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第十四話

「セイ……っ!」


 肩を揺さぶられる感覚に意識が浮上する。聖がゆっくりと目を開けると、目の前には見慣れてきた美形の顔。


「オーウェン……」


 オーウェンは聖が目を覚ましたことにほっとした様子を見せ、深く息を吐きだした。ハンカチで頬を拭ってくれる。どうやら泣いていたらしい。


「ここ、は……森の中?」


 聖は先ほどまでと同じように森の中にいるようだ。長い夢を見ていたはずなのに、木々の隙間から差し込む光の位置があまり変わっていないから、おそらく一時間も経っていないだろう。


「あぁ。さきほど魔力切れを起こして眠ったのは覚えてるか? うなされていたから起こしたんだが。怖い夢でも?」


 案じるような顔をしているのはオーウェンだけではなかった。エンベルトや、ディーナ、カミラも心配そうに顔を覗き込んでくる。


「夢……うん、怖い……夢だった」


「どんな夢だったんだ?」


「どんな……」


 家族を失ったのだと現実を突きつけられる夢だ。それでも、あの夢がなければ、陽一に会うことすら叶わない。


「陽ちゃんが……」


「陽ちゃん? あぁ、恋人か。元の世界の夢を見ていたんだな」


「やっぱり、夢……なんだよね」


 聖の現実だったあちらが夢で、こちらが現実なのだ。その事実を何度となく突きつけられ、夢を見る度に心が折れそうになる。


 聖が身体を震わせると、オーウェンの逞しい腕に抱き締められる。胸元に顔が埋まり、汗と体臭の匂いに包まれる。


「夢……かぁ……っ」


 ひくっと喉が引き攣るような音を立てた。


 陽一以外の男性に抱き締められるなんて、絶対にいやだと思っていたのに、夢のせいで気持ちがぐちゃぐちゃで拒絶すらできなかった。


「……すまない……セイ」


 オーウェンは何度も、謝罪の言葉を繰り返しながら聖の身体を強く抱き締めた。宥めるように背中をとんとんと叩かれ、聖はしばらくの間、泣き続けたのだった。





 いつの間にかまた眠っていたのか、聖が目を覚ますと知らない天井が目に入った。室内には護衛であるカミラがおり、聖を見てほっとしたような笑みを浮かべた。


「セイ様……体調はいかがですか?」


「大丈夫。ここは?」


「領主館に戻ってきました」


「え、誰が私のこと運んでくれたの?」


 馬を繋いだところまで数キロはあったはずだ。この身体は痩せているしかなり軽いだろうが、それでもあの道なき道を人を背負って運ぶのは簡単ではない。


「もちろん、オーウェン殿下がセイ様を背負って歩いたのですよ」


 カミラはうっとりと目を細めてそう言うと、オーウェンを呼びに行くと言って部屋を出ていった。


 しばらくしてオーウェンが部屋にやって来ると、額に手を押し当てられた。


「少し熱があるな。慣れないことばかりで、疲れが溜まったんだろう」


 頭が少しぼんやりするとは思っていたが熱があったのか。


「ごめん、私を運んでくれたって聞いた。重くなかった?」


「羽根のように軽かったな。もっとしっかり食べろ」


 オーウェンは気にするなと言って、聖の頭を軽く叩いた。起きようとする聖を押し止めて、頬に触れてくる。


「今日はここに泊まっていくから、もう少し休んでいていい」


「そうなの? 転移陣に乗るだけでしょ?」


「王城よりも、聖にとっては気楽だろう?」


 オーウェンがそう言うのは、聖が王城内を歩く度に近づいてくる貴族がいるからだろう。


 どの領地も都市部以外は広大な森が広がっており、その中に町や村、宿場町がぽつぽつとある。どこも魔獣の問題は少なからず抱えている。


 戦える兵士がいるそこそこ大きな町はいいが、農民の多い村は魔獣に作物を食い荒らされるため死活問題だ。だが、当然そのすべてに聖女が派遣されるわけではない。


 聖女が赴くのは第五騎士団の調査によって瘴気の吹き溜まりがある可能性が高いところのみだ。彼らが聖に謙った態度を取るのは、なにかあった場合、自領を優先してもらいたいからだろう。王都は大きいし堅牢な壁に守られている。魔獣の被害を実感しにくいのかもしれない。


 ここの領主を初めとした街の人たちは、心の底から自分を歓迎してくれていたが。


「ありがとう」


「こちらが礼を言うべきだ。セイが瘴気を祓ってくれたおかげで、亡くなった者を弔ってやれる。生き残った者も集落の復興に尽力できるだろう。だから今はゆっくり休め」


 自分がそれほど大したことをしたとは思えない。戦ったのは彼らだ。


 けれど、オーウェンが心の底から聖を労ってくれているのが伝わってくると、荒んでいた気持ちがほんの少し落ち着いていく。


 自分の肩にのしかかっているものの重さに気づき逃げだしたくなる。けれど、自分が逃げだせば、近くの町や村で生きる人たちの道が途絶えてしまう。また何人もの人が犠牲になったら、そう考えると他人の命を預かる重圧に押しつぶされそうだ。


 それでも。


 もちろん恐怖はあるが、約束をした以上やれるだけのことはやる。


「私……頑張るから。あんな風に亡くなる人を少しでも減らすために、望まれればどこにでも行くよ。そうじゃないと帰るときに後味が悪いもん」


 聖が言うと、オーウェンは苦しそうに、それでいて眩しそうな目でこちらを見た。


「同意も得ずにセイを呼んだのは俺たち王族だ。もともとこの国の人間じゃないセイからしたら、助ける義理もないだろう。それなのに……そう、言ってくれるのか」


 オーウェンの大きな手のひらが頭にのせられ、まるで子どもにするように優しく髪を撫でられた。


 この国に来てから、ずっとそばにいてくれるからだろうか。オーウェンのそばにいると、本音で話せる。不安もなにもかもを包んでくれるような器量を感じるからだろうか。


「カッコつけたけど、どうして私がこんなことしなきゃならないのって思う気持ちはあるよ。ごめん」


 聖はため息交じりに口を開いた。


 どれだけ上質な服や豪華な食事を与えられても、仕方なくという感情は消せない。


 元の世界で家族や友人が困っていたらもちろん助けるけれど、国を救うだなんて聖には荷が勝ちすぎる話だ。


 それに助けたいと思えるほど、この国の人たちに情は移っていない。一番近くで自分を守り、聖を元の世界に帰すために尽力すると約束をしてくれたオーウェンには感謝をしているが、同時に彼ら王族のせいでという恨みもあった。

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