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平均点の少年は、誰の痛みも分からない  作者: くるみ


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第19話 使えるもの

白い塔へ向かう前に、ユリウスはリナへ頼み事をした。


「眠り薬を作れる?」

「誰に使うの?」

「ミロを連れ去った人間に」


リナの顔が強張る。


「危ないことをするつもり?」

「先生たちへ知らせる前に、ミロが本当にいるか確認したい」

「どうして先生に任せないの?」

「ベルトランは学院の内部に協力者を持っているかもしれない。こちらが動いたと知られれば、ミロを殺す可能性がある」

「殺す……」


リナは唇を噛んだ。


「でも、私たちだけでは」

「中へ入るのは僕だけだよ」

「駄目」

「リナは学院に残る」

「それでも駄目だよ」

「では、ミロを放っておく?」


リナが黙る。

ユリウスは、その表情を見た。

正義感と恐怖。

自分への心配。

どれを強く刺激すれば、望む答えになるか分かっていた。


「僕も怖いよ」


声を少し落とす。


「でも、エドガーやアレンのように、また助けられなかったらと思うと」

「ユリウスのせいじゃない」

「次もそう言えるかな」

「……何を作ればいいの?」

「匂いのない眠り薬。液体で、肌についただけでも効くもの」

「そんな強い薬は危険だよ」

「量は調整する」

「間違えたら、死ぬかもしれない」

「間違えないよ」


リナはユリウスを見た。


「本当に、誰も殺さない?」

「殺さない」


ユリウスは答えた。

自分から手を下す予定はなかった。

それが、相手が死なないという意味ではない。



リナは夜までに薬を用意した。

小さなガラス瓶に入れ、布で何重にも包んでいる。


「少しでも手についたら、すぐに洗って」

「分かった」

「1人で行かないで」

「ダリオには話すよ」

「私も行く」

「駄目だよ」

「どうして?」

「リナが狙われる可能性がある」

「ユリウスだって」

「僕は、学院から疑われていない」


リナは言葉を失った。

停学になったのは彼女だけだった。

ユリウスは何の処分も受けていない。


「責めているわけではないよ」


ユリウスは優しく言った。


「これ以上、君を危険な目に遭わせたくないんだ」


リナの表情が緩む。


「必ず戻ってきて」

「約束する」


ユリウスは薬を受け取った。

リナが立ち去ったあと、瓶を光へかざした。

十分な濃度だった。

皮膚に触れれば、成人でも数時間は意識を失う。

呼吸器へ入れば、量によっては死ぬ。

使い方は多かった。



「俺には、先に全部説明しろ」


学院の裏門で、ダリオは腕を組んでいた。


「説明したよ」

「白い塔に行くことしか聞いてない」

「ミロがいるかもしれない」

「それだけか?」

「それだけだよ」

「リナに薬を作らせたんだろ」

「なんのこと?」

「あいつが泣きそうな顔をしてた」

「心配性なんだ」

「誰のせいだと思ってる」


ダリオはユリウスへ近づいた。


「お前、リナを利用してないか」

「何のために?」

「それが分からないから聞いてる」

「僕だって、リナが嫌がることはしないよ」

「断れないって分かってるだろ」


ユリウスは答えなかった。

ダリオの認識は正しい。


「お前は、あいつを好きなのか」

「友達だよ」

「そういう意味じゃない」

「では、どういう意味?」

「もういい」


ダリオは乱暴に息を吐いた。


「ミロを見つけたら、すぐ先生を呼ぶ。それでいいな」

「分かった」

「勝手なことをするなよ」

「しないよ」


ユリウスは微笑んだ。

ダリオがその言葉を信じていないことは、表情を見れば分かった。

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