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私の奴隷はとても可愛い。〜XXXXX〜  作者: せろり
忍び寄る影 〜心に灯る嫉妬〜

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2-18


「ただいまー!」

「ミサキさん……!! ご無事ですか!?」

「うん、魔物は全部倒してきたよ。周囲も確認したけど、いたのはあの九体だけ。他に魔物はいなかったから安心して」

「そんなことまで……!」

「イクス様、ミサキ様、本当にありがとうございます!!」


 一時間後、村へ戻ってきたミサキとイクス殿を、村中の人々が迎えた。

 真っ先に飛び出したパーラさんがミサキへ抱きつく。彼女の口から魔物討伐完了の報告を聞いた瞬間、歓声が沸き起こった。


 村長をはじめ、誰もが二人へ感謝の言葉を口にする。それも無理はない。昔ほどではないとはいえ、魔物の脅威は決して小さくない。防衛装置が正常に機能している限り大事には至らないが、それはせいぜいAランクまでの話。

 そんな中、今回Sランクが複数と未知なる魔物まで現れたのだ。中には安堵のあまり涙を流している者までいる。


「…………」


 人々にもみくちゃにされるミサキを少し離れた場所から見ていた私は、その輪の中には入れなかった。

 視線の先では、彼女と同じように大勢に囲まれたイクス殿。


「…………」


 私は、魔術具を通して二人の戦いを見ていた。


 前にどうしても同行したいと駄々をこねた私に、ミサキが渡してくれたものだ。

 本当は自分の危険などどうでもよかった。Sランクが八体。そのうえ、伝説級とも言われるSSランクがいるかもしれない。そんな場所へ、彼女だけを送り出したくなかった。


 ――もしもの時は、盾くらいにはなれるかもしれない。

 それが無理でも……もし、永遠の別れになってしまうのなら。せめて最後くらい、一緒にいたかった。


 けれどミサキは、そんな私の気持ちなど知らないまま、いつものように『安全な場所で待ってて』と笑って言う。

 それは彼女の優しさで、奴隷の自分には余りある待遇で。でも、私にとっては残酷だった。


 引き下がらない私に、イクス殿が『足手まといがいる方が危険だ』静かに告げる。

 その言葉に、私は何も返せなかった。前に、自分の未熟さで失敗した時のことを思い出したからだ。

 そしてミサキの顔を見れば分かった。彼女は負けるつもりなど微塵もない。

 だから私は、不安に押しつぶされそうな自分の気持ちを押さえつけて、主人を信じることに決めたのだ。




 それから私はずっと魔術具を見続けていた。

 村人たちの声が気にならないよう、一人になれる場所へ籠もって。私の震える身体とは裏腹に、ミサキたちはあっという間に八体もの魔物を倒していった。

 そして最後に残ったのは、SSランクと思われる一体。


 二人は何かを話し合っていた。小さな音声までは聞こえないので内容は分からない。

 それでも、それまで余裕を崩さなかった二人から緊張感が画面越しにも伝わってくる。


 ミサキも、今まで見たことがないほど真剣な表情をしていた。

 私は何もしていないのに、こめかみを汗が伝う。


「!」


 次の瞬間、ミサキが魔法を放った。同時にイクス殿の姿が消える。いや、消えたように見えただけ。それほどの速度で魔物へ肉薄したのだ。ミサキの魔法が閃光と衝撃で魔物の動きを鈍らせ、その一瞬の隙を逃さず、イクス殿の剣が閃いた。

 

 だがそんな連携も、SSランクには通用しないらしい。魔物は直ぐに体勢を立て直す。

 Sランクの魔物を紙のようにスパスパ切っていた彼の剣も、流石にSSランクも同じようには切れないらしく、一撃で倒せないようだ。それでもイクスさんは人間離れした速度と膂力で攻め続ける。その猛攻に目を奪われながらも、私はハッとして視線をミサキへ向けた。


 彼女は最初の位置から動いていない。ただ長い詠唱を続けているようだ。


「……ミサキにしては長い呪文だな」


 ミサキは普段、一言の詠唱だけで大抵の魔物を葬る。それができるだけの魔力量と技量を持っているからだ。

 そんな彼女が、これほど長く詠唱している。それだけで相手の危険さが伝わってきた。


 ――それほどまでに強いのか。

 よく見ると、イクス殿にも細かな傷が増え始めていた。


「!」


 あ、と思った時には、大きな一撃が彼に入った。肩が深く切り裂かれる。

 血しぶきが上がる中、それでもイクス殿は眉ひとつ動かさず、攻撃を続けた。


 後方のミサキも反応したものの、詠唱は止めない。きっと事前に決めていたのだろう。

 おそらく、先程と違って今回の攻撃のメインはイクス殿ではなく――ミサキの魔法だ。


 しかし黒の魔物は徐々にイクス殿の動きに対応し始める。二つ、三つと彼の傷が増えていく。


「……っ」


 血が飛び散る。魔物は後方のミサキの存在にも気付いていて、時折彼女へ向けても攻撃を放った。

 しかしそのたびにイクス殿が防いでいる。そして、その隙を突いて魔物がさらに彼へと追撃する。


「……この魔物…………」


 私は背筋に寒気が走った。今のは明らかにブラフだった。

 Aランク以上の魔物には知性があると言われる。だがこの黒い魔物は一線を画すように見えた。頭が回るどことではない。それどころか人の思考を読み、利用しているようにすら思えた。


「!」


 傷が増えていくイクス殿を見て、魔物が嗜虐的な笑みを浮かべる。

 それと同時に、彼が何かを投げる。それは――魔術具だった。


 その魔術具が発動した魔法に、魔物の意識が一瞬だけそちらへ向く。ほんのわずかな隙。

 だが、その数舜がこの場では致命的だった。イクス殿はそれを突いて大技を放つ。


 見事、渾身の一撃が魔物を捉え、その巨体が宙へ吹き飛んだ。それでも黒の魔物は頑丈なのか、その技にすら耐える。

 魔物は勝ち誇ったように、空に舞いながらイクス殿に笑いかける。


 だが、笑ったのはイクス殿も同じだった。


 ――終わり、だ。


「!!」


 そう彼の口元が動いた刹那、世界が白に染まった。

 視界を埋め尽くす閃光。映像を超えて、こちらまで照らすその光。あまりの眩しさに思わず目を閉じる。


「……?」


 数秒後、残像に焼かれた目をこらしながら、私は再び魔術具を覗き込んだ。

 そこに魔物の姿はなく、映っていたのは、地面に座り込むイクス殿だけ。


「ミサキ……」


 慌てて視点を動かし周囲を探す。するとミサキがイクス殿へと駆け寄るところだった。


『――っ!』

『――。』

『――!!』


 彼女何かを叫び、イクス殿がそれ答える。きっと彼の怪我を心配しているのだろう。

 周囲を警戒する様子のない二人の様子から、どうやら先程の魔物は倒し終えたようだ。


「……よかった」


 私は戦いの場にいないのに、全身から力が抜けた。それでも私は魔術具から目を離さず、食い入るように二人を見つめる。

 画面の中ではミサキが、イクス殿の持ち物に回復用の魔術具があるのだろう。それを何度も発動していた。

 出血は酷いように見えるが、彼の表情は穏やかだ。命に別状はないのだろう。

 治癒の魔術具に大した治療の効果は無いが、ミサキが何度も魔力を込めて発動すれば大きい傷も塞がる筈だ。


「…………」


 本当に良かった。二人とも無事だった。村も救われた。喜ぶべきことしかない。


 ――なのに……胸の奥が、少しだけ痛む。

 だが、その理由も本当は分かっていた。気付きたくなかった自分の中の黒い感情。

 豆がいくつも潰れて硬くなった手のひらを見つめ、強く握りしめる。


「…………なぜ、私には力の才がないのだろう……」


 水晶の中では、傷だらけなのに穏やかに微笑むイクス殿が映っていた。



 そして――ルカの遥か下、地中深くに埋もれている小さな天然魔石が、人知れず色を変える。

 宝石のような澄んだ水色から禍々しい赤黒い色へと。


 静かに、誰にも気付かれることなく。







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