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平均点の少年は、誰の痛みも分からない  作者: くるみ


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第33話 証言者

セラとの約束は、2日後の夜だった。

北棟の記録庫へ入る前に、王都の古い水時計広場で落ち合う。

人通りが多く、待ち合わせをしていても目立たない場所だった。

ユリウスは、約束の30分前に広場へ到着した。

リナも一緒だった。


「今日は何も隠していない?」


広場の隅に立ちながら、リナが尋ねた。


「何も、というのは難しい質問だね」

「そうやって、いつも答えをずらす」

「では、何を知りたいの?」

「危険があるかどうか」

「あるかもしれない」


リナが唇を結ぶ。


「セラさんが襲われる可能性は?」

「あると思う」

「どうして、それを先に言わなかったの?」

「言えば、来なかった?」

「それでも来たよ」

「なら、結果は同じだ」

「同じじゃない」


リナの声が少し強くなる。


「知っていて選ぶのと、知らされないまま連れてこられるのは違う」


白塔について、セラがグレゴールの行為を批判したときと同じだった。

犠牲になる者へ知らせず、選ぶ権利を与えない。


「ごめん」


ユリウスは言った。

リナが驚いた顔をする。


「本当に思っているの?」

「うん。次からは、できるだけ話すよ」

「できるだけ、なんだ」

「すべては難しいからね」


リナは納得していなかった。

それでも、離れなかった。



セラは、約束の時間を10分過ぎても現れなかった。

15分。

20分。


「何かあったのかな」


リナが周囲を見回す。

ユリウスには、すでに分かっていた。

セラは広場へ向かっている。

東側の路地を歩いている。

その後ろを、2人の男がつけていた。

王宮の衛兵ではない。

衣服の下に、結界局の暗部が使う短杖を隠している。


「見に行こう」


リナが言った。


「もう少し待とう」

「でも」

「行き違いになるかもしれない」


ユリウスは広場の時計を見た。

男たちは、セラが人の少ない路地へ入るのを待っている。

今から追えば、襲撃の前に間に合う。

声をかけるだけでもよい。

セラは助かるだろう。


だが、男たちが逃げれば、ヴァルターのもとへ戻る。

追跡すれば、暗部の拠点を知ることができる。

セラが生きたまま記録を公開すれば、関係者は散る。

証拠を隠し、国外へ逃げる者も出る。

先に全員の居場所を把握したほうがよい。


「ユリウス」


リナが彼の顔を覗き込んだ。


「何か分かってる?」

「何も」


ユリウスは答えた。


セラが路地へ入った。

男たちも続く。

ユリウスは、さらに30秒待った。


「探しに行こう」


ようやく言った。

2人は東の路地へ向かった。

角を曲がる。

セラは石壁にもたれ、座り込んでいた。

胸元が赤く染まっている。

男たちの姿は、すでになかった。


「セラさん!」


リナが駆け寄る。

傷口を押さえる。


「まだ息がある」


ユリウスも近くへしゃがんだ。

短剣による傷だった。

心臓の近くを貫かれている。

今なら助けられる。

時間を止める必要もない。

治癒魔法に見える程度の力で、出血を止めることは可能だった。


だが、リナが見ている。

セラもなんとか意識を保っている。

傷を完全に治せば、不自然になる。

最低限の処置だけなら、治療院まで持たない可能性が高い。


「助けて」


リナが言った。


「ユリウス、何かできない?」

「僕の治癒魔法では」

「薬を持ってる」


リナが鞄を開く。

止血薬を取り出す。

セラが、リナの腕をつかんだ。


「記録……」


震える手で、外套の内側から薄い冊子を取り出す。


「北棟……王冠炉の……」

「喋らないで」

「評議会に……」


セラは冊子をリナへ押しつけた。

ユリウスは路地の先に意識を向けた。

逃げた男たちは、まだ遠くない。

1人には印をつけた。

追跡できる。


「ユリウス、先生を呼んで!」


リナが叫ぶ。


「分かった」


ユリウスは立ち上がった。

走るふりをして、路地の角を曲がる。

時間を止めれば、セラを治し、男たちも追える。

だが、大きな干渉になる。

セラは彼の力を知る。

リナにも、説明できない変化を見られる。

今、助ける必要があるか。

セラは記録を渡した。

役割は終わっている。

男たちを追えば、ヴァルターの暗部を特定できる。


ユリウスは、近くの衛兵詰所へ向かった。

通常の速さで。

急ぐ必要があるとは思えなかった。



衛兵を連れて戻ったとき、セラは死んでいた。

リナは血に濡れた手で、彼女の傷を押さえ続けていた。


「遅いよ」


リナが言った。

声が掠れている。


「ごめん」

「もっと早く呼べたでしょう」

「本当にごめんね」

「私もどうしようもないことを言った。八つ当たりだったわ、ごめんなさい」


ユリウスは、リナを見た。


「だけど、ユリウスなんだか変だったわ」

「変?」


リナの目から涙が落ちた。


「何か起きるのを知ってたみたいだった」

「考えすぎだよ」

「私が探しに行こうって言ったとき、止めた」

「行き違いになると思ったから」

「本当に?」

「うん」


ユリウスは、いつもの表情で答えた。

リナはしばらく彼を見ていた。

以前なら、信じた。

今は、信じようとしているだけだった。


「この記録、どうするの」


リナが冊子を抱える。


「学院へ持ち帰ろう」

「セラさんが、評議会にって」

「安全な相手を選ぶ必要がある」

「また、ユリウスが選ぶの?」

「皆で考えるよ」


リナは答えなかった。


セラの遺体へ白い布が掛けられる。

ユリウスは逃げた男につけた印を確認した。

王都南部へ向かっている。

今夜中には、暗部の拠点へ戻るだろう。


セラは死んだ。

必要な情報は残った。

計画に問題はなかった。

ただ、リナの視線が以前とは違っていた。

そろそろ限界かな、と思った。

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