2-19
「宴じゃああ!!」
「うおおおおお!!!!」
その夜、村長の意外な野太い声を合図に村総出の宴が始まった。
魔物のせいでしばらく外へ出られず村は食糧難に陥りかけていたが、今回の魔物たちが異常に強かっただけで普段森に現れる程度の魔物なら村人でも対処できるという。
とはいえ、主戦力を何人か失っているのも事実だ。怪我を負ったイクスは応急処置をしたとはいえ一応怪我人なので療養してもらい、私が護衛を兼ねて一緒に向かった。
だが魔物の気配はなく、出てきたのは野生動物くらいのものだった。久しぶりの肉や新鮮な果物に、村人たちは目を輝かせる。その姿を見て私まで張り切ってしまい、魔法を使って狩りを手伝う。
土地勘のある村人たちと、私の風魔法の組み合わせは想像以上に相性がよく、食料は驚くほど集まった。
みんなはそれを大事そうに抱え、ほくほくとした顔で村へ持ち帰っていく。
村に戻ると、まずは各家ごとに必要な分が分けられた。
宴を開くとは聞いていたので多めに採ってきたつもりだったが、保存食もほとんど尽きかけていたらしい。
その後、大人たちは真っ先に子供たちへ果物を渡した。お腹を空かせた子供たちが夢中でかじりつく。その様子を、母親たちは涙ぐみながら見守っていた。狩りから帰ってきた男たちも、老人たちも、子供たちが満足そうに笑うのを待ってから、ようやく自分たちの分に手を伸ばす。
私にも手渡されたが、そっと見つからないように戻しておいた。もちろん、一緒に食べてもよかったのだと思うけど、それは夜の宴でいいと思った。私は微笑み合う人々の輪から静かに離れ、あまり近場で狩り過ぎない方がいいだろうと思い、少し遠めの森へ飛ぶ。
そしてそのまま焼いても保存食にしても美味しいと有名な魔物肉をこっそり追加しておいた。
「イクス様、ミサキ様!! この度はほんとおおおに! ありがとうございましたっ!!」
「いえいえー」
「…………(こくり)」
魔物を倒した直後後、私はイクスの傷が癒えるまで、何度も治癒の魔術具に魔力を込めた。
彼が完全に動けるようになるまで、結局三時間ほどかかってしまった。
この世界には、ゲームみたいに大怪我を一瞬で治す魔法はないから仕方がないのだけれど。
「……本当に化け物並みの魔力だな」
途中でイクスに真顔でドン引きされていたが、大人しく三時間付き合っていたので彼なりのありがとうという意味だと受け取っておいた。あの人、口下手だし。きっと、うんきっとね。
そんなわけで、ベッドから降たイクスも宴に参加し、いつも通りモリモリと肉を頬張っていた。
初めてその食べっぷりを目にした村人たちは、未知の生き物を見る目で若干引いている。
君も大概だよね? スキルのせいらしいけど、私のもスキルのせいだから! お互い様だから!
村人たちに囲まれ、口々にお礼を言われ気恥ずかしく思いつつもそれに応えていれば、ずいぶん時間が経っていた。
イクスは慣れているのか、食べる手を止めないまま頷いて対応している。
一方の私は、別に人と話すのが苦手というわけではない。ただ、こうして大勢から感謝されるのにはまだ慣れていなかった。
S級冒険者になってから一年も経っていないし、普段の任務は魔物を倒して終わりというものが多い。大勢の前で魔物と対峙したのは王都でドラゴンを倒した時と、この前ワイバーンの群れを倒した時くらいだろうか。
沢山の人と話すという戦闘とはまた違う疲れを感じた私は、料理を盛った皿を手に、人の少ない場所へ抜け出した。
すると、そこには先客がいた。
「ルーカッ」
「……ミサキ」
村の端は灯りは少なく、月明かりだけが静かに降り注いでいる。遠くから宴の声は聞こえるものの、ここはひどく穏やかだった。
「少し多めに持ってきたから、ルカも食べる?」
昼から何も食べていなかったので、皿には山盛りの料理を乗せていた。それを差し出すが、ルカは静かに首を振り、月を見上げる。
そっかと言いつつ、私は隣に腰を下ろしもりもりとご飯を口に詰めた。
「……! おいしいっ! これ、ルカが作ったの?」
「! あ、ああ……よく分かったな」
「当たり前だよ~」
まず手を伸ばした肉には、少し酸味のきいたフルーツソースがかかっていた。私がよくルカにリクエストしていた、大好きな味だ。結構手間がかかるらしく、たまに遠慮することもある。けれど時間がある時や、私が疲れている時、ルカは必ずこれを作ってくれた。
分からないはずがない。
「あ! もしかして、このサラダとディップも?」
「ああ。調理場で手伝ってもいいか聞いたら、快く受け入れてくれた」
「そっか~! っ、うまー」
旅に出たら、しばらくルカの料理は食べられないかもしれないと思っていたから、余計に嬉しかった。
まあ、旅に出たのは昨日の今日なのだけれど。
それでも、ルカの料理は別格だ。旅先で食べる料理もいい。でもやっぱり、ルカのご飯が一番だ。
彼は何も考えずに食べがちな私の健康まで考えてくれるし、何より味付けが私好みなのだ。神か。
「ピピ」
「あら、リッカ。リッカも手伝ったのー?」
「ピッ!」
どこかへ散歩に行っていたリッカが、いつの間にか戻ってきていた。
皿を持つ私の手にちょこんと留まり、サラダを嘴で示す。どうやら得意の氷魔法で、野菜を冷やしてくれていたらしい。
「わあ、ありがとう。美味しいよ」
「ピ!」
褒められて得意げに胸を張っていたが、暫くすると私が食べているのを見て羨ましくなったようだ。
氷ではなく野菜を欲しがったので、葉っぱを一枚あげる。
どうやら食事というより、同じものを食べたかったみたいだ。なんだそれ。可愛いか。
「……ミサキに、喜んで欲しくて」
「?」
リッカときゃっきゃしていると、ルカがぽつりと呟いた。
どこか様子がおかしい。そう感じて隣を見上げたのと同時に、リッカは満足したのか再び闇夜へ飛び立っていった。
「…………」
「…………?」
「…………、」
はくはくと口を開けては閉じる動作を繰り返す。何かを言おうとしてるが、ためらっているようだ。
私は急かさず、フォークを置いて静かに待った。
「………………私、は」
「うん」
「…………っ」
ルカは唇を噛んで言い淀む。落ち着きなく視線を彷徨わせる彼を、私はただ静かに見上げた。
そんな様子の私を見て、ルカは覚悟を決めたように私を見る。そして唾を呑み込み、口を開いた。
「ミサキ」
けれど私の名を呼んだのはルカではなく、違う声。
「……!」
「……………イクス?」
目の前のルカが、私の背後を見て青ざめている。
不思議に思って振り返ると――。
そこには、巨大な魔石を担いだイクスが歩いてくるところだった。
本日2回目投稿。昨日の分は昼ので、今日の分がこれ…ということで。
一旦この章が終わるまで、セルフ毎日投稿チャレンジをしてました。
残りの話数も頑張るぞ。




