風のように彼は去る
「いない!ですか。父上」
次の日。コノハは眠気が飛ぶほど驚いた。
「ああ。彼がいなくなってしまったのだよ」
コノハの父上も残念そうに声を落としている。
どこへ行ってしまわれたのですか。ハクウ様。
一夜の悲劇から自分達家族を救った一人の旅人。
彼はあの後、コノハ達の厚意で屋敷に泊まった。
しかし。彼は今日の朝には布団などをきれいに畳んでいなくなっていた。
「コノハ」
「はい」
「あの者は一体何者なのかね」
父上が私にそんな言葉を投げかけてきた。
「目が見えず、耳も聞こえず、喋ることもできない。それなのに、昨夜の私達に対する礼儀は、とても型になっていた」
そうです。ハクウ様は私でも驚くほど礼儀のあった対応を父上、母上に見せていました。
まるで、元々知っていたかのような立ち振る舞いでした。
「それで、カガワ達を斬ったあの腕も凄まじいものであった」
父上は興奮して昨夜のハクウ様が見せた剣劇を語る。
「技量、そして、礼儀。不自由な部分が霞んでしまう。あの者ならお前の婿になってもらってもいいのう」
「!」
父上がボソリと呟かれた一言に私は慌てた。
心臓の鼓動が早くなる。そして、頬が風呂に入った後のように火照って熱い。
「何を仰るんですか!?父上!」
「何じゃ。お前もまんざらではないじゃろう」
珍しく父上が意地悪な笑みを私に向けてきた。
私は反論できなかった。
この時私の心に火が付いたと表現できる感覚が走った。そして、悪くないかも。と本気で思っていた。
「今度会った時は、逃がすでないぞ」
その様子を見ていたコノハの父はそう言った。
(さて、娘の幸せの下準備をするかの)
監禁されて、最初に始めることが娘の将来の外堀を埋めることに苦笑を漏らすのだった。




