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平均点の少年は、誰の痛みも分からない  作者: くるみ


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第23話 薬の出所

リナの家に、王宮の調査官が訪れた。

白塔で使用された眠り薬が、彼女の家の薬舗で扱われているものと一致したためだった。


「私が作ったって、分かったみたい」


放課後の空き教室で、リナは青ざめていた。


「まだ確定していないよ」


ユリウスは答えた。


「でも、材料の配合が同じだって」

「似た薬は、ほかの店でも作れる」

「お父さんが、昨日からずっと調べられてる」


リナは両手を握りしめていた。


「私が作ったって言ったほうがいいのかな」

「駄目だよ」

「でも、このままでは家が疑われる」

「君が作ったと認めれば、なぜ白塔へ持ち込んだかを聞かれる」

「ユリウスに頼まれたとは言わない」

「では、何と答えるの?」

「自分で作ったって」

「理由は?」


リナは答えられなかった。

人を眠らせるほど強い薬を、16歳の生徒が自分の判断で作った。

それだけでは済まない。

白塔へ侵入した経緯も、ユリウスやダリオとの関係も調べられる。


「僕が説明するよ」


ユリウスが言うと、リナは顔を上げた。


「本当のことを?」

「僕が頼んだと話す」

「駄目」

「リナの家が処分されるよりいい」

「ユリウスが退学になるかもしれない」

「君は、僕のために作ったんだろう?」

「だから、ユリウスに責任を取ってほしいわけじゃない」


リナの目に涙が浮かんだ。


「私が、自分で決めたの」


予想どおりの答えだった。

リナは自分を庇う。

たとえ家族が疑われても、ユリウスの名前を出さない。


「分かった」


ユリウスは優しく答えた。


「では、少し時間をくれる?」

「何をするの?」

「君の家が疑われない方法を考える」

「危ないことはしないで」

「しないよ」


ユリウスは微笑んだ。



その夜、ユリウスは王都にあるベルトランの住居へ入った。

本人は学院の地下牢に収容されている。

部屋に人はいない。

机の引き出しには、白塔で使われていた薬品の購入記録が残されていた。

大半は、複数の薬舗から少量ずつ買い集めたものだった。

リナの家の名前もある。

ただし、眠り薬の材料ではない。


ユリウスは記録の文字を数行書き換えた。

リナの家から購入した薬品の種類と量を、白塔で使用された眠り薬の配合と一致させる。

さらに、ベルトランの筆跡で短い覚書を作った。

学院生の協力者へ、薬を調合させた。

協力者の名前は記さない。

代わりに、薬舗の帳簿へ偽の注文記録を加えた。

リナの父親が知らないうちに、店の名義が利用されたように見せられる。


これで、リナの家は被害者になる。

リナ自身が疑われる可能性も低い。

ユリウスは部屋を出た。

リナを守りたかったわけではない。

彼女が処分されれば、今後利用できなくなる。

薬舗とのつながりも失われる。


ネネも悲しむだろう。

それは面倒だと思った。



数日後、調査は打ち切られた。

眠り薬は、ベルトランがリナの家の名義を不正に使って材料を調達し、自ら調合したものと判断された。

白塔で薬を保管していた瓶からも、ベルトランの魔力だけが検出された。

ユリウスは、リナへ結果を伝えた。


「もう大丈夫だよ」

「本当に?」

「調査官が、君の家へ謝罪したそうだ」


リナは机へ手をつき、力が抜けたように息を吐いた。


「よかった」

「怖かったね」

「うん」

「もう終わったよ」


ユリウスが肩へ手を置くと、リナは彼の胸へ顔を伏せた。

一瞬のことだった。

すぐに離れようとしたが、ユリウスは動かなかった。

ここで拒めば、彼女は傷つく。

しばらく受け入れたほうが、今後の関係に有益だった。


「ユリウスがいてくれて、よかった」


リナが小さな声で言った。


「僕は何もしていないよ」


嘘ではないように聞こえる声で答えた。


「それでも」


リナは顔を上げた。


「ずっと、そばにいてくれた」


ユリウスは微笑んだ。

教室の扉の外に、人の気配があった。

ネネだった。

少し開いた扉の向こうで立ち止まっている。

目が合う前に、ネネは静かにその場を離れた。

ユリウスは何も言わなかった。


翌日の昼休み、学生食堂で会ったネネは普段と変わらなかった。

リナにも、ユリウスにも、昨日のことを尋ねなかった。

ただ、自分からユリウスの隣へ座らず、リナへその席を譲った。

ユリウスは左隣に座ったリナを見た。

次に、向かい側に座ったネネを見る。

配置が変わった。

それだけのことだった。

だが、その日の本は、普段より読みづらかった。

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