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死んだおっさん、天使になる。~天界のお仕事、思ってたのと違います~  作者: 月欠けラムネ
第2章 天使のお仕事 【フンノシエル編】

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第11話 辞表を置いて逃げました


 廊下を歩く。


 隣には一般天使。


 普通に走り出したところで。


 すぐに呼び止められる。


 誰か呼ばれて増える。


 だから、まだだ。


 トイレまで行く。


「こちらです」


「うん」


 入口に着いた。


 俺が中へ入ろうとすると。


 一般天使も、そのままついてこようとした。


「待った」


「はい?」


「ここからは一人でいい」


「ですが――」


「トイレくらい一人で入らせてくれ」


「すぐに済みますので、ご一緒いたします」


「俺もすぐ戻るから」


「ですが、課長代理――」


 一般天使が中へ入ろうとする。


「……入らないで」


「しかし」


「……」


 いつもなら、ここで押し切られていた。


 でも、今日だけは駄目だ。


 ここだけは。


「上級天使として命令します」


「……」


 一般天使の動きが止まった。


「ここで待ってて」


「……承知しました」


「すぐ戻るから」


「はい。お待ちしております」


 俺はトイレへ入った。


 扉を閉める。


「……」


 少し待つ。


 入ってくる気配はない。


「よし」


 急いで奥へ向かう。


 窓があった。


「……あった」


 窓を開け外を見る。


「……」


 高い。


 これは、かなり高い。


「そういえば……」


 ここへ来た時。


 階段を上った記憶がある。


 下を見る。


「……三階かよ」


 思っていたより高かった。


 普通なら。


 絶対に飛び降りない。


「……」


 でも、もういい。


 散々聞かされた。


 天使は死なない。


「……どうせ死なないんだろ」


 俺は窓枠へ足をかけた。


 もう一度、下を見る。


「……怖っ」


 やっぱり高い。


 でも、ここで戻ったら。


 また仕事だ。


 二百二十八時間。


「……そっちの方が怖いわ」


 俺は飛び降りた。


「うおおおおおおおっ!?」


 落ちる。


 思ったより速い。


 地面が一気に近づいてくる。


「そうだ、浮遊術!」


 訓練で習った。


 落ちる時。


 地面へぶつかる前に。


 浮遊術で身体を受け止める。


「止まれ……!」


 なんとか精神を集中する。


 身体が。


 ふわっ。


 ほんの少しだけ軽くなった。


「おっ――」


 でも止まらない。


「足りねえええええっ!」


 ドンッ!!


「――――っ!!」


 地面に叩きつけられた。


「いっっっったぁぁぁぁぁ!!」


 全身に痛みが走る。


 でも思っていたほどじゃない。


「……っ、浮遊術……習っててよかった……」


 完全には止まれなかった。


 それでも。


 何もしないで三階から落ちるよりは。


 だいぶマシだったはずだ。


「痛いけど!」


 死なない。


 骨も折れていない。


 血も出ていない。


 ただものすごく痛い。


 まさか、あの飛行訓練が会社から逃げるために役立つとは思わなかった。


「……っ!」


 ここで転がっている場合じゃない。


 俺は痛む身体を無理やり起こした。


 その時。


「課長代理!」


「……!」


 上から声がした。


 顔を上げる。


 三階。


 さっき飛び降りたトイレの窓から。


 俺についてきていた一般天使が顔を出していた。


「課長代理! 何でそんなところに!」


「……」


 見つかった。


「課長代理ー!」


 もう一度。


 声が響く。


「……知らん!」


 俺は走り出した。


「課長代理! 待ってください!」


 待つわけがない。


 全身が痛い。


 走るたびに。


 地面へぶつけたところがズキズキする。


 それでも止まらない。


「課長代理ー!」


 その声を背中に聞きながら。


 俺は走った。


 世界管理局から離れる。


 少しでも遠くへ。


 もっと遠くへ。


「はあ……はあ……」


 身体は痛い。


 息も切れる。


 でも、戻るよりは。


 ずっといい。


 しばらく走って。


 ようやく振り返った。


 世界管理局が遠くに見える。


「……」


 数日前。


 俺はあそこへ期待して入った。


 世界を管理する仕事。


 上級天使。


 課長代理。


 なんとなく、格好いいと思っていた。


 それが三日目。


 三階のトイレから飛び降りて逃げた。


「……何やってんだ、俺」


 何も考えずに仕事を選んだ結果がこれだ。

 

 今思えば、馬鹿な仕事を選んだ。


 だから、もうあの場所に戻りたいとは。


 まったく思わなかった。


「もう二度とやらねえ……」


 辞表は残してきた。

 

 天使札も残してきた。


 あとは知らない。


 こうして。


 俺の世界管理の仕事は終わった。


 短かった。


 でも。


 人生で一番長く感じる数日だった。


 そして俺には。


 もう一度だけ。


 自分で仕事を選ぶ権利がある。


「……次こそ」


 今度こそ絶対に。


「ちゃんと休める仕事にしよう……」


 俺は心の底から、そう誓った。



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