危険でも?」

「王宮の兵が守ってくれる」

「僕より弱い」

「強さの問題ではないよ」

「君が死ねば、何も意味がない」

「国は残る」

「僕には残らない」


ネネの顔が歪んだ。


「そういうことを言わないで」

「本当だよ」

「それでも、ここにいて」


ユリウスは彼女を見た。


「君の命令?」

「お願い」

「分かった」


ネネは安心したように息を吐いた。

部屋を出ていく。

ユリウスは扉が閉じるまで、その背中を見送った。



その夜、王都では雪が降った。

静かな雪だった。

足音も、馬車の車輪も、白い地面へ吸い込まれていく。

夜明けまでに、反乱へ関わった63人が死亡した。


王都。

北部領。

国境の砦。

場所は離れていた。

死んだ時刻は、ほぼ同じだった。

刃物による傷はない。

毒物も検出されなかった。

全員の心臓だけが、同じ瞬間に動きを止めていた。


中には、反乱計画へ加わった証拠のない者もいた。

首謀者の家令。

命令を運んだ使用人。

後継者として担ぎ出される可能性のあった親族。

計画を知りながら、通報しなかった者。

まだ何もしていなかった者も含まれていた。



朝、ネネは東塔の部屋へ来た。

衣装を整える時間もなかったらしい。

髪は乱れ、外套の肩には雪が残っていた。


「あなたがしたの?」


ユリウスは窓辺に立っていた。


「うん」

「約束したでしょう」

「君を守ると約束した」

「ここから出ないと」

「出ていないよ」


実際、部屋からは出なかった。

空間を通して、63人の心臓へ干渉した。


「言葉の意味を変えないで」

「変えていない」

「63人が死んだ」

「これで反乱は起きない」

「罪を犯していない人もいた」

「いずれ協力する可能性があった」

「可能性で殺したの?」

「君を狙う可能性なら、十分だった」


ネネの手が震えていた。


「私のために?」

「うん」

「頼んでいない」

「頼まれていなくても、必要だった」

「必要じゃないわ!」


ネネが声を上げた。

学院では、ほとんど聞いたことのない大きな声だった。


「逮捕する準備をしていた。裁判を開くつもりだった。罪がなければ、解放するつもりだった」

「解放されたあとで、君を恨む」

「恨むことは罪じゃない」

「いつか行動する」

「そのときに裁けばいい」

「遅いかもしれない」

「だからといって、今殺していい理由にはならない!」


ネネの目から涙が落ちた。


「あなたは、何も分かっていない」

「君が安全になったことは分かる」

「安全ではないよ」

「反乱は起きない」

「あなたがいる限り、誰も安全ではないわ」


その言葉は、父の恐怖よりも深くユリウスへ届いた。


「君も?」


ユリウスが尋ねる。


「僕がいると、君も安全ではない?」


ネネは答えなかった。


「君を傷つけることはしない」

「私の身体だけを傷つけなければいいの?」

「ほかに何があるの?」

「私が守りたい人を殺して、私が傷つかないと思う?」


ユリウスは黙った。

分からなかった。

だが、ネネが泣いている。

自分が守ったはずなのに。


「あなたは、私を本当には思っていないのかもしれない」


ネネが言った。


「君がいなくなることは怖い」

「それは、失いたくないというだけ」

「違うの?」

「相手を尊重することは、相手の大切なものまで大切にすることだと思う」

「国民全員を?」

「少なくとも、理由もなく殺さないで」

「理由はあった」

「あなたにとっては」


ネネは涙を拭った。


「私にとっては、なかった」

「では、どうすればよかった?」

「何もしないで」

「君が殺されたら?」

「それでも」

「それは選べない」

「だから、私はあなたを選べない」


ユリウスは動かなかった。

雪の降る音だけが、窓の外から聞こえる。


「国を選ぶの?」

「選ばないといけない」

「僕より?」

「あなたがしたことを知っていて、それでもあなたを選べば」


ネネの声が震えた。


「私は、あなたが殺した人たちをもう1度見捨てることになる」

「死者は何も感じない」

「生きている私が感じるの」


ネネは王剣へ手を添えた。


「ユリウス・レイン」


王女として、名前を呼ぶ。


「あなたを王国の敵と認定します」

「殺す?」


ネネの指が鞘を握った。

抜くことはできなかった。


「できない」


正直な答えだった。


「でも、自由にもできない」

「僕を閉じ込める?」

「できると思う?」

「僕が望めば」

「では、一生ここにいてくれる?」


ユリウスはネネを見た。


「君が望むなら」

「誰も殺さずに?」

「君を狙う者がいても?」

「殺さずに」


ユリウスは考えた。

ネネを守る。

相手を殺さない。

両方を完全に満たせるとは限らない。


「約束できない」


ネネは目を閉じた。


「そう言うと思った」

「嘘をついたほうがよかった?」

「いいえ」


ネネは扉へ向かった。


「明日、評議会へ結論を伝えます」

「どんな?」

「まだ分からない」


ユリウスは、その背中を見た。

自分がいる限り、ネネは選び続ける。

国王としての責務。

殺すことのできない相手。


ユリウスは、ようやく理解した。

ネネは、自分を選べないのではない。

選ばないことにも、苦しんでいる。

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