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「…………」
「…………」
「…………」
たとえS級冒険者と呼ばれていても、冒険者の階級は魔物と同じだ。
そしてSSランクなど、伝説の存在。
そんな相手を倒してほしいと言われて、はい分かりましたと気軽に頷けるほど、私たちも愚直ではない。
「……ミサキ」
「…………はぁ。イクスがいいなら私はオーケー」
イクスがこちらを窺うように視線を向ける。
普段は気の抜けた態度ばかり取っているが、実際は私よりずっと正義感が強い男だ。私がこの依頼を断っても、きっと一人で向かうだろう。
それに私自身、強敵との戦いに慣れておきたいと思っていた。目的にも合っているし、まあいいかと思って了承する。
だが、そんな私たちに静止をかける者がいた。
「危険だ!!」
「ルカ」
「正気か!? SSなんて伝説の領域だ! まずはグラッツィアのギルドへ報告しろ! これは個人の依頼で対応するレベルの話じゃない! この国に対応させるべきだ!!」
「まあ、その意見は正しいんだけどね~」
私は肩を竦める。
「とりあえずギルドと……この国に直接連絡するのはまずいから、アルカナに連絡しておこうか。イクス、連絡用の魔術具ある?」
「……ある。両方に伝えておく」
「ありがと」
「ミサキ!!」
残念ながら、この国の王とは面識がない。しかもこの国は悪政で有名だ。近隣にギルドも少なく、まともな援軍が期待できる状況ではなかった。
憤るルカに苦笑しながら、私はまだ地面に手をついている二人へ視線を向ける。どうやら必死に頼んでいた割りに、私たちが依頼を受けることが信じられないらしい。目を丸くしてこちらを見上げていた。
「君たちは何ができるの?」
何か言いたげなルカを手で制し、私は二人の前に片膝をつく。お礼を言おうとしていたパーラを制して、問い掛けた。
「え、あ……」
「何でも差し上げるって言ったよね?」
パーラの肩が跳ねる。
「冒険者ギルドへの虚偽申告は重罪だよ。場合によっては命に関わる」
ただでさえ報酬と依頼内容が釣り合っていない案件だ。しかも今回は、ギルドを通したトップ冒険者への直接依頼。ここに虚偽があれば、グラッツィアのギルドマスターの信用問題にも発展する。
「……っ、なら俺が!」
「アルベル。君からも当然もらうよ」
「っ……」
「でも今は彼女に聞いてる。黙ってて」
彼女を庇いアルベルが前に出たので一喝する。少し魔力を出して威圧すれば、アルベルは悔しそうに唇を噛んだ。
イクスなら無償で引き受けるかもしれないが、私は違う。
誰かに命を懸けろと言うのなら、自分も相当の何かを差し出すべきだと思っているからだ。
「わ、私……私は、何も持っていません」
震える声。地面に蹲る姿は小さくて何かを思わないでもないが、私は沈黙を貫く。
「お金も、力も、魔力も……何もありません」
自分の言葉に、パーラは悔しそうに顔を歪めた。しかしその表情もすぐに消え、静かに続きを口にする。
「だから……、私の全てを差し上げます」
「パーラッ!!」
「全て?」
「……はい」
必死に止めようとするアルベルと違って私は首を傾げる。全てって何だ。
そんな私に、パーラはただ真っ直ぐと見上げた。
「私は……差し上げられる物があれば何でも差し上げると言いました」
彼女が一度目を閉じ、そして一拍置いてから覚悟を決めたように瞼を開く。
「私自身を献上します」
静かな声だった。その横でアルベルがパーラの手を引っ張るが、彼女はそれを無視して言葉を続ける。
「奴隷にするのも、召使いにするのも、商品として売るのも……好きにしてください」
真っ直ぐな瞳。その視線はただの村娘にしておくには惜しいほどの強さが宿っていた。
数秒間、私たちは無言で見つめ合う。そして先に口を開いたのは私だった。
「パーラって魔法自体は使えるの?」
「……え?」
人生を賭けた決意の直後とは思えない問い掛けに、今度はパーラが固まる。
「え、ええ、はい。魔力量が少ないので攻撃魔法ではありませんが……」
「どんな魔法?」
「え、え、え、えと、建物を作る創造系です……?」
「すごいじゃん!」
思わず身を乗り出した。一方パーラは完全に話の流れを見失い、元の雰囲気に戻り困惑している。
「実際どんな感じ?」
「あ、あちらの倉庫は私が作りました」
「おおー」
「雨風にも強いので、何年も持つんですよ。私の魔力量が少ないのであまり大きな物は造れませんが……」
指差された先には長方形の倉庫。素朴な造りだが、思った以上にしっかりしている。
「もし魔力に制限なければどのくらいの物が作れるの?」
「試したことはありませんが……おそらく住居くらいなら建てられると思います」
「凄いね。他に作れるものはある?」
「いえ。残念ながら建築専用の魔法みたいです。大量の魔力が必要なので長期間溜める必要があって、頻繁には使えないんですけどね」
えへへと照れ笑いする彼女に、私は素直に感嘆していた。
森に囲まれた人口の少ないこの村では出番が少ないかもしれないが、その能力は間違いなく貴重だ。魔法の属性は色々あるけれど、建築は聞いたことが無い。
「じゃあ、それを私に使ってよ」
「……え?」
「いつか私が家を建てる時、パーラに作ってほしいな」
彼女がぽかんと口を開く。
「まだどこに住むかも決めてないけど、将来家を建てたいなと思っていてね。勿論魔力供給は私がするから」
「え……」
「んで、君は?」
私は次にアルベルへ視線を向けた。
「何ができるの?」
「お、俺は発明が得意……です」
パーラの凄い能力が発覚したところで、次はアルベルだ。イクスもいるし、パーラからだけでなく君からも貰うぞ。
「発明!? 凄いね、何を作ってるの?」
「え、えっと、魔力を原動力にした道具の開発を……」
「もしかして魔法製品みたいなやつ!?」
「あ、はい、似たようなものです」
「うわぁ、凄い」
パーラ同様目を白黒させているアルベルだったが、律儀にも私の質問に応えていく。
話を聞けば、最近まで専門の学校に通っていたらしい。成績も優秀で、卒業後は就職先に困るどころか選び放題だったとか。それでも故郷をより住みやすい村にしたいと考え、地元へ戻ってきたのだという。
ははーん。故郷のため、というのも本心なんだろうけど……一番の理由はパーラだな? 一瞬チラリと彼女を熱い視線で見つめたのを私は見逃しませんでしたよ。
「イクス! 私はパーラから報酬もらうから、イクスはアルベルに何か作ってもらったら?」
「……考えておく」
「ふふ」
後ろで連絡を終えたイクスが寄ってきたので声を掛ければ小さく頷く。
でもたぶん彼は断るだろな。食べ物と魔力以外にほとんど興味がないから。
「え、えと……」
「あの、それって……」
二人がおずおずと口を開く。
「うん。仕事は一つずつ頼むけど、身柄までは要らないよ」
笑って答えれば、二人の肩から力が抜けた。へなへなと座り込む姿に、私は苦笑する。
「ごめんね。ちょっと意地悪しちゃった」
一度許すと、困ってもいない人まで真似をする。だからあとで報告するためにこのやり取りは必要だった。
でも本気で覚悟を決めていた二人には、少し悪いことをしたかもしれない。へなへなと力が抜けた二人にごめんと一応謝っておいた。




