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平均点の少年は、誰の痛みも分からない  作者: くるみ


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第16話 帰還

リナの停学処分が解かれたのは、冬至祭から1ヶ月後だった。


学院は、閉架書庫から見つかった術式について、オズワルド・ケインが事件の準備として仕掛けたものだと結論づけた。

リナが持ち込んだ木箱には、術式の一部を起動させる働きがあった。

しかし、箱そのものは図書館の備品として登録されていたものであり、事件以前から閉架書庫に置かれていた可能性がある、とされた。

リナが故意に術式を作動させた証拠はない。

入室規則を破ったことに対する処分は必要だが、すでに十分な停学期間を経ている。

そういう理由だった。


学院の判断を聞いたリナは、何度も安堵の息を吐いた。

誰も知らなかった。

図書館の備品目録に、その木箱の記録が加えられたのは、調査結果が発表される前日の夜だった。

オズワルドの執務室から押収された書類の中に、木箱へ術式を刻むよう命じた覚書が発見されたのも、同じ夜である。

筆跡も、使用された紙も、印章も本物だった。

ただし、オズワルドがそれを書いた事実だけがなかった。



リナが教室へ入ると、何人もの生徒が声をかけた。


「戻ってきたんだね」

「大丈夫だった?」

「疑いが晴れてよかった」


リナは1人ずつに頭を下げた。

笑っていたが、その表情は以前より硬かった。

教室の奥で、ユリウスは本を閉じた。


「おかえり、リナ」


リナは足を止めた。

しばらくユリウスを見たあと、目元を赤くした。


「ただいま」

「もう大丈夫なの?」

「うん。先生からも、疑いはないって言われた」

「よかった」

「ユリウスも、心配してくれた?」

「もちろん」


ユリウスは立ち上がった。

周囲の生徒が見ている。

ここでは、少し安心した表情を見せるのが適切だった。


「戻ってこなかったら、どうしようかと思ったよ」


リナの唇が震えた。


「私も、もう戻れないかと思った」

「何も悪いことはしていないんだから、当然だよ」


正確には違う。

リナは無断で閉架書庫へ入り、記録簿を切り取った。

学院の規則には明確に反している。

だが、今それを指摘する意味はなかった。

リナはユリウスの制服の胸元を見た。

そこには、彼女が新しく作った護符が掛かっている。


「まだ、つけてくれてるんだ」

「大切なものだからね」


リナは俯いた。

頬が赤くなっている。

その後ろから、ダリオが近づいてきた。


「戻ってくるのが遅いんだよ」

「ごめん」

「なんでお前が謝るんだ」


ダリオは大きな手を伸ばし、リナの頭を乱暴に撫でた。


「戻ったなら、それでいい」

「髪が崩れる」

「細かいことを気にするな」

「ダリオは少し気にしたほうがいいよ」


ネネが言った。

彼女も席を立ち、リナの前まで来た。


「おかえり」

「ただいま、ネネ」


リナがネネの手を握る。

今度は涙をこらえなかった。


「怖かった」

「そうだよね、私はリナを信じているから」


ネネが涙目で答えた。

リナは、はっとして口を閉じた。


「何でもない」


ネネは少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は尋ねなかった。

ユリウスは2人を見ていた。

リナが戻れば、今後も利用できる。

図書委員としての立場も、薬舗とのつながりも役に立つ。

彼女への疑いを消したのは、合理的な判断だった。


それだけではない。

リナが停学になってから、ネネは何度も彼女のことを口にしていた。

今日は戻れるだろうか。

手紙を書いてもいいだろうか。

家で責められていないだろうか。

リナが戻れば、ネネがその話をしなくなる。

ユリウスにとっても、そのほうが都合がよかった。



昼休み、4人は学生食堂のいつもの卓を久しぶりに囲んだ。

リナは、停学中に家で焼いた菓子を持ってきていた。


「今度は私が作ったの」

「ネネよりは上手いのか?」


ダリオが言う。


「失礼だよ」


ネネは怒らずに笑った。


「リナは薬屋の娘だから、分量を量るのも上手そう」

「お菓子と薬は違うよ」

「どちらも、間違えたら大変そうだな」

「ダリオには作らせないほうがいいね」


ユリウスが言うと、3人が笑った。

リナが包みを開く。

焼き菓子は、すべて同じ大きさに整えられていた。


「ユリウス食べて」

「僕が?」

「感想を聞きたいから」


ネネのときと同じだった。

ユリウスは1つ取り、口へ入れた。

甘みが強い。

焼き加減に問題はない。


「おいしいよ」

「本当?」

「うん。甘くてちょうどよいよ」


リナは嬉しそうに笑った。


「ユリウスは甘いものが好きだと思ってた」

「どうして?」

「前に、食堂で蜂蜜を多く入れていたから」


ユリウスは覚えていなかった。


「覚えていてくれたんだね」

「うん」


リナは、期待するような目でユリウスを見た。

ユリウスは微笑んだ。

その横で、ネネが菓子を半分に割っていた。


「ネネは食べないの?」

「少しだけ食べる」

「具合が悪い?」


ユリウスが尋ねると、ネネは首を振った。


「昨日、少し熱があったから」

「なら、休めばよかったのに」

「リナが戻る日だったから、来たかったの」


リナがネネを見る。


「無理して来たの?」

「もう熱は下がってるよ」

「それでも」

「皆で食べたかったから」


ネネは小さく笑った。

ユリウスには理解できなかった。

リナは今日だけでなく、明日もいる。

体調が悪いなら、明日会えばよい。

合理的ではない。

だが、ネネはそういう選択をする。

ユリウスはもう、そのことに驚かなかった。

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