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平均点の少年は、誰の痛みも分からない  作者: くるみ


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第25話 平均的な生徒

ネネは、その翌日から学院を休んだ。

教師は、風邪をこじらせたと説明した。

白塔から戻ったあとも、ネネは顔色が悪いまま治療棟や図書館へ通っていた。

周囲が、無理を重ねて寝込んだのだと考えても不思議ではなかった。


「だから無理をするなって言ったのに」


ダリオが不機嫌そうに言った。


「ネネは、自分のことになると聞かないから」


リナは授業の内容を別の紙へ書き写している。

以前と同じように、休んだネネへ渡すためのものだった。


「何日くらい休むのかな」


ユリウスが尋ねる。


「先生は、1週間くらいって」

「そんなに?」

「身体が弱いんだから、仕方ないよ」


リナは顔を上げた。


「心配?」

「同じ卓にいるからね」


以前と同じ答えだった。

リナは笑った。


「ユリウスは、ネネのことをよく気にするね」

「そうかな」

「私が停学になったときも、気にしてくれた?」

「もちろん」

「でも、ネネが休むと、必ずいつ戻るか聞くでしょう?」


ユリウスは答えなかった。

そんなつもりはなかった。

ただ、教師が何も説明しないため、確認していただけだ。


「病気なら、戻る日が分からなくても仕方ないよ」


リナは紙へ視線を戻した。


「戻ったら、また皆で食べよう」

「うん」


ユリウスは教科書を開いた。

昼休みになり、3人は学生食堂のいつもの卓へ向かった。

左隣にはリナが座った。

向かい側の席が空いている。

ネネが席を譲ってから、ユリウスの左にはリナが座るようになった。

それでも、ネネがいないことにはすぐ気づいた。

空席が向かい側に移っただけだった。



ネネは5日経っても戻らなかった。

ユリウスは、授業後に担任を呼び止めた。


「ネネの具合は、まだよくならないんですか」

「療養中だ」

「どこで?」

「実家だと聞いている」

「連絡は取れますか」


教師は少し意外そうにユリウスを見た。


「見舞いの手紙なら、寮の管理人へ預ければいい」

「分かりました」


ユリウスは短い手紙を書いた。

授業の進み具合。

エマについて新しく分かったこと。

戻ったら、続きを調べること。

体調を気遣う言葉は、最後に1行だけ加えた。

早くよくなるといいね。

以前と同じ文だった。

だが、今度はリナに勧められたから書いたのではない。



「お前、最近元気ないな」


寮へ戻る途中で、ダリオが言った。


「そう?」

「ネネが戻らないことが気になるのか」

「それは少しは心配だよ。一緒にいろいろと調べていたからね」

「リナも一緒だろ」

「リナはいるから」

「ネネだけいないから気になるってことか?」

「そうだね」


合理的な答えだった。

不在の者について確認するのは、不自然ではない。

ダリオは納得していない顔をしている。


「白塔でも、最初にネネを見てた」

「倒れそうだったからだよ」

「冬至祭でも、お前はあいつのところへ行った」

「近くにいたから」

「リナが停学になったときは、そんなに心配していたか」


ユリウスはダリオを見た。


「あとで疑いは晴れただろう?」

「そういう話じゃない」

「では、どういう話?」


ダリオはしばらく黙っていた。


「お前、ネネが死んだら困るだろ」

「ダリオが死んでも困るよ」

「同じか?」


ユリウスは答えようとした。

同じだと言えばよい。

ダリオが死ねば、新しい友人を作る必要がある。

ネネが死ねば、昼食の席が空く。

本を覗き込み、分からない言葉を尋ねる者がいなくなる。

菓子の感想を聞く者もいなくなる。

どちらも、生活が変わる。


「同じくらい困るし、同じくらい悲しいに決まっているよ」


ユリウスは答えた。


「道徳の授業みたいな答えだな」

「ひどい言われようだなあ」


どくん、とユリウスの心臓が打った。


ネネが戻ったのは、休み始めてから8日後だった。

朝の教室に入り、いつものように小さく頭を下げる。


「心配をかけて、ごめんなさい」


リナが真っ先に駆け寄った。


「もう大丈夫?」

「うん。熱も下がったよ」

「本当に?」

「本当」


ダリオも、仕方がないという顔で近づいた。


「また無茶するなよ」

「気をつける」

「お前の気をつけるは信用できない」

「ダリオに言われたくないな」


ネネが笑った。

ユリウスは席を立たなかった。

ネネが自分の机へ近づいてくる。


「手紙、ありがとう」

「届いたんだ」

「うん。授業のことまで書いてくれて、助かった」

「リナのノートもあるよ」

「それも楽しみ」


ネネはユリウスの向かい側へ座った。

いつもの位置だった。

教室の人数は昨日と同じではない。

物音も、会話の数も増えた。

ただ1人戻っただけだった。

それでも、ユリウスは教室が元の形へ戻ったと思った。


「エマのこと、何か分かった?」


ネネが尋ねる。


「少しだけ」

「今日、聞かせてくれる?」

「もちろん」



翌日の早朝、ユリウスの机に1通の手紙が置かれていた。

封筒には宛名だけが書かれている。


ユリウス・レイン。

差出人の名はない。


封を開く。

中には、短い文章が記されていた。

――白塔で救出されたセドリックの内臓は、塔が崩れる前には機能していなかった。

  誰が治した? 平均的な生徒には、できないことだ。


その下には、白い塔をかたどった印が押されていた。

グレゴール・エイムズは、まだ王都にいる。

そして、ユリウスを疑っている。


ユリウスは手紙を折りたたんだ。

恐怖はなかった。

ただ、少し面倒なことになったと思った。

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