馬車の中で
馬車が街を出て数十分が過ぎた。
馬車の中では、皆、寝ていて静かであった。
『皆寝ているのか。まあ、しょうがないもんな。あんな後なんだから』
ハクウは、声にならない声を呟いた。
今、ここに乗っている乗客は全員、ダート達に襲われた者がほとんどで肉体的、精神的に緊張が続いていた。そして、その事件が解決して緊張が解け、疲労が出始め今に至ったのである。
『ま、僕にとっては、うるさいも静かも関係ないんだけど』
皮肉まじりに言う。
そして、ハクウは自分も寝ようとした。
誰かの手首を掴んだ。
「!」
掴んだ手首を伝って相手が驚いたのを感じた。
そして、すぐにその手首を離した。
「ご、ごめんなさいっ。突然に」
少女は、謝罪の言葉を述べる。しかし、他の客を起こさないためなのか声は小さめだ。
ハクウは、聞こえてはいなかったが相手が謝罪しているのだと気を感じ、分かった。
「あの。耳が聞こえないのを重々承知しています。勝手ですが、私の話を聞いては、頂けませんでしょうか」
『随分と、礼儀がいいな。盗賊襲撃の時とは雰囲気が違う。それに…』
ハクウは、少女がいるであろう場所。その少女の背後の方を見た。
『ここに乗ってから感じていた。気配、ただ者じゃないな。やっぱり……』
ハクウは、ダート達の件の後から微かではあったが自分を見ている気を感じていた。
ハクウは、ここまでの旅で、この〝気〟を頼りにしてきた。そのため、気に関しては敏感になっていた。
ハクウは、少女の背後を見えない目で仰視した。
すると。
「やれやれ、やられました。」
観念したのか一人の男が現れた。
気が大きくなるのを感じる。
「リカイ。あなた」
少女は、彼が現れた事に驚いた。
「無理ですよ。彼は、私の事は当に気づいていました」
そう言って少女を諭す。
「分かったわ。それに彼には隠し事は無理そうよね」
少女は、あきらめたようにため息をついた。
「改めまして、名乗らせて頂きます。私は、東国、和の姫、紅葉と申します」
少女は、そう言って静かに、美しく、頭を下げるのだった。




