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私の奴隷はとても可愛い。〜XXXXX〜  作者: せろり
忍び寄る影 〜心に灯る嫉妬〜

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2-8


「パーラ!!」

「アルベル!」


 混乱して頭を抱えていた彼女がようやく落ち着きかけたところで、今度は少し高めの男性の声が響いた。視線を向けると、エプロンに眼鏡姿の青年が慌てて駆け寄ってくる。


「パーラ! 勝手に外に出ちゃ駄目だろう!」

「ひぇっ、ごめんなさい!」


 耳を塞いで縮こまる彼女を、青年は叱りつけながらも、その顔にははっきりと安堵と心配が浮かんでいる。


(これは……ほうほう)


 思わず口元が緩む。パーラの気持ちはまだ分からないが、アルベルの方はどう見ても分かりやすい。



「貴方たちは?」


 一通り説教が終わると、青年は警戒の眼差しをこちらに向けてきた。

 答えようとした瞬間、パーラが慌てて口を挟む。


「ちょっと! 失礼なこと言わないで! この方たちは魔物を倒しに来てくれたのよ!」

「まさか。いや……いえ、すみません。あの条件で本当に依頼を受けてくれる冒険者がいるとは思わなくて」

「いえいえ。知らない人が村にいたら警戒しますよね。仕方ないです」


 すこしぎこちないアルベルを生暖かい目で見る。

 可愛い同年代の彼女が心配だもんねえ?


「冒険者様?」

「ううん、何でもないよ」

「……なんだか碌でもないこと考えてそうな気が」

「気のせいだよ」


 意味深に二人を見比べると、パーラは首を傾げ、アルベルは微妙に引いた顔をする。


(お姉さんは若者の恋路に茶々を入れないタイプなので安心してほしい。面白……優しく見守るだけだから)


 さて、と気持ちを切り替える。


「討伐に行く前に、魔物の情報をもう一度教えてもらえる?」


 依頼書には最低限の内容しか記されていなかった。しかも提出から日数が経っている。最新情報は欲しい。


「はい。直接対峙したわけではありませんが、遠目で確認した数は五体です」

「……Sランク五体は多いな」


 イクスが眉を寄せる。

 パーラが不安そうに口を開いた。


「……実は、一体だけランクが分からなかった個体がいるんです」

「あれ? 依頼書にはSランクの群れって書いてあったよ?」

「Sランクが数体いるのは確認できました。でも、一体だけ……群れのリーダーと思われる個体が図鑑にも載っていない種類で、判別できなくて」

「あれ? それギルマス言ってたっけ?」

「……言ってない」

「……なるほどねぇ」


 わざと伏せられた情報だろう。思わず目を細める。


「すみません!!」


 突然、パーラが勢いよく頭を下げた。


「ただでさえSランクが数体いる状況で……! しかもこの村ではまともな褒章も用意できません!村長は正しい情報を書きました! 書き換えたのは私です!」

「……なんでそんなことを?」

「この村の送信機はアルベルが持っています。でもその場にいた私が、この内容では誰も来てくれないと言って……」

「だから送る前に書き換えたの?」

「……はい」

「っ、パーラは提案しただけで、実際に書き換えたのは俺です!」

「アルベルッ」


 二人の言い分は分かる。

 だが依頼書の偽装は、ギルドとの信頼を損なう重大な行為だ。


 信頼を失えば、次から冒険者は来ない。

 この世界でそれは、死刑宣告に等しい。


 国や村の防衛力が強ければ問題無いかもしれないが、魔物が闊歩するこの世界で魔物討伐に強い冒険者ギルドを敵に回すのは得策ではない。


「恐らく、Sランクを従えている魔物は……、きっとさらに強いでしょう」

「そうだろうね」


 この世界で公に確認されている魔物の最高ランクはS。

 だが、記録上だけ存在するさらに上の区分がある。


――SS、そしてSSS。


 SSは伝説級。

 かつて人類を滅亡寸前まで追い詰めた存在と言われる魔物を指す。


 SSSは魔王。

 人が倒せない絶対的存在だ。


 この二つの存在は、本当かどうかも分からない史実上のものであり、現代に実在しない。

 もし本当にSSなら――数百年ぶりの厄災再来ということになる。


「……SSランクなんて本当に存在するの? イクス、見た事ある?」

「…………ない」


 予測でしかない。

 だが、もしそうなら事態は深刻だ。


「ご、ごめんなさい!!」


 パーラの声が震える。


「もう村で何人も犠牲が出ています……! 村にいれば隠匿の魔道具で見つかりません。でも、生きるためには外に出なきゃいけない! 村の魔力備蓄も、いつか尽きます!」


 スカートを握る手が震えている。

 ぽたり、と涙が落ちた。


「国には連絡しました……! でも、特産も人口もない小さな村に軍を派遣するメリットはないって……!」

「パーラ……」


 小さい彼女の肩をアルベルが支える。


「王都から遠くても、税は納めてきました。疫病の年も、飢饉の年も……下がらない税をみんなで工面して……!」


 大人しそうな彼女が似合わぬ仕草で、ガリッと唇を噛み締める。

 悔しさを呑み込むように。そしてどうにもならない現実を噛み砕くように。


「……っ、そうしないとこの世界では生きていけないから!!」



 この世界は、常に魔物の脅威に晒されている。それらから身を守る為には己の力か魔術具に頼る他ない。だから強者が求められるのだ。力なき者は国に税を払い、国民として最低限の保護装置のある村や町に身を寄せ合って暮らし、身の安全を手に入れる必要がある。


「この村には、あの魔物に対抗できる強者も、みんなで安全に移動する手段もありません……!」


 この世界に未開の地が多いのは、魔物がいるからだ。

 領土を守るには金と魔力が要る。魔物を殲滅する技術は存在せず、侵された土地を抱えれば、むしろ維持費がかさむ。

 新しい土地を開くには、そこに巣食う魔物をすべて討伐しなければならない。さらに、人と土地を守るための魔術具を設置する必要がある。

 人も、魔力も、そして金も。


 ――この村は、天秤にかけられた。



「騙したことは分かっています……! でも、これしか方法がなかったんです……! 罰なら受けます。あげられる物があれば何でも差し上げます!」

「パーラ……」

「どうか……どうかこの村を救ってください……!!」


 少女は地面に額を押しつける。

 アルベルも何かを言おうとしたが言葉は呑み込み、その隣で静かに頭を下げた。






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