新たな生活の始まり 3
「緊急会議を行います。」
深みのある木で装飾された重厚な壁や天井で囲まれた、かなり広めの部屋に楕円形を半分にしたような大きな会議用の机が置かれ、そこの一番細端った先に、女王であるセルマリアーヌが座り、そこから左右に別れるように幾人かの人物が同じように机に向かって座っていた。
その内に右側で女王に一番近い位置に座る、長い顎髭を蓄えた、老齢な男性がその場で立ち上げり一礼する。
「女王陛下、まずはご無事なご帰還お疲れ様でした。」
深々と頭を下げるのは、ゴルディア・レーベンといい、エルデ神聖魔導高等学院の学院長を務める、王国の中でも古株の重鎮で、唯一女王と喧嘩出来る間柄である。
「あら、何時も愚痴ばっかり言ってるジイにしては、愁傷な事ですね。」
「ほう、相当ご機嫌が悪いようですな。それはこの緊急会議に関係があるのですかな?」
あくまでも物静かに受け答えるレーベン学院長に、顔を歪める女王。
実は、女王もこのレーベン学院長の教え子で、政治に経済、帝王学に王制学、道徳学に歴史学とあらゆる知識を叩き込まれた先生であり師匠でもあり、私的な事まで全て知る中で、女王陛下にとって何でも言える相手なので親愛を込めてジイと読んでいた。
逆に何でも言える相手なので、つい口調が刺々しくもなっているようだ。
「ふん、相変わらず頭が回ることですね。まあ機嫌が悪いというよりは心配事が竜巻のように襲って来たので焦っていると言った方が正解でしょうか?」
女王の顔が確かに、読みにくいとレーベン学院長は感じていた。
「さて、エルデパルディア王国の王女ともあろう人が、竜巻程度で心乱されては民衆が余計に怯えますぞ。」
「ふ、その竜巻が地上界だけに及ぶものならこの様に焦りはしないよ。この竜巻、天界と魔界にも繋がっていると言ったらジイはなんとする?」
「?!?」
女王の言葉に、レーベン学院長は直ぐに反応する。
しかしここに集まった、学院の各学部長を務める教師には今ひとつ理解が及んでないようだ。
「皆には良く聞いていてほしい。今年度、エルデ神聖魔導高等学院の新学期が来週から始まり、新入生も500人にも及ぶ生徒が新たな学院生活を始める事となる。その準備にいつもの事ながら尽力してもらいまずは感謝する。」
女王は会議に着く面々を一通り見渡し一拍置く。
「そして今年度は、新入生に我が娘、ルレリアーヌもおる。王家の者だからと言って、手を抜かず厳しく育てて欲しいと思う。で本当はこれで私からは終わるはずだったのだが、もう二人王家からの推薦で急遽編入試験を受けさせる事を伝えねばならなくなった。」
会議に参加する教師達が流石に騒ぎ出す。
「女王陛下、発言をお許し願いますでしょうか?」
すーと立ち上がる一人の女性教師。
「問題無いぞ、クロディア先生。意見を述べてくれ。」
「はい、では。まず王家の推薦とは特別推薦の枠を利用する事で宜しいのでしょうか?」
「そうね。今まで王家の者ですら全て断っているけど、今回が始めて使用する事になるわね。」
特別推薦枠とは、王家が認めて者を、試験免除での入学許可を与えたり、途中入学により定員を超えても認めるもので、長い歴史のある学院でも始めて使用する制度であった。
「天界、魔界でそれだけ重鎮の御方の子供という事なのでしょうか?」
(まあ、重鎮といえば重鎮か間違ってはないが、その子本人とは思いもつかないでしょうね。)
「そうね、重鎮といえばそうなるわね。ただあくまえも編入試験を合格せねば認めぬと言ってはあります。」
「でしたら何の問題も無いのではないですか? いくら天界魔界の方といっても我がエルデ神聖魔導高等学院の編入試験を簡単に合格出来るとは思えませんから編入は無かった事と思っても宜しいのでわ?」
半分はそうあってほしいと思ってしまう女王陛下。
(だけど、無理でしょうねえ。)
「ちなみに、去年の編入用試験問題だが、一般公開され次年度へ向けての参考資料としている塾生がいるようだが、その子らもその試験を受けたそうだ。」
女王の言葉を聞いた、その教師はなぜか生唾を飲み込んだ。
「二人とも満点だったそうだ。」
それを聞いた教師達が色めき立ち始める。
やれ逸材だの、天才だのと持て囃す者もいれば、試験内容を難しくして編入阻止に動く者、様々な言葉が交わされていた。
そんな教師を尻目に、学院長が立ち上がりセルマリアーヌの耳元で呟いた。
「まさか、その御子等とは、」
「そう、そのまさかがやって来るのよ。一応ルレリアーヌがホスト約をするから、問題無いと思うけど、正体を知られないようにジイ頼んだわよ。」
その言葉を受けた学院長は、この歳になって胃薬が必要になるとは思ってもいなかったと愚痴をこぼす。
読んでいただき有り難うございます。




