第22話 3人の生徒
白塔から救出された3人は、学院の治療棟へ運ばれた。
ミロは数日の治療で意識を取り戻した。
身体から大量の魔力を抜かれていたものの、臓器に大きな損傷はない。
もう1人の少女は、アルマ・ノイスといった。
1年前に病気を理由として退学したことになっていたが、実際には白塔へ運ばれ、魔力を抽出され続けていた。
意識を取り戻したあとも、声を出すことができなかった。
人の顔を見るたびに怯え、寝台の隅へ身体を寄せた。
最後の少年は、セドリック・ベル。
2年前に行方不明となっていた。
救出時には内臓の一部が機能を失い、学院の医師は生きていること自体が不思議だと話した。
「本当に、助かるんですか」
治療棟の廊下で、ネネが医師へ尋ねた。
「まだ何とも言えない」
「目を覚ます可能性は?」
「ある。ただし、魔力はほとんど戻らないだろう」
「魔法が使えなくなるということですか」
「それだけではない。魔力は、人間の身体を維持する力でもある。今後も長く治療が必要になる」
ネネは病室の扉を見た。
セドリックは眠ったままだった。
「家族には?」
「連絡を取っている。だが、2年前に死亡したと伝えられていたらしい」
「死亡したと?」
「学院の記録では病気による退学だ。家族には、退学後に亡くなったと通知されている」
ネネの顔から表情が消えた。
「誰が、その通知を」
「調査中だ」
医師はそれ以上答えず、病室へ入っていった。
*
ベルトラン・ハーグは、すべてを認めた。
白塔では、王都の結界を維持するため、後ろ盾のない生徒から魔力を抜き取っていた。
冬至祭の事件によって大結界が損傷してからは、以前より多くの魔力が必要になった。
そのため、ミロが新たな供給源として選ばれた。
グレゴール教授は、結界を守るためには必要な犠牲だと説明していたという。
「必要な犠牲」
ダリオが吐き捨てるように言った。
4人は、治療棟の中庭にいた。
リナも事情聴取を終え、戻ってきている。
「勝手に決めるなよ」
「グレゴール先生は、王都全体を守ろうとしていたんだと思う」
ネネが静かに言った。
ダリオが彼女を見る。
「だから仕方ないって言うのか?」
「違うよ」
ネネは首を振った。
「守ろうとしたものが大きくても、したことが正しくなるわけではないと思う」
「でも、結界が壊れたら、王都の人が危なかったんでしょう?」
リナが尋ねる。
「ほかに方法がなかったのかな」
「なかったのかもしれない」
ネネは答えた。
「それでも、犠牲になる人へ何も知らせず、選ぶ権利も与えずに連れ去るのは違うと思う」
「選ぶ権利を与えて、断られたら?」
ユリウスが尋ねた。
ネネは少し考えた。
「別の方法を探す」
「見つからなかったら?」
「それでも探す」
「その間に、多くの人が死ぬかもしれない」
「そうだね」
「では、少数を犠牲にするほうが合理的だよ」
ダリオとリナが黙った。
ネネだけが、ユリウスを見ていた。
責めるような目ではない。
「ユリウスは、そうする?」
「状況によるよ」
「3人を犠牲にすれば、王都の人たちが助かるなら?」
「ほかに方法がなければ」
ユリウスは迷わず答えた。
リナの顔がわずかに強張った。
ダリオは何も言わない。
ネネはしばらくユリウスを見ていた。
「私は、選ばれる3人の名前を知らないままでは、決められないと思う」
「名前を知れば、判断が変わるの?」
「変わるかもしれない」
「それは公平ではないよ」
「そうだね」
ネネは否定しなかった。
「でも、人は数だけでは選べないと思う」
「王都にいる人たちにも、全員名前がある」
「うん」
「なら、結局は数の多いほうを助けるべきじゃない?」
ネネは目を伏せた。
簡単には答えられないらしい。
ユリウスは、その沈黙を興味深く思った。
ネネは誰も見捨てたくない。
しかし、全員を助けられない状況があることも理解している。
理想だけを話しているわけではない。
「分からない」
やがて、ネネが言った。
「でも、分からないままでも、考えることをやめたくない」
「答えが出なくても?」
「うん」
「無駄かもしれないよ」
「それでも」
ネネは、治療棟の窓を見上げた。
「誰かを犠牲にすることに、慣れたくないから」
ユリウスは答えなかった。
自分はすでに慣れている。
エドガー。
アレン。
白塔の地下で死んだ職員。
助ける必要がないと判断した者を、迷わず見捨てた。
それが悪いことだとは思わない。
だが、ネネが同じようになれば、今とは違う人間になる。
ユリウスは、それを望ましくないと思った。
なぜ望ましくないのかは、分からなかった。




