↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んだおっさん、天使になる。~天界のお仕事、思ってたのと違います~  作者: 月欠けラムネ
第2章 天使のお仕事 【フンノシエル編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/31

第13話 忘れていた


 使者部門へ向かおうとしたところで。


「少々お待ちください」


「はい?」


 受付の天使が立ち止まった。


「フンノシエルさん。最上級天使様から、天冠を受けるように職場で言われていませんでしたか?」


「……天冠?」


「はい」


「……」


 どこかで聞いた。


 少し考える。


「あ」


 思い出した。


 レグエル課長だ。


 世界管理局へ配属された時、最上級天使と会う予定があると言われていた。


「そういえば……」


「一昨日が面会予定日だったはずですが」


「……一昨日」


 その頃の俺は、資料を覚えて、領域支配をして、また資料を渡されて、寝ることもできずに仕事をしていた。


「完全に忘れてた……」


「こちらにも確認の連絡が来ておりました」


「連絡?」


「はい。面会にいらっしゃらなかったので」


「……」


 どうやら俺は、最上級天使との約束をすっぽかしていたらしい。


「どうすればいいんです?」


「ちょうど今でしたら、お会いできます」


「今?」


「はい」


「後じゃ駄目ですか?」


 受付の天使が俺を見る。


「何か理由があるのですか?」


「いや……特には」


 本当は疲れている。


 三日近くまともに寝ていない。


 精神的にもかなり疲れている。


 最近は抜け毛もひどい。


 一度、自分の頭がどうなっているのか確認したい。


 それに今は、偉い天使と話したくなかった。


 絶対に気を遣う。


 何を話せばいいのか考えるのも面倒だ。


「今日じゃないと駄目ですか?」


「本日を逃しますと、次に面会できるのは明後日以降になります」


「明後日……」


「それまでは、使者部門への正式な案内もできません」


「え?」


「天冠を受けていただく必要がありますので」


「じゃあ、明後日まで俺はどうなるんです?」


「休まれるのでしたら、仮眠室をご利用いただけます」


「また仮眠室?」


「はい」


「……」


 世界管理局でも仮眠室。


 ここでも仮眠室。


 本当に俺の家はどこにあるんだ。


「……分かりました。今会います」


「ありがとうございます」


「あ、その前に」


「はい?」


「腹減ったんですけど、何か食べ物ってもらえません?」


「食事でしたら、あちらに天使用の食堂がございます」


「おお」


 俺は受付の天使が指した方向を見る。


 食堂。


 久しぶりに聞いた。


 まともな単語だ。


「そこで食べられるんですね?」


「はい」


「じゃあ食べてから――」


「料金は実費となります」


「……」


「どうされました?」


「俺、お金ない」


「……」


 受付の天使が俺を見る。


「無職の方ですものね」


「やめてください」


「家もありませんし」


 受付の天使は悪びれもなく続けた。


「やめてください」


「すみません。住所不定でしたね」


「言い直さなくていいですよ」


 余計に嫌な言い方になった。


「事実ですので」


「さっきから事実が刺さるんだよ」


 俺は食堂を見る。


「じゃあ、食い逃げは?」


「おやめください」


「冗談です」


「本当ですか?」


「……」


 受付の天使が、少し疑うような目で俺を見る。


 俺のことを何だと思ってるんだ。


「食い逃げなどをされますと、使者部門への案内どころではなくなります」


「そんなに?」


「天使としての資格について、再審査になる可能性があります」


「食い逃げ一回で!?」


「規則違反ですので」


「……やめときます」


「その方がよろしいかと」


「でも腹減ったんですけど」


「お水でしたら、そちらにございます」


「いくら?」


「無料です」


「水だけ?」


「はい」


「……」


 ここ数日、まともなものを食べていない。


 なのに身体は普通に動いている。


 腹は減る。


 でも倒れるわけでもない。


「やっぱり、食べなくても平気なんですか?」


「ええ、天使は食事をしなくても死にません」


「またそれかよ……」


 世界管理局でも聞いた。


 天使は死なない。


 だから大丈夫。


 どうやら天界では、大体これで全部済むらしい。


「それに」


 受付の天使が俺を見る。


「フンノシエルさんは、少しふくよかですので」


「……」


「多少食事を抜かれても問題ないかと」


「今、遠回しにデブって言った?」


「少しだけです」


「少しだけデブって何だよ」


「健康には問題ございません」


「余計なお世話だよ」


 結局、俺は食事を諦めた。


 無料の水だけ飲む。


「……うまい」


「ただのお水ですが」


「数日何も食ってない人間にはうまいんだよ」


「天使です」


「細かいな」


 水を飲み終える。


「では、参りましょうか」


「はい……」


 俺はもう一度、食堂の方を見る。


 絶対、給料をもらったらここで食べてやる。


 そう決めて、食堂の場所をしっかりと頭に叩き込んだ。


 腹は減ったまま。


 疲れも取れていない。


 頭の状態も確認できていない。


 それでも、最上級天使に会わないと次の仕事へ進めない。


 俺は受付の天使について歩いた。


 受付のさらに奥へ進む。


 普段使われている廊下を抜け、人の少ない通路へ入る。


「こんなところあったんですね」


「通常の配属手続きでは、こちらには来ません」


 しばらく進むと、大きな扉が見えてきた。


 白い扉。


 縁には金色の装飾が施されている。


「こちらです」


 受付の天使が扉の横に手を当てた。


 淡い光が広がる。


 ゆっくりと扉が開いた。


 その先にも、静かな通路が続いている。


「この先です」


「……はい」


 最上級天使。


 一昨日すっぽかした相手。


 正直、今すぐ帰りたい。


 帰る家はないけど。


 俺は受付の天使に案内されながら、特別な扉の向こうへ入っていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。