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平均点の少年は、誰の痛みも分からない  作者: くるみ


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13/29

第13話 5本目の針

学院の冬至祭は、1年で最も大きな行事だった。


王都から多くの貴族や役人が訪れ、学院の大広間では生徒による演武や研究発表が行われる。

夜には、学院の大結界を更新する儀式がある。

儀式を担当するのは学院長と、王宮から派遣された魔術師たちだった。

結界の更新中、学院を守る術式は短時間だけ不安定になる。

オズワルドは、その瞬間を狙っている。

5本の針の位置は、旧礼拝堂の地下で確認していた。


演習森林。

治療棟。

図書館。

講堂の地下。

そして、学院中央にある時計塔。

すべてをつなげば、学院全体が1つの召喚陣になる。


図書館の針は、閉架書庫に隠されていた。

ユリウスが細工をするなら、そこが最も容易だった。

しかしユリウスが侵入すれば、今度こそ疑いを持たれる可能性がある。

ユリウス自身が入る必要はない。


「閉架書庫で、もう1つ確認してほしいことがあるんだ」


放課後、ユリウスはリナへ言った。


「また入るの?」

「うん。前に本を取った棚の背板に、小さな黒い針が刺さっていなかったか見てほしい」

「黒い針?」

「森の召喚陣に使われていたものと似ているかもしれない。触らなくていい。近くでこの箱を開いて、そのあと持ち帰ってほしい」


ユリウスは、小さな木箱を差し出した。

箱の底には、針へ逆流術式を移すための魔法陣が刻まれている。リナが棚の前で蓋を開けば、それだけでよかった。


「先生に言ったほうがいいんじゃない?」

「証拠がなければ、前に無断で入ったことまで知られる。今度こそ、リナが処分されるかもしれない」

「ユリウスもでしょう?」

「そのときは僕が頼んだと話すよ」


リナは木箱を見た。

ユリウスが自分を庇おうとしていると思ったらしい。


「私が見てくる」

「やっぱりやめよう、リナが言った通り、危ないよ」

「図書委員の仕事で入れる時間があるから」

「ありがとう。でも無理はしないで」

「ユリウスは、いつもそれを言うね」

「心配だから」


リナは嬉しそうに笑った。

ユリウスは、正しい表情を返した。



リナは、1時間ほどで戻ってきた。

手には、木箱を持っている。


「なにも見えなかった。でも、言われた棚の前で箱は開けたよ」

「誰かに見られなかった?」

「大丈夫」

「ありがとう。リナにしか頼めなかった」


リナは安堵したように笑った。

箱の底に刻んだ術式は消えている。

細工は成功していた。


「本当に、これで誰かを助けられる?」

「うん」

「なら、よかった」


リナが去ったあと、ユリウスは木箱を見た。



「ユリウス」


図書館を出たところで、ネネに呼び止められた。


「どうしたの?」

「リナと何を話していたの?」

「図書館の仕事について相談していたんだ」

「もう終わった?」

「うん。手伝ってもらったよ」

「そう」


ネネは廊下の先を見た。

リナの背中は、もう見えない。


「最近、リナは少し疲れているように見える」

「冬至祭の準備があるからじゃないかな」

「そうかもしれない」


ネネはユリウスへ視線を戻した。

疑っている様子はなかった。

ただ、友人を心配している。


「ネネも、最近よく休んでいるね」

「うん。寒いのが苦手だから」

「冬至祭には来られる?」

「そのつもり」

「無理をしないほうがいいよ」

「ユリウスも」

「僕は元気だよ」

「元気でも、無理をする人はいるから」


ネネは小さく笑った。


「困ったら、私にも言ってね」

「ネネに?」

「頼りにならないかもしれないけど」


確かに、ネネは頼りにならない。

成績は平均以下で、体力もない。

秘密を守れるかどうかも分からない。

リナのように好意を利用することもできるだろう。

頼られれば、ネネも断らないはずだ。

だが、ユリウスは頼もうと思わなかった。


「ありがとう」


そう答えただけだった。

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