2-12
「へえ、パーラの魔法って変化の魔法だと思ってたけど、創造の方が近いんだ」
「は、はい」
イクスが各所に連絡を入れ、とりあえずグラッツィアのギルドから応援が派遣されることとなった。この村を治めているはずの国は、予想通り特に反応は無い。
ギルド側の返答は万全を期して、調査に特化した部隊と、私たちが戦闘中に村を守る部隊。さらに今回の相手がSSランクという未知の存在であるため、戦闘部隊も駆けつけてくれることになった。
私とイクスは戦闘向きの能力のため、一旦彼らが到着するまで待機である。
一応、村を守っている魔術具に魔力の補充はしているがそれ以外は暇すぎて、私はパーラに相手をしてもらっていた。
「多少の物質は利用しますが、魔力消費量によって創造出来る量も変わってきます」
そう言ってパーラが手を地面に向けると、もりもりと土が盛り上がり、ドールハウスほどの大きさの家が出来上がった。突いてみると、材質は赤土からコンクリートのような硬さへと変わっている。
「すっご!」
「い、いいえ。人が住める大きさを作るには、半年ほど少しずつ魔力を込めないと駄目なので、あまり使いどころが無い能力なんですよね……」
目を丸くして驚く私に、パーラは照れたように謙遜した。いや、家を作れるのって普通に凄くないか?
「これ、都市部で商売したら儲かるんじゃない?」
「あ……それは、」
「駄目ですね」
コンコンと壁を叩き感心する私の問いに、いつの間にか一緒にいたアルベルが答えた。君、本当にパーラが好きだね。
「なんで駄目なの?」
しかし彼らを温かく見守ってニヤニヤしたいと決めているので心の中のツッコミは口には出さず、何でもない様に振る舞って回答の意味を聞く。
「この国では、仕事は生まれた土地や家柄によって選べるものが決まっています。この村だと農作業や林業、魔力がある者は魔法兵士か……魔力を売る者ですね」
「もし違う職業を選んだら?」
「暮らしていけないくらいの税率が課せられます。それが払えなければ罰則ですね」
「ちなみにどれくらい?」
好奇心から聞いてみたら、飛び上がるような税率だった。
かなり稼いでもほとんど持っていかれる。というかマイナスになるほどだ。
メリット無い……!
「何で才能をわざわざ潰すんだろうねぇ。得意な人がやれば生産性高そうなのに」
「……あなたは変わった考え方をするんですね。そしてとても恵まれている」
「アルベル」
単純に不思議に思って呟いた言葉に、アルベルの眉がピクリと動いた。そして零した皮肉にルカが反応し、パーラが静止をかける。
けれどアルベルは二人の様子を気にせず、言葉を続けた。
「表向きは国力を落とさないための対策ですよ。生産力や兵力を維持するには、それぞれの役割を強制してしまえばいい。この国はあまり他国との交流が盛んではありませんから、いざという時のために、全て自国で賄えるようにしているのです」
「…………」
「しかし実際は権力の優位性を維持し、確実に税を取り立てるためでしょう。……この世界では強い者が正義です。そこには富や才能も含まれる。……血統主義が揺るがないよう、突出した天才は要らないんですよ」
「……アルベル」
吐き捨てるように言う彼は、初対面の時の頼りない雰囲気とは程遠い。アルベルは数年前に村を出て、学園生活を王都で送ったと聞いた。王都にはさまざまな情報が溢れている。その時に村では知れない自国の政治や外国の話など、色々なことを知ったのだろう。
そしてこの国で平民として生きていく限界も。
アルベルは研究、パーラは家造りが得意だ。大々的に商売しているわけではないが、趣味で研究していたり倉庫を作ったりして村に貢献している。
そういうのは許されるのかと聞いたところ、趣味の範囲なら許されるとのことだった。
「うーん、こんな立派な物を作れるのにお金に出来ないんだねえ」
「……生まれは選べませんから」
アルベルに見せてもらった彼の作品を手の中で転がしながら、私は何とも言えない気持ちになった。
国籍を捨て、冒険者になるという選択肢はある。だがそれは国境を行き来することは自由になるが、住所は無くなるようなものだし、相応の義務や危険も伴う。
軽々しく、じゃあ冒険者になればなんて言えないし、たまたま魔法の才能に恵まれた私が言えることでもない。
「そっか」
それ以上の言葉は言えなかったし、言うべきではないと思ったから相槌に留めた。
アルベルは私からの言葉はもとより求めていなかったようで、それに頷くだけだった。
――しかし、職業選択の自由が無い国があるなんて。
……まるで奴隷だね、と思ってしまう。
「あ、えっと……でも、魔物除けの魔術具がある村に住めるだけで充分ですよ! ミサキ様も魔力を分けてくださって、ありがとうございました!」
しんみりしてしまった空気を払うように、パーラが明るい声で話題を変える。その気遣いに乗ることにした。
「ううん。早く魔物討伐出来れば良かったんだけど、待機になっちゃったから。そのお詫びだと思って」
「い、いいえ、とんでもない! あのレベルの魔物の群れに準備期間が必要なのは充分承知しています。元々お礼も満足に支払えない依頼だったのに、その上貴重な魔力まで恵んでいただいて……」
近くに魔物がいるという恐怖が続くのを申し訳なく思って謝罪すれば、パーラは戦々恐々とお礼を言う。
すごく良い子だなあと思うと同時に、なんだか罪悪感が湧き上がってくるが呑み込んだ。
ごめんパーラ。あの程度の魔力、全然負担じゃないんだけどそれは言えないんだ……。
「…………」
私の魔力量を知っているイクスから、何だか視線を感じるが無視をする。
私はあんたみたいに無敵じゃないからね。
イクスは私の秘密を漏らさないと約束をしている――というかそう助言をしたのは彼なのだが、その半目を止めろ。
「魔物の群れが来たぞーー!!!」
――カンカンカンカン
そして、村に警報とけたたましい金属音が響き渡った。




