2-10
「……っ! よくぞ来てくださいました!!」
「うわっ」
二人と別れた後、一度村長にも話を通そうということになり、パーラとアルベルに教えられた家を訪ねる。
そこで依頼受領書とギルドカードを見せると思い切り歓迎された。
「ほらあなた。冒険者様たちが困っているでしょう。落ち着いて」
「だって……! だってまさか受けてくれるなんて思わないじゃん! しかも星持ちだよ! 二人も!!」
「あ、それについては少しお話が……」
「わあああんっ!!」
「うわーお」
「…………」
パーラとアルベルの話を続けようとしたところ、村長が盛大に泣き出した。見た目はそこそこ落ち着いた雰囲気のおじいさんなのに。言動とテンションの落差が激しすぎて、どう反応していいか分からず固まる。
「気持ちは分かりますけどね、いつまでも泣いてちゃ話が進まないし失礼でしょう」
奥さんが呆れたように言った。
「遠路はるばるこんな辺鄙な村に来てくださったんですよ」
「……っ、ぐす。そうだね」
「あ、いえ、お気遣いなく」
目元をぐしぐし擦る村長を見ていると、なんだか憎めなくなってくる。
こんな状況なのに少しだけ笑ってしまった。
「ごめんね。ずっと魔物の脅威に怯えていたから、感極まっちゃった」
落ち着きを取り戻した村長が苦笑する。
「逃げようにも村を出た方が危険なんだ。でもいつ襲われるか分からない恐怖で……もう怖くて怖くて」
「なるほど。でも秘匿用の魔術具があるんですよね」
「うん。でも魔力が底をつきそうでさ。村人全員、そろそろ覚悟を決めなきゃいけないと思って……うっ」
「泣かないの」
再び涙ぐみ始めた村長を、奥さんが慰めた。軽い口調のせいで深刻さを感じにくかったが、よく見れば奥さんの肩も小さく震えている。
本当に追い詰められていたのだろう。
村や町を守る大型魔術具は、この世界では生命線だ。だが魔力が切れたらただの置物。その結界が消えれば、魔物は即座にこの村を見つけるだろう。
魔力持ちの数はまあまあいるが、戦闘が出来る程の魔法使いは多くない。いても大体が都市部に出てしまうため、地方ではどうしても魔術具に頼らざるを得ないのだ。
その命綱である魔術具も、魔力で動いているので定期的に補充する必要がある。そのためには魔石を狩るか購入するしかない。
聞けばこの村にはめったに魔石を売る商人は訪れず、溜めておいた備蓄も尽きたという。ならば魔石を狩ろうと思っても、今はSランクという太刀打ちできない魔物が闊歩しているため外へも出られない。
このままでは魔術具の魔力が尽きて魔物に襲われるか、食糧庫が尽きて倒れるか。
……きっと彼らは、じわじわと迫る死を待つことしかできなかったのだろう。
「任せてください」
私は彼らを安心させるよう、ニコリと笑顔を作った。
「魔物は私たちが必ず倒しますから」
不安を吹き飛ばすように、自信を持ってはっきりと言い切る。
「ああ……ありがとうございます……っ!」
「……っ」
村長はまた泣いた。今度は奥さんも静かに涙を流している。
「安心してください。魔物は私と、そこにいるイクスが倒しますから。ね!」
「……ああ。約束する」
「こう見えても彼、S級冒険者の中でも世界最強とまで言われる剣士ですから。もう大丈夫ですよ」
「おおっ! あなたがあの”無敗”のイクス様ですか!?」
「そーですよ」
「わああっ! 僕、ファンなんですよ! こんなところで会えるなんて感激だなあ!!」
「……こら、あなた」
さっきまでのしんみりした空気は一瞬で吹き飛んだ。村長がイクスの周りをぐるぐる回り始め、奥さんも窘めながらも笑っている。どうやら涙も引っ込んだらしい。
仲の良い夫婦だなと思ったところで、私はついルカへ視線を向けてしまった。
いや、別に。そこまで図々しいことは考えてないよ? でもちょっと夢を見るくらいいいじゃないか。
「あ、ルカはリッカと一緒に村で待っててね」
「!」
村長にぐるぐるされて少し困惑気味なイクスを放置し、そのまま私はルカに声を掛ける。
王都でも留守番は慣れているし、今回も問題ないと思ったのだが、私の予想とは裏腹にルカは反対した。
「……断る」
「え。……今回はS級の群れだから危ないよ?」
「私が同行して、それでミサキたちの危険は増えるか?」
真顔で聞き返される。いつもは私一人だから連れていけないけれど、イクスが一緒なら多分問題無いだろう。それくらい彼は強いのだ。まあ相性が良いのもあるのだけれど。
それに知らない村にルカ一人残していくのも心配だ。村長夫妻は良い人そうだけど、万が一を想定しておくのは悪いことではないだろう。
私は少し考えてからイクスへ視線を向けた。
「ねえイクス。ルカが一緒に行っても良い?」
「……問題ない。お前となら、誰にも負ける気がしない」
「……っ」
「そっか。それもそうだね」
一応同行者に保護対象が増えてもいいか確認を取る。こういう背中を預ける仲間とのすり合わせは大切だ。一人で何でも決めてはいけない。
イクスは何でもないように了承したので、私はルカに振り返る。
「じゃあルカ、来る?」
「…………ああ」
「…………」
「?」
口数の少ないイクスはいつも通りだが、ルカの様子が少し変だ。首を傾げて顔を覗き込むが、大丈夫だというように首を振られる。何だろうと思い見つめ続けるが、それ以上ルカは口を開くつもりは無いようだ。
まあ無理に聞き出すのは良くないし、もしかしたらお手洗い行きたいとか言いにくいことかもしれないし。本人が何でもないというなら何でもないのだろう。
「じゃあ村の魔術具に魔力を補充したら、出発しようか!」
意識を切り替えて、私達は森へ向かった。
もちろん、準備時間という名のトイレ休憩を取ってから。




