↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んだおっさん、天使になる。~天界のお仕事、思ってたのと違います~  作者: 月欠けラムネ
第1章 新人天使フンノシエル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/32

第2話 新しい名前

 

 俺と無精髭の男は、それぞれダーツを一本ずつ持って受付の前に立った。


 改めて見ると、的はかなり遠い。


「……あそこまで届くんですか?」


 俺が聞くと、受付の天使は平然とうなずいた。


「大丈夫ですよ。この矢は必ず的まで届きますから」


「必ず?」


「はい。それに、自分で名前を狙う必要もありません」


 無精髭の男が首を傾げた。


「どういうことです?」


「投げれば、その方にふさわしい名前へ自動的に向かいます」


「勝手に?」


「勝手にです」


 俺たちは顔を見合わせた。


 それなら安心だ。


「変な名前に当たったりしません?」


 一応聞いてみる。


「よほどのことがない限りは」


「よほど?」


「大丈夫ですよ」


 受付は笑った。


「新人案内の方から、妙な名前をいくつか聞かされたかもしれませんが、あれは半分冗談ですから」


「よかった……」


 隣の男も、ほっと息を吐いた。


 さっきの女性はイラニアだった。


 俺たちも、あれくらい普通の名前になるだろう。


「では、後にも何人か待っていますので、お二人一緒にどうぞ」


「一緒に?」


「的は三つありますから」


 俺は左。


 無精髭の男は右。


 それぞれ別の的の前に立つ。


「じゃあ」


「はい」


「せーの」


 同時に投げた。


 二本のダーツが飛んでいく。


 俺の矢は左へ。


 男の矢は右へ。


 そのはずだった。


 途中で、俺の矢が右へ曲がった。


 男の矢が左へ曲がった。


「……え?」


「どうして?」


 二本とも、真ん中の的へ向かっていく。


 そして。


 ストン。


 ほとんど同じ場所に刺さった。


「同じ?」


 俺たちは的へ近づいた。


 見ると、二本の矢は一本の細い線を挟むように並んで刺さっている。


 その線の左右に、それぞれ名前が書かれていた。


 左。


『ゴゴゴ・ザ・シャイン』


 右。


『フンノシエル』


「……」


「……」


 俺たちは黙った。


 受付の天使もやってくる。


「あら」


「あらじゃないですよ」


 俺は二つの名前を指差した。


「これ、どっちになるんです?」


 受付が矢の位置を確認する。


「ちょうど境界ですね」


「じゃあ投げ直し?」


「できません」


「できないんだ」


「この場合は、お二人で話し合って決めてください」


「話し合い?」


 俺はもう一度、二つの名前を見る。


 ゴゴゴ・ザ・シャイン。


 フンノシエル。


 どちらもイラニアとは方向性がだいぶ違う。


「このフンノシエルって、どういう名前なんです?」


「ああ。それはかなり珍しいですよ」


「珍しい?」


「シエルが付く名前は、ほとんど出ませんから」


 受付の声が少しだけ変わった。


「普通の天使名とは扱いが違う、特別な名前です」


「特別?」


「詳しいことは、職業を決める際に担当から説明を受けてください」


「ここでは教えてくれないんですか?」


「管轄が違いますので」


 天国にも管轄があるらしい。


「じゃあ、いい名前なんですか?」


「格としては、とてもいい名前ですよ」


「格としては?」


 嫌な言い方だった。


「意味は?」


 受付が少し考える。


「簡単に言うと、汚物の御使いですね」


「いらねえよ!」


 思わず叫んだ。


「でも、とても珍しいですよ?」


「珍しければ何でもいいわけじゃない!」


 無精髭の男も顔をしかめている。


「それは……人前で名乗るんですよね?」


「もちろんです」


「私はちょっと……」


「おい」


 俺は男を見る。


「今、こっちに押し付けようとしただろ」


「してませんよ」


「顔がしてる」


「気のせいです」


 絶対に気のせいじゃない。


 俺はもう一つを見る。


『ゴゴゴ・ザ・シャイン』


 こっちも大概だ。


 シャイン。


 輝き。


 俺は無意識に自分の頭を触った。


「……」


 なんか嫌だ。


 ものすごく嫌な方向に想像できる。


「どうしました?」


「いや、何でもない」


 すると。


 無精髭の男が突然、俺の前で膝をついた。


「お願いします」


「……何してるんですか?」


 そのまま頭を下げる。


「フンノシエルを取ってください!」


「土下座!?」


「お願いします!」


「そこまで嫌なの!?」


 男は顔を上げた。


「嫌ですよ!」


 口調は丁寧なのに、目は本気だった。


「私、せっかく善行を認められて天使になったんですよ」


「俺もです」


「それなのに、これからずっと汚物扱いされるなんて耐えられません!」


「俺が取ったら、今度は俺が汚物扱いされるんだけど」


「そこを何とか!」


「何とかなる問題じゃないだろ!」


 男はさらに頭を下げた。


「絶対に名前を馬鹿にしませんから!」


「本当に?」


「誓います!」


「俺、現世でも名字のせいで散々いじられたんですよ」


「そうでしたね」


「御手洗うんことか言われて」


「……」


「何で黙るんだよ」


「いえ」


「今ちょっと笑いそうになっただろ」


「なってません」


「顔がなってる!」


 男は慌てて首を振った。


「とにかく、私は絶対に馬鹿にしません!」


「信用できねえな……」


「お願いします!」


 また頭を下げる。


 俺はため息をついた。


 もう一度、二つの名前を見る。


『ゴゴゴ・ザ・シャイン』


『フンノシエル』


 どちらかを選ばなきゃいけない。


 フンノシエルは意味が最悪。


 ただ、受付の話ではかなり珍しい特別な名前らしい。


 一方。


 ゴゴゴ・ザ・シャイン。


 俺はもう一度、自分の頭を撫でた。


 シャイン。


 輝く。


 こっちはこっちで、この頭には危険すぎる。


 だったら。


 少なくとも格がいいらしい方を取った方がましか。


「……分かりましたよ」


 男が勢いよく顔を上げた。


「本当ですか!?」


「俺がフンノシエルでいいです」


「ありがとうございます!」


「そんなに喜ぶなよ。傷つくだろ」


「すみません。でも、本当に助かりました」


 男は立ち上がると、俺の手を両手で握った。


「この恩は忘れません!」


「絶対に名前を馬鹿にするなよ」


「もちろんです!」


「本当だな?」


「本当です!」


 なんだか不安だった。


 俺たちは受付へ戻った。


「決まりました」


「はい。では、どちらがどちらです?」


 俺が答える。


「俺がフンノシエルです」


 男も続ける。


「私がゴゴゴ・ザ・シャインです」


 受付は二人を見比べた。


「分かりました。では、あなたがうんこで、あなたがハゲですね」


「違います!」


 俺たちは声をそろえた。


「あ」


 受付が少し困った顔をした。


「すみません。言い方を間違えました」


「言い方以前の問題だ!」


「失礼しました」


 受付は何事もなかったように手続きを進める。


「では、登録しますね」


 先に無精髭の男の右手が光った。


 手の甲に文字が浮かび上がる。


『ゴゴゴ・ザ・シャイン』


 黒い文字だった。


「登録完了です」


「……はい」


 男は複雑そうに自分の手を見る。


 次に俺の右手が光った。


 白い光が手の甲へ集まっていく。


 やがて、その光が銀色へ変わった。


「お?」


 俺は思わず声を漏らした。


 手の甲に文字が浮かぶ。


『フンノシエル』


 銀色だった。


 妙にきらきらしている。


 受付も少しだけ目を見開いた。


「やはりシエル級ですね」


「この銀色、何なんです?」


「シエル級の天使名は銀色で表示されます」


「黒よりいいんですか?」


「詳しい扱いについては、職業案内の担当から説明を受けてください」


「また管轄?」


「はい」


 徹底している。


 俺は銀色の文字をこすった。


 消えない。


「これ、変更できます?」


「できません」


 隣から声がする。


「改名は?」


「ありません」


「……」


「……」


 俺たちは自分の手を見る。


 黒い、


『ゴゴゴ・ザ・シャイン』


 銀色の、


『フンノシエル』


 確定してしまった。


 天国に来たはずだ。


 善行を認められて。


 天使になって。


 新しい名前まで授かった。


 なのに。


「……なんで罰を受けてる気分なんだろうな」


 俺が呟く。


 隣の男もうなずいた。


「私も同じことを考えていました」


 天使になって、まだ大して時間も経っていない。


 それなのに俺たちは、


 もう少し報われてもいいんじゃないかと思い始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。