↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んだおっさん、天使になる。~天界のお仕事、思ってたのと違います~  作者: 月欠けラムネ
第1章 新人天使フンノシエル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/31

第5話 天使の羽

 

「では、飛行について説明します」


 ララエルが言った。


 俺とゴゴゴ・ザ・シャインは並んで立っている。


 背中には白い羽。


 名前の件では散々だった。


 今度こそ、まともに天使らしい話を聞きたい。


「まず確認しますね。お二人とも、羽を動かせますか?」


「動かせますよ」


 俺は羽を広げた。


 ばさっ。


 隣でもゴゴゴ・ザ・シャインが羽を広げる。


 ばさっ。


 俺より少し綺麗に開いた。


 なんとなく腹が立つ。


「では、少し羽ばたいてみてください」


「はい」


 二人で羽を動かす。


 ばさっ。


 ばさっ。


 ばさばさばさ。


 風が起きる。


 ララエルの髪が揺れた。


 だが。


 俺たちは地面に立ったままだった。


「……」


「……」


 ゴゴゴ・ザ・シャインが聞いた。


「これ、どのくらいやれば浮くんです?」


「浮きませんよ」


「え?」


 ララエルは平然としていた。


「少なくとも、お二人の体重では難しいです」


 俺は思わず羽ばたくのをやめた。


「ちょっと待ってください」


「はい」


「天使ですよね、俺たち」


「はい」


「羽ですよね、これ」


「そうです」


「なのに飛べない?」


「基本的には」


 ゴゴゴ・ザ・シャインが自分の羽を見る。


「じゃあ何なんですか、これ」


「羽です」


「それは見れば分かります」


 その時。


 頭上を何かが横切った。


 小さな男の子だった。


 白い羽をぱたぱた動かしながら、空中を自由自在に飛び回っている。


 俺たちの頭上で一回転すると、そのまま高く飛んでいった。


 俺は指差した。


「飛んでるじゃないですか!」


「飛んでますね」


「羽で!」


「軽いですから」


 またそれか。


 ララエルが説明を続ける。


「天使の羽は、基本的に体格によってそこまで大きさが変わりません」


「大人も子供も?」


「多少は違いますけど、大きな差はありません」


 俺はさっきの子供が飛んでいった方向を見る。


「じゃあ子供は、同じくらいの羽で体だけ軽いから飛べる?」


「そういうことです」


「ずるいな……」


 ゴゴゴ・ザ・シャインが聞く。


「大人でも痩せていれば?」


「飛べる方はいますよ」


「どのくらい?」


「体重三十キロ台くらいなら、訓練次第である程度は」


 俺とゴゴゴ・ザ・シャインは、自分の腹を見た。


 そして互いを見る。


「……」


「……」


 無理だ。


「もっと痩せればいいんですよね?」


 俺が聞く。


「そうですね」


「手っ取り早い方法あります?」


「食べないことですね」


「死ぬでしょ」


「もう死んでます」


「そうだった」


 ゴゴゴ・ザ・シャインが言う。


「でも食べなかったら動けなくなりません?」


「なりますよ」


「駄目じゃないですか」


 ララエルは少し考える。


「車で言えば、燃料切れみたいなものですね」


「飛ぶために痩せて、動けなくなるんですか?」


「極端にやれば」


「意味ないでしょう」


 俺は頭を掻こうとした。


 髪がないので、ただ頭を撫でただけになった。


 ララエルがそれを見て言う。


「あ。でもフンノシエルさんは少し有利ですよ」


「何が?」


「頭部が軽量化されています」


「ハゲのこと?」


「はい」


 即答された。


「そこ評価しなくていいですよ」


「天界ではむしろ推奨されますよ」


「ハゲが?」


「軽くなりますから」


「何グラムの話してるんですか」


「飛行では数グラムでも大事です」


 ララエルは俺の頭を見た。


「生前からかなり意識されていたんですね」


「何を?」


「軽量化を」


「違いますよ」


「わざわざ剃っていたんでしょう?」


「それは……」


 俺は少し黙った。


「……まあ、剃ってましたけど」


 ララエルが感心したようにうなずく。


「やる気が感じられます」


「天使になるためじゃねえよ」


 横でゴゴゴ・ザ・シャインが笑っている。


「何笑ってるんですか」


「いや、軽量化を先取りしていたんだなと思って」


「お前もそのうち薄くなれ」


「私は大丈夫です」


 妙に自信満々だった。


 髪もふさふさしている。


 腹が立つ。


 俺は話を戻した。


「じゃあ結局、俺たちはこの羽では飛べないってことですよね」


「羽だけでは、ですね」


「じゃあこれ、何のためにあるんです?」


 ララエルが少し考える。


「一応、姿勢を整えたり、風を受けたりするのには使えます」


「一応?」


「あと、天使らしく見えます」


「そっちが本命じゃないですよね?」


 ララエルは俺を見る。


「羽がなかったら、フンノシエルさんはどう見えると思います?」


「どうって……」


 俺は想像した。


 白い服。


 ハゲた中年男。


 空中に浮いている。


「……」


「分かりました?」


「分かりました」


「人間から見て、羽は重要なんです」


 ゴゴゴ・ザ・シャインが言う。


「つまり、身分証みたいなものですか」


「近いですね」


 俺は自分の羽を一枚つまんだ。


「じゃあ飛行能力より、見た目の方が重要なんだ」


「地上任務では特に」


 納得したくない。


 でも、ちょっと納得できる。


 俺は羽をばたばた動かした。


 風が顔に当たる。


「……これ、飛べないなら本当に意味ないですね」


 ララエルが言った。


「でも涼しくないですか?」


「は?」


 もう一度羽ばたく。


 ばさばさ。


 確かに少し涼しい。


「……」


「夏場は便利ですよ」


「俺が疲れて俺が涼しくなってるだけじゃないですか」


「うちわを持たなくて済みます」


「羽の用途がうちわ!?」


 ゴゴゴ・ザ・シャインまで羽ばたいてみる。


「……確かに涼しいですね」


「納得するな!」


 ララエルが笑った。


「もちろん、羽以外にも飛ぶ方法はありますよ」


 俺たちは同時に止まった。


「あるんですか?」


「あります」


「それを先に言ってくださいよ!」


「今から説明するところです」


 ララエルは人差し指を一本立てた。


「羽で飛べない天使が使う、もっと一般的な方法があります」


 俺とゴゴゴ・ザ・シャインは顔を見合わせた。


 ようやく来た。


 俺たちでも飛べる方法。


「それは?」


 ララエルは笑顔で答えた。


「浮遊術です」


 俺は少し安心した。


 今度こそ。


 今度こそ、まともに空を飛べるはずだ。


 ――たぶん



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。